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ひよこ、亀のおじいちゃんにかわいがられる




「――なるほど、ヒヨコは元聖女で、陛下の眷属なのか。それが実際はデュセルバート様と聖神の核から生み出された次代の神の子だったと」

「そゆこと。うちの子かわいいでしょ~!」


 遠慮なく私を自慢する父様。


「ええ、とてもいですな。人型はどんな姿なので?」

「人型もそれはもうかわいいよ。今は見せてあげられないんだけど」

「ん? なぜです?」


 玄武さんに尋ねられた父様は、私がひよこから戻れなくなってしまったことを話した。抱っこ紐の中にいる私の頭を指でよしよしと撫でながら。


「――なるほど、意識がひよこに傾きすぎたのですな。まあ、赤子にはよくあることです。過敏になりすぎず、普通に過ごすのが一番ですな」

「ゼビスと同じ結論ってわけね」

「おお、ゼビスとも久しく会ってないですなぁ」


 のんびりと言う玄武さん。

 そりゃあ、百年もここから動いてなかったらそうだろうな……。


「だから、ドラゴンの子もそこまで心配をすることはないぞ。どこかが悪いわけではないから、ずっと懐に抱え込んでおかなくとも大丈夫だ」


 さっきから、玄武さんの視線がチラチラと私の入っている抱っこ紐に向いている。

 老老介護ならぬ幼幼育児状態だもんね。


「そういえば、子どものドラゴンも久々に見たのう。ゼビスの……いや、年頃からしてあやつの孫のオルビスの子かの?」

「いや、違う。こいつはダンジョンから生まれたんだ」

「ほう、珍しいのう。この子の名前はなんというんだ?」

「リュウだ」

「ほう、ドラゴンだからリュウか。ヒヨコといい、近年は分かりやすい名付けが流行っておるのかのう」


 ……いや、流行ってはいないんじゃないかな?

 魔王の名付けに関しては事故みたいなものだし。こんな命名法が流行ってたら同じ名前の人だらけになっちゃうよ。『ヒト』とか『マゾク』って名前の人が溢れちゃうんじゃないかな。


「ところで、この子達はなぜ園長殿と一緒にいるのだ?」

「職場体験中でな、園長殿の出張に同行させてもらってんだ」


 白虎さんが答えると、これまで穏やかな顔をしていた玄武さんが怪訝そうな表情になった。


「こんな小さなうちから職場体験か? 英才教育もいいが、ほどほどにせんと……」

「こっちにも事情があんだよ」


 玄武さんのお小言が始まりそうな気配がしたのか、白虎さんが慌てて話を遮る。

 それからは職場体験をすることになった経緯を白虎さんが説明し、玄武さんは大人しくそれに耳を傾けていた。


「――ってことだ、分かったかじじい」

「なるほど、儂が早とちりをしていたようだのう。……そうか、リュウは自分のダンジョンに動物園を作りたいのか……」

「うん」


 コクリと頷くリュウを見て玄武さんが目尻を下げる。


「そうかそうか、そんなに小さなうちから目標があるのは見上げたものだ。動物はどうするのだ?」

「モンスター、うみだす」

「それはよいのう、非戦闘職の者はダンジョン内の生き物を見る機会はないだろうし、その道の研究者達もこぞって訪れてくるだろう」


 うむうむと頷きながら話す玄武さん。

 その手はリュウの頭を撫でたそうにうごうごしていたけど、あまりの体格差に潰してしまうと思ったのか我慢をしていた。例え玄武さんの指先だけだったとしても私達よりも大きいからね。

 小さいのに見上げたものだの~と微笑んでいた玄武さんだけど、ふと何かを思いついたように動きを止めた。


「――リュウ、物は相談なのだが、我の背中に住み着いた動植物たちをそなたのダンジョンで引き取ってはくれぬか?」

「? どゆ……こと?」


 ゆったりと首を傾げるリュウ。

 

「さっきもちらっと言ったが、儂の背中の上にはいつの間にか植物が生えて動物が住み着いてしまってのう。それだけならばよかったのだが、儂の甲羅から漏れ出る魔力の影響を受けたのか多少特殊な進化をしておってな。園長に調べてもらったところ、ある程度魔力のある場所でないと弱ってしまうようなのだ」


 なるほど、そういう事情もあって玄武さんは動けないでいたんだね。


「知性のある魔族を生んだ高難易度ダンジョンならば魔力も潤沢だろう。リュウがよければ引き取ってくれぬか?」

「いいよ」

「軽っ!! お前なぁ、そういう大事なことはもう少し時間をかけるもんだぞ」


 即答したリュウに、白虎さんが忠告する。

 ふむふむとみんなの話に耳を傾けていると、お尻にカサリとしたものが当たった。

 あ、そういえば抱っこ紐の中にお菓子を忍ばせてたんだった! 食べちゃおっと。


「そう? ……じゃあ、あとでいいよっていう」

「時間をかけるってそういうことじゃないんだが……まあいいか。リュウのダンジョンのスペースは余りまくってるしな、植物はともかく、動物は余裕で受け入れられるだろう」

「うむ、それで構わない。手間をかけるがよろしく頼む」


 ん? こっそりお菓子を食べてたら、いつの間にか話が纏まったみたいだね。

 

「園長殿、そういうことだ」

「ええ! しかと聞いておりましたわ! 動物ちゃん達の受け入れ先が決まってよかったです! 玄武様もようやく動けますわね」

「うむ、園長殿にも色々と世話をかけたのう」

「趣味もかねてますので。それじゃあ、私は定期調査に行って参りますわね」


 そう言いながら、ロビンさんはワクワクした様子で玄武さんの背中を見上げる。趣味もかねているという言葉に嘘偽りはなさそうな姿だ。

 それから、ロビンさんは私達の方を振り返った。


「私は玄武様の上に住み着いた動物達の定期調査をしてくるから、二人は休憩していてちょうだい」

「は~い」

「……はい」


 私達が返事をすると、ロビンさんはスキップをしそうな足取り――というか、もはやスキップをしながら玄武さんの背中に向かっていった。

 いいなぁ……。

 ……あ、そうだ!

 キョロキョロと周りを見た私は、抱っこ紐の中からぴょこんと飛び降りた。


「あ」


 私をキャッチしようとするリュウの手をすり抜け、ぴよっと着地する。そして、ぴぴぴっと玄武さんの眼前に歩み寄った。


「げんぶさんげんぶさん」

「おおヒヨコ、どうしたのだ?」


 話しかければ、慈しむような優しい声が返ってくる。 


「ロビンさんをまってるあいだ、せなかのうえであそんでもいい?」

「もちろんだ。儂の背中は広大ゆえ、中々駆け回り甲斐があるぞ。天辺まで行ってみるもよし、追いかけっこをするもよしじゃ」

「やったぁ!」


 玄武さんの許可を得た私は、ぴぴぴっとリュウのところに戻る。


「リュウ! あそぼ!」

「……うん」


 少し逡巡した様子のリュウだったけど、結果的には私と遊んでくれるらしい。

 玄武さんにも心配しなくていいよって言われたからかな。



 それからロビンさんの調査が終わるまでの間、私はリュウやそこにいた動物達と一緒に玄武さんの背中を駆けずり回った。








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