ひよこ、動物園で職場体験を開始する!
「――ところで、その素敵なお召し物もデュセルバート様方が用意したのかしらん?」
園長さんの視線が私とリュウの着ているオーバーオールに移る。
「そうだよ! とうさまたちがこのひのためにつくってくれたの」
両腕を広げ、ロビンさんの前でクルンと一回転する。
「んんっ、なんたる親バカロイヤルファミリー。二人とも、とってもかわいいわ……! ソーキュートよ!!」
「えへへ、ありがと」
「ありがと……」
私とリュウが素直にお礼を口にすると、ロビンさんが胸元を押さえた。
「このかわいいを素直に享受する感じ、普段の愛され感が如実に現れてていいわ。いえ、子どもだからかしら」
「どっちもかな」
父様はそう言うと、お礼を言えて偉いねと私の頭を撫でた。
「――じゃあ、さっそく職場体験にいってみましょうか!! お子様達はお預かりいたしますわね――と言いたいところですが、保護者の皆様も最初はついてきてあげてください。子ども達も保護者の皆様も不安でしょうから」
「事前にそう打診してくれたけど、本当にいいのかい? それじゃあ君もやりづらいだろう」
ロビンさんの申し出に、父様が聞き返す。
「確かに多少緊張はしますが、業務には何も支障ありませんわ。むしろ、人の赤ちゃん達をお預かりするのは初めてですから、いてくださった方がありがたいです。それに、初めての動物を見る子どものリアクションを見逃すのは損ですわよ」
ロビンさんの言葉に、保護者三人組がハッとなる。
そして、魔王が即座に口を開いた。
「ぜひ同行させてもらおう」
「むしろこちらからお願いする」
「記録用の魔道具を構えていてもいいかな?」
順に魔王、白虎さん、父様の発言である。
というか父様、ちゃっかり記録用の魔道具持ってきてたんだね。あ、魔王と白虎さんも持ってるや。
「もちろんですわ! 子ども達と動物のかわいいシーンを存分に記録にお残しください! それじゃあ、さっそく園の中に入って行きましょう。まずは構造を知ってもらうためにぐるっと一周するから、お客さん目線で楽しんでちょうだい! さあ、いきましょう!」
「おー!!」
「おー……」
やる気満々で進んでいくロビンさんの後ろを、私とリュウもついて行こうと足を踏み出す。
ぴよぴよ
きゅきゅっ
「「「「グハッ!!」」」」
私達が歩き出したと同時にかわいらしい鳴き声が聞こえたかと思えば、大人達が一斉に吹き出した。
「完全に靴の音のことを失念してたよ」
「忘れた頃にくるこの破壊力やばいっすね」
「我ながら恐ろしいものを作り出してしまったようだな……」
真面目な表情で私達の足元を見る保護者ズ。そんなに深刻な顔しなくても。
そう思った私だけど、一番深刻そうな反応をしていたのはロビンさんだった。
ロビンさんは真顔のまま腰を大きく反らし、手を使わないブリッジのような体勢を取っている。
「ロビンさん、なにしてるの?」
「衝撃すぎて思わずこんな格好になっちゃったのよ」
ロビンさんは、そのまま手を使わずに立ち上がる。すごい腹筋だね。
「陛下、これはダメです。かわいすぎます。是非世の中に普及させましょう」
「そのつもりだ」
そのつもりなんだ。
それから私達は気を取り直し、動物園の中へと進み始めた。
私達が一歩踏み出すたびに、「ぴっぴっ」「きゅっきゅっ」と音がする。
「……なにこのかわいい子達」
「同意でしかないな」
デレデレとする父様達の熱い視線を感じながら、私達はポテポテと進んでいった。
「――わぁ! ひろい! どうぶついっぱい!」
「ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう。うちは魔界一の動物園を自負してるんだから!」
動物園の中は、とにかく広かった。
野生の環境を再現しているのか、岩場とかも再現してるし、水場の動物の近くには小さな川なんかも流れている。
木などの植物もいっぱい生えてるし、なんだか空気が軽い。ほんとうに自然の中に来たみたいだ。
わくわく感と心地よい空気に、私の足取りも自然と軽くなる。
「まずは人界にもいるノーマル動物ゾーンね。ほら、あれがキリンよ」
「くびながい!」
「でかい……!」
私とリュウが順番に感想を口にする。
長い首を倒し、のっそりとお辞儀をしてくるキリンの隣を通り過ぎる。すると、次は長い鼻と牙を持った巨大な動物の姿が見えてきた。
「あれはゾウよ」
「はなながい!」
「でかい……!」
リュウ、キリンの時と感想が変わってなくない?
いや、私も褒める部位が違うだけで言ってることはほとんど一緒か。
でも、本当に心の底から楽しんでるのだ。
「すごいねぇ、いっぱいどうぶついるねぇ」
「すごい」
「おっきいけどみんなかわいいねぇ」
「かわいい」
感想を口にしながらリュウと微笑み合う。
「んん~、子ども達の生の感想……マーベラス……! このピュアな感想、ずっと浴びてたいわ」
「ちょっと魔王、うちの子達かわいすぎじゃない? 今日ついてきてよかったよ」
胸を押さえるロビンさんに、ポンポンと魔王の肩を叩く父様。
「揺らすな。今写真を撮ってるんだ。ブレる」
「おっと、ごめん。邪魔はしないからかわいく撮ってね」
「陛下、現像したら俺にもください」
「もちろんだ」
そう答えると、魔王は真剣な顔をして私達にレンズを向けてきた。せっかくなのでピースしておく。
いえーい。
「デュセルバート様に陛下、それに四天王の白虎様が日曜日のお父さんみたいな会話してる……! これもギャップ萌えね!!」
魔王達を見て興奮するロビンさん。
いろいろ情緒が忙しい人だね。
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