ひよこ、騎士さんの相手をする
私を撫でていた騎士さんの一人が私を摘まんで持ち上げた。そしてそのまま騎士の殻に覆われている団長さんの元に私を連れていく。
「おい何してんだリック! 団長にトラウマを近付けるんじゃねーよ!!」
「え~? でも聖女が魔王様の眷属になったからにはいつかは和解しないとでしょ? それに団長動物好きだし」
ほらどいてどいてと団長さんを覆っている人達をどかしていくリックさん。
「ほら団長、こわくないですよ~」
「お前……」
ギロリとリックさんを睨む団長さん。
「結局聖女は誰も殺しませんでしたし、この子も被害者だって団長も分かってるでしょう?」
「……そんなことお前に言われずとも分かってる」
「じゃあかわいいひよこちゃんを撫でて和解できますよね」
調子に乗るリックさん。団長さんめちゃめちゃ睨んでるよ? 後で怒られるんじゃない?
団長さんの顔が見えてないのか見てないのか、リックさんはズイッと私を突き出した。
「ほら団長、かわいくないですか?」
「……かわいい」
素直だな団長さん。ほんとに動物好きなんだね。
団長さんが腹をくくって人差し指をこちらに近付けてくる。少し……どころかかなりブルブル震えてるけど。
団長さんの人差し指がそっと私のふわ毛に触れる。
「……ふわふわだな」
「ぴ」
やっぱり団長さんも一度触れば大丈夫だと分かってくれたらしい。そっと私を摘まんで手のひらの上に乗せてくれた。固くて大きな手のひらに私の足が付く。
「かわいい……」
おお、震えが止んだ。恐怖よりひよこのかわいさが勝ったみたい。
これは……和解できたのでは……!?
「ぴぴ!」
「かわいい……」
「団長! ひよこを懐に仕舞わないでください!!」
ひよこはお持ち帰り可じゃないよ。両羽を動かして団長さんの懐から出る。
「ぴ」
「ダメですよ団長。ひよこは魔王様の眷属なんですから。大層かわいがってるって噂ですよ」
「む、そうか」
お持ち帰りは諦めてくれたみたい。
「そういえば、今日は何をしに来たんだ? 俺達のことは忘れていたようだが何か用があったのか?」
あ、忘れてたことちょっと根に持ってるね。
「ぴぴ! (くんれんみにきた!)」
「?」
「??」
あ、そっか、まだ言葉が通じないんだった。今は通訳係の魔王もいないし。
「ぴぴっ」
「お、なんか書き始めた」
仕方がないので、地面に足で文字を書いて訓練を見に来たことを伝えることにした。
騎士さん達にジッと見つめられつつ、文字を書き進める。
『く』
「く? 苦しめに来たとか?」
騎士の誰かが呟いた。
「ぴ……」
私をなんだと思ってるの。和解ムードだけど誤解は解けてなかったか……。
『ん』
「くん……燻製にしてやろうか?」
「ピィッ!!!」
ちょっと静かにしてて!
怒りを込めて鳴くと、私をからかっていた騎士さんが仰け反った。
「うわっ! 怒ったぞ!」
「今のは完全にお前が悪い」
ごもっとも。
からかってきていた騎士さんが静かになったので、文字を書くことに集中する。
団長さんが地面に書かれた文字を読み取る。
「『くんれんみにきた』?」
「! ぴ! (そー!)」
ちゃんと伝わったことが嬉しくてぴよぴよ鳴く。
「みにきたってのは純粋に見物しにきたのか、訓練の相手をしに来たのかどっちだ?」
若干顔色の悪くなった団長さんが尋ねてくる。普通に見物しにきたつもりだったけど、今日はおでかけもできなかったから訓練の相手をしてもらうのもありだな。でも騎士さん達のトラウマになってるみたいだし……。
少し考えた後、私は地面に『どっちでもいいよ』と書いた。すると場がにわかにざわつく。
「最凶の聖女が訓練に協力してくれるのか?」
「願ってもないことだな」
お? 案外好感触? 人間の騎士団では一切訓練に参加させてもらえなかったけど。魔族の騎士さんは結構脳筋なのかな。
そんなことを考えてたら団長さんからジトリとした視線を向けられた。
「おいひよこ、今ちょっと失礼なこと考えただろ」
ギクリ。
「ぴ?」
言葉が通じないのをいいことに首を傾げて誤魔化す。話せてたら絶対バレてたよ。嘘吐くの苦手なんだよね。
ひよこの可愛さに誤魔化されてくれたのか、団長さんは追及しないでくれた。
「じゃあとりあえずお試しで訓練の相手をお願いしてもいいか?」
「ぴ! (もちろん!)」
腕が鳴るね!
訓練場のど真ん中に置かれる。
「ぴ」
団長さんを見上げると、なんか微妙な顔をしてた。
「う~ん。いくら中身はあの聖女でも、ひよこに攻撃をするのは罪悪感があるな……」
別にそんなこと気にしなくていいのに。どんとこいだよ!
「ぴぴ!」
「気にしないでどんとこいって感じだな」
「ぴ!」
うんうんと頷く。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか。ここに旗を刺しておくから、ひよこはこの旗を俺達から防衛してくれるか?」
「ぴ! (わかった!)」
私は防衛戦をすればいいんだね。
制限時間が終わるまで一度も旗に触られなかったら私の勝ち、誰かしらが旗にちょっとでも触れれば騎士さん達の勝ちというルールだ。
私がちょっと不利な気がするけど、これくらいが燃えるよね!
そして騎士さん達が準備を終えると、試合開始を知らせる笛がピーっと鳴った。