ひよこ、ペンギンが王冠を貸してくれる
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「あの子達もごはんがまだだから、ついでにあげていっちゃいましょう」
「あげる!」
ペンギン達の生息エリアに足を踏み入れると、一瞬にして数羽のペンギン達に囲まれた。
あれ? 思ったよりも小さい……? 普通のペンギンと同じくらいのサイズだ……。
「ふつうのおおきさだな……」
おなじことをおもったようで、リュウがボソリと呟く。
「ああ、その子達はまだ子どもだもの。大人のペンギンはこっち」
ロビンさんが手招きすると、さらに数羽のペンギン達がペタペタとこちらにやってくる。そしてペンギン達が近付いてくるにつれ、その大きさがハッキリと見えてくる。
「……わぁ、おっきいねぇ」
こっちは……王冠の形的にオウサマペンギンかな。魔界オウサマペンギンは私達よりも頭一つ分くらい身長が高かった。
しかも、カンガルーと同様になんだか凜々しい顔立ちをしている。
胸を張った威厳のある姿は、まさに王様といった出で立ちだ。
「ペンギンさん、かわいいねぇ」
すごくキリッとしたペンギン達だけど、やっぱり丸っとしたフォルムはかわいらしくもあった。
「クアー!」
「!?」
ニコニコとペンギン達を眺めていると、突如目の前のペンギンが鳴き声を上げてバッと両翼を広げた。
なんだなんだ?
ギョッとしたものの、この動作は私もよくするので何が言いたいかは通訳がなくても分かる。
つまりはこういうことだろ!
「えい!」
私は目の前のペンギンにむぎゅっと抱きついた。
両腕を広げる――それは即ちハグの合図だ。
「クアー!!」
むぎゅっと抱きつくと、ペンギンが嬉しそうに瞳を輝かせ、高らかに鳴いた。とても嬉しそうな様子から、私の行動が間違っていなかったことを悟る。
「魔王! 写真写真!」
「もうとっくに撮ってる」
パシャシャシャシャッと連写される音を聞きながら、私はペンギンの触り心地を堪能した。
思ったよりふかふかはしてないんだね。水の中を泳ぐからかな。ひよこの毛とは全然違うや。
むぎゅむぎゅとペンギンを抱きしめる隣では、リュウも他のペンギンとハグをしていた。
「ぬくい……」
分かる、温かいよね。
「ペンギンさん、そのおうかんかっこいいね」
「クェ?」
これ? とペンギンさんが自分の王冠を羽で指す。
「そうそう、それそれ。ほんとうのおうさまみたいでかっこいい」
そう言うと、ペンギンさんは満更でもないようでデレデレと体をくねらせる。だけど、すぐに何かを思いついたように動きをとめ、ピコンと上を向いた。それから、私の方を見て首を傾げる。
「クェ?」
「ん?」
「クェ?」
なんだろう……何かを尋ねられてるっぽいんだけど全く分からない……。私にはまだ異種族コミュニケーションは早かったようだ。
疑問形なので、とりあえず「うん」と言って頷いておく。
すると、ペンギンは「そうかそうか」と言わんばかりに頷いた後、頭上に片翼をもっていき――
「え」
「クェッ」
自分の王冠をスポッと取った。そして、取った王冠を私の頭の上に載せてくれる。
あ、この王冠被ってみる? ってことだったんだ。
せっかくだしこの姿も写真に撮ってもらおうと魔王達の方を振り返ろうとすると、その前にロビンさんの驚愕の表情が目に飛び込んできた。
両頬を手で挟み、これ以上ないくらい口が縦に開いている。
「あ、あんたたちそれ取れたのーーー!?」
ロビンさんの絶叫が辺りに響き渡る。
「……ぴぃ?」
どうやら、魔界オウサマペンギンが王冠を取ったのは開園以来初めてのことらしく、すぐに色んな人達が駆けつけては代わる代わる驚愕の表情を披露していった。
今までは体の一部だと思われていたため、王冠が取れるとは思っていなかったそうだ。
色々と謎の多い生き物なんだと。
「おうさまだから、ミステリアスなんだねぇ」
「クェー」
王冠を貸してくれたペンギンさんと顔を見合わせる。
すると、リュウがこちらにテコテコと歩いて来た。
「ヒヨコ、おうかんにあう。かわい……」
「えへへ、ありがと」
ヒヨコの頭には少し大きい王冠のズレを直しながら、リュウにお礼を言う。
「――うちの子かわいい~! 魔王、城に使ってない王冠とかなかったっけ?」
「宝物庫を探せばいくらでも出てくるぞ。ヒヨコはティアラとかも似合いそうだな」
「デュセルバート様、陛下、多分今はそんなのんきなこと言ってる場合じゃないですよ」
研究者らしき人がゾロゾロと駆けつけてくる中でも、父様達の親バカは普段通りだった。さすが、二人とも長生きなだけあって動じないね。
そしてオウサマペンギン達もその名に恥じぬ肝の据わり方をしているらしく、にわかに周囲が慌ただしくなっても全く動じることはなかった。
ペンギンゾーンで予想外に時間を使ってしまったため、見学はそこそこに飼育員体験に移ることになった。
「やるぞー!」
「やるぞ……!」
むんっとやる気を出す私達を大人組が温かい目で見守ってくれる。
今日は二人揃ってオーバーオールを着ているし、飼育員をやる気満々で来ているのだ。
すると、魔王がロビンさんに声をかけた。
「園長すまないな、向こうはなんとかなりそうか?」
「大丈夫ですわ。研究員達がはしゃいでるだけですから」
貸してくれたペンギンさんに王冠を返却すると、そのまま何事もなかったようにかぶり直していた。やっぱり着脱可能だったんだろう。
私的には着脱できるんだね~くらいの感想だったんだけど、駆けつけてきた白衣の集団はその様子を固唾を呑んで観察していた。魔界ペンギン研究部門的には世紀の発見だったんだろう。
「もしかしたら職場体験の間、こんな感じで迷惑をかけることもあるかもしれないが――」
魔王がそう言いかけた時、ロビンさんがクワッと目を見開いて魔王の言葉を遮った。
「何を仰っておりますの!? 迷惑なんてありえませんわ! ヒヨコちゃんとリュウ君がいることで動物ちゃん達の新たな面が見えるんですのよ!? 一生いてほしいくらいですわ!!」
熱弁するロビンさんに気圧されたように少し仰け反る魔王。だけど、すぐに冷静さを取り戻していた。
「……そ、そうか。だが、職場体験は期間限定だぞ」
「……そうですか、残念です。まあヒヨコちゃん達はまだ小鳥ですものね、大人になるまでは親鳥の懐にいた方がいいですわ」
「親鳥……」
親鳥と評された魔王は、嬉しそうな、だけどどうなんだ? と言いたげな絶妙な表情をしていた。
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