ひよこ、熊猫を発見する
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初日は時間がなくなってしまったので、一部の動物にごはんをあげるだけで終わってしまった。
なので、本格的に職場体験を開始するのは今日からである。
「いってきます!」
「ああ、いってらっしゃい」
「気をつけるんだよ」
今日は魔王と父様は一緒じゃないけど、お目付役兼お世話係としてシュヴァルツがついてきてくれる。
「ロビンさんおはよう!」
「おはよう」
動物園に行き、出迎えてくれたロビンさんに元気よく挨拶をする。
「おはよう二人とも。今日もキュートね!! ふくふくとしたほっぺたがハムスターそっくりよ!」
独特の褒め方をしてくれるロビンさん。
それから、シュヴァルツも軽くロビンさんと挨拶をする。
ロビンさんに連れられて入場ゲートの方へと進むと、開園前にも関わらず、既にズラリと列ができていた。
「もうならんでる……! にんきなんだねぇ」
「まあ、うちは人気の動物園だけれど普段はここまで並んでないわよ」
「そうなの?」
「ええ。ここに並んでる人達がほとんど、二人が職場体験をしているという話を聞きつけてやってきたのよ」
ぴぃ?
なんとなんと。もうそんなに噂が回ってるのか。
というか、わざわざヒヨコ達を見に来たの?
「みんな、おひまなの?」
「そうよ。魔族は無駄に寿命が長いから、常に目新しい刺激を求めているの。ヒヨコちゃん達なんてその筆頭よ」
「ほうほう」
「だから、申し訳ないのだけれどヒヨコちゃん達が作業している時は観客がたくさんいると思うわ」
「ぜんぜんいいよ!」
ヒヨコってば、注目を浴びることは別に嫌じゃないし。
というか、みんな動物を見に来てるんじゃないんだ。……いや、ヒヨコ達も一種の動物だね。
「だから、ヒヨコちゃん達には主に魔界固有の動物の方を担当してもらうことになると思うわ。あの子達は肝が座ってるから、多少騒がしいくらいじゃあ気にしないもの」
「わかった!」
「わかった……」
リュウと揃ってコクコクと頷く。
すると、ロビンさんの動きがピタリと止まった。
「なにこの素直でかわいい子達……食べちゃいたいわ……」
「この子達は食用じゃないのでご遠慮ください」
ロビンさんの比喩表現に対し、シュヴァルツが生真面目に断りを入れる。
シュヴァルツの表現の方が怖いよ……。
それから、私達は最初にお世話をする動物の住処へと足を運んだ。
するとそこには、これまで見た事のない動物がいた。
「あれはなに?」
この前は見なかった動物だ。
「熊猫よ」
「……パンダじゃなくて、くまねこ?」
「そう」
熊猫は、ずんぐりむっくりとした巨大な猫ちゃんといった感じの出で立ちだ。小さめのクマくらいの大きさで、顔立ちや耳の形はまんま猫だけどパンダと同じ白黒の柄をしている。
うん、一度で二度おいしいみたいな動物だね。
「白虎ににてる……」
「同じネコ科だからかしらねぇ」
熊猫ってネコ科に分類されるんだ。クマよりも猫成分の方が強いからかな。
「住処の掃除と毛繕い、あとはごはんをあげるわ」
「わかった!」
まずはお掃除からだ。シュヴァルツはただのお目付役なので、端っこの方で私達を見守ってくれている。シュヴァルツはドジっ子なので、下手に手は出さずお世話係に徹するということで話がついているらしい。
うーん、否定できない。
熊猫は木登りもするし笹も食べるらしく、そこかしこに木や笹が生えている。そして、猫らしくじゃれたりもするそうで、毛糸でできたボールのおもちゃなんかも転がっていた。かなり使い込まれたようで、ほぼ原型を留めてないけど。
「あら、これはもうダメね。捨てて新しいのを買わないと……」
毛糸もほつれ、中の綿が出てしまっているおもちゃをロビンさんが手に取る。
「ヒヨコ、なおせるよ」
「え?」
私はロビンさんが手に持っている、かつておもちゃだったものに手をかざした。
『修復』
私の手から白い光が発された次の瞬間、ロビンさんの手には毛糸でできた真新しいおもちゃが載っていた。原型はこんな感じだったんだね。
さっきまではかなりくすんで見えたけど、元々はこんな鮮やかな緑色だったんだ。
おもちゃを手に取り眺めていると、眠っていた熊猫がムクリと顔を上げた。
「グルゥ?」
鳴き声は猫でも熊でもなく虎っぽいんだ……。
魔界の生き物は不思議がいっぱいだね。
熊猫はのっそのっそとこちらに歩いてくると、私の手の中にあるボールにスンスンと鼻を近付ける。
「くまねこ、あそびたいの?」
「ガウ」
「ボールなげる?」
「ギャウ」
おお、心なしか甘えた鳴き声になった。遊びたいのか。
えいっとボールを投げてあげると、熊猫がものすごい勢いで駆け出した。迫力がすごいね。ゴウッって音がしたよ。
ボールに追いつくと、熊猫はそれを鋭い牙でガブガブとかじり始めた。
どうしてあんな無残な姿になってたのか分かったよ。
大興奮の熊猫は、ボールを咥えたままギャウギャウと地面を激しく転がり回る。すると、その拍子に口からボールがこぼれ落ち、コロコロとリュウの足元に転がっていった。
「――あ! リュウ君! それを拾っちゃダメよ!!」
「?」
ロビンさんの忠告はあと一歩間に合わず、リュウはボールを手に取ってしまう。そして、そのボールめがけて熊猫がものすごい勢いで走り出した。
このままじゃあリュウに激突する――
「リュウ君!!」
――そう思った瞬間、リュウはボールをひょいっと投げ出した。そしていともたやすく、熊猫をひょいっと持ち上げる。
「…………へ?」
「なんか、じゃれてきた。なつかれてる……?」
頭の上に熊猫を担ぎながらコテンと首を傾げるリュウ。
ロビンさんはその様子を見て、これ以上ないくらい目を見開いていた。
「り、リュウ君は力持ちなのねぇ……。……この子、二百キロくらいあるんだけど……」
「このくらい、かるいもの……」
「……すっげ」
ロビンさん、ビックリしすぎて素が出てるよ。





