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ひよこ、キャストになる




 熊猫と遊び、ごはんをあげて住処の掃除をした私達を待ち構えていたのはシュヴァルツだった。

 ベンチで待っていたシュヴァルツは、ブランケットを広げて構えている。


「どしたの?」

「あの子達ははしゃぎすぎるだろうから、一時間に十分は休憩させるように陛下から言われております」

「ヒヨコ、まだいけるよ?」

「おれも」

「そう言って抵抗された時には強制で休ませるようにお達しです」


 そう言うと、シュヴァルツは私とリュウをブランケットで包み、一纏めに抱き上げ――ようとしたけどできなかった。

 そして、シュヴァルツはそのまま地面に項垂れる。


「ぐぅ……筋力……」


 シュヴァルツ、筋肉ないもんね……。






「――あ! あれもしかしてヒヨコ様とリュウ様じゃない?」

「ほんとだ! バスケットの中に入ってるのかわい~!」


 私とリュウはそれぞれひよことドラゴンの姿をとり、ふわふわのタオルが敷かれたバスケットに収まっている。そして、私達が入っているバスケットはシュヴァルツが大切そうに抱えながら歩いていた。

 せめて移動時は私達赤ちゃんズを休ませるように魔王から言われたようだ。さすが魔王、落とし所が分かってるね。

 来場者の人達も私達に気付き、みんな手を振ったりと好意的な反応をくれる。だけど、一番熱心な視線を送ってくるのはシュヴァルツの隣を歩くロビンさんだった。


「……か、かわいすぎる……この世の幸福だわ……。まさか、ひよこと子ドラゴンが仲良くしている姿を拝める日がくるなんて……」


 あ、普通は被食者と捕食者の関係だもんね。


「リュウ、ヒヨコのことたべようとはおもわないの?」

「? ふつうのごはんのほうが、おいしい……。それに、ヒヨコかわいい、すき。たべたら、なくなる」

「なるほど」


 そもそも、リュウも私も野生動物とは違うもんね。食べられちゃうかもなんて心配する必要は全くないのだ。


「一つのバスケットに二人で入っている姿もかわいすぎるわ……!! んもぅっ! 食べちゃいたい!」

「召し上がるのはご遠慮ください」

「……冗談よ。例えに決まってるじゃない」

「そうですか。それはよかったです」


 よかったよかった、と生真面目に頷くシュヴァルツ。私のお世話係は少し天然なところがあるから、ロビンさんもペースを乱されてしまっているようだ。

 奇抜な見た目をしているけど、中身は結構まともな人っぽいからね。

 そんなロビンさんはコホンと一つ咳払いをして気を取り直す。


「そういえば、この後は魔界ペンギン達のショーがあるのよ」

「しょー?」

「ええ、観客の前でいろんな芸を披露するの。二人にもお手伝いをしてもらおうと思うのだけど、どうかしら」

「うん! ヒヨコもでる!」

「おれも……」

「出る……? ええと、ショーに出たいの?」


 ロビンさんが少し困惑したように私達に聞き返してくる。


「? そういうはなしじゃなかったの?」

「いえ、裏方の方を少し手伝ってもらおうと思ってたんだけど……ヒヨコちゃん達がショーに出たいというなら願ってもない話だわ。ただ、保護者の方の意向的にはどうなのかしら?」

「ヒヨコ様達がやりたがっていることは止めないようにと言われています。私としても、ヒヨコ様達が裏方で終わりなのは少々もったいないと思いますし、ヒヨコ様の偉大なお姿を人々に見せたい気持ちはあります」


 シュヴァルツの言葉を受け、私とロビンさんは顔を見合わせた。ロビンさんの瞳には、ちんまりと籠の中に入っているひよこが映っている。


「彼にはヒヨコちゃんのことが鳳凰にでも見えているのかしら?」

「ううん、ちゃんとひよこにみえてるよ。ただ、シュヴァルツはヒヨコのことをちょっぴりしんこう(信仰)してるから」


 なんてったって、ヒヨコの信者第一号だし。






 なにはともあれ、私達はショーを行うための専用ステージに移動した。

 そこには岩場を模した陸地と、巨大なガラスの水槽がある。そして、丸い水槽を囲むようにグルリと観客席が設置されていた。開演まではまだ時間があるけど、すでに前の方の席には人が座っている。いい席を確保するために早く来たんだろう。

 今日ショーを披露するのは魔界コウテイペンギンの方らしい。オウサマペンギンとコウテイペンギンを一緒にすると争い事が始まるから、ショーもそれぞれ別の日とか別の時間帯にやるんだって。

 ペンギンたちはとても懐が深く、ひよことドラゴンが混ざるとなっても快く受け入れてくれた。


 ペンギンたちに混ざり私もぴっぴとストレッチをする。

 ひよこの体でストレッチが必要なのかは分からないけど、こういうのは気分だ。

 真面目に準備運動に取り組んでいると、観客席で見守ってくれているシュヴァルツから微笑ましげな視線を感じる。


「クェ~?」

「ぴっぴ」


 両翼をグルグル回していると、隣のペンギンが「大丈夫か?」と私の頭の辺りを啄んでくる。なので、私も大丈夫だよ! と鳴き返しておいた。


 ストレッチの最後に深呼吸をすれば、準備体操は完了だ。


 よし、準備万端だよ!









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― 新着の感想 ―
そういえばヒヨコの信者1号はシュバルツ君でしたね 今の信者は何号までいるんでしょうね?(◔‿◔)
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