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保護者は心配 サイド魔王

コミックス2巻の予約が始まっております!

発売は8月1日予定です!




「……デュセルバート様、何をしているんだ……」


 我は双眼鏡で窓の外を見るデュセルバート様に声をかけた。

 ヒヨコ達と別れてこの部屋に来てから、デュセルバート様は窓の側から微動だにしない。まあ、その視線の先にあるものなど聞かなくても分かるが。


 

「うぁぁぁ、うちの子達ってばやっぱりかわいい……! ちゃんとあの子達専用の制服を用意してよかったよ。魔王もそう思わない?」

「……まあ、思う。ところで、なぜわざわざ双眼鏡を使ってるんだ? そんなのがなくても見えるだろう」

「これは様式美ってやつだよ! ほら、君の分もあるよ」


 ポイッと投げ渡されたのは、シックな真新しい黒の双眼鏡だった。

 ……もしかして、このためだけに買ったのか? ……いや、ひよこ用品を買い漁っている我が言えたことではないか。

 デュセルバート様も我も、文字通り腐ってしまいそうなくらいの貯蓄がある。まあ、これまではこれといって使い道がなかったからな。

 窓の側まで歩みより、双眼鏡を構えて外を見る。


「……走ってるな」

「走ってるねぇ」


 走ってはいるが、少々早すぎないか?

 どうやら、シャトルランをしているらしいが、ヒヨコとリュウのスピードが速すぎる。目にも留まらぬ速度で二つの線の間を行き来しているのだ。

 大方、シャトルランが何かよく分からないまま参加したのだろう。

 常人の目では二人の姿は見えないだろう。……いや、残像は見えるようだ。


「ヒヨコ達が増えた!!」

「バカ! そりゃ残像だ!」

「てか風強くね!? 吹っ飛ばされそうなんだけど!?」

「耐えろ!」


 全力で魔法を使い、飛ばされそうになるのを耐える騎士団員達。


「――あ、飛んでった」


 その時騎士団員の一人が吹き飛ばされていった。原因はもちろん、猛スピードで走るヒヨコとリュウから発生した暴風だろう。


「……後で菓子折を持って謝罪に行くべきか?」

「別にいいんじゃない? これくらい予想済みでしょ。それに見てよ、騎士団長(ブラッド)のあの表情。部下達の伸びしろを見つけて、どうやって育てようかワクワクしてる顔だよ」

「……」


 ブラッドはいいかもしれないが、部下達はよくないんじゃないか……?

 それに、あの二人は規格外すぎて比較対象にするにはそぐわないと思うが。特に、うちの子は魔族を持ってして『最凶』と言わしめた元聖女だぞ。

 だが、それよりも気になることが――


「二人とも最初から飛ばしすぎじゃないか? 職場体験は一日中あるのにあのペースでは体力が保たないだろう。水分補給だって持たせた分で足りるか……」

「すっかり父親視点だねぇ。もう何百年、何千年と君のことを見てきているけれど、まさかたったの一年足らずでここまで変わるとは思ってもみなかったよ」

「……鏡を見た方がいいぞ」


 やれやれといった様子のデュセルバート様だが、自分だってシュヴァルツに子ども達の菓子だのタオルだの、ぐずった時用の玩具だのを大量に持たせていたくせに。旅行でも行くのかというくらいの荷物に困惑してたぞ。

 勝手に特注の制服まで作るし。


「おっと、そうだね。それは我にも言えることだった」


 我らの寿命からしたら、瞬きをする間に過ぎ去るような短い時間で、我だけでなくデュセルバート様も変わったのだ。


「というか、我としてはむしろ貴方あなたほうが意外だったがな」


 このひとが特定の誰かを親として慈しむ日がくるなど、昔の我に言っても信じなかっただろう。

 デュセルバート様は、よくも悪くも“平等”だったのだ。ヒヨコが現れる前のデュセルバート様はふわふわとどこか掴み所がなく、特定の誰かと親しくすることもなかった。そう、例えるのならば雲のような存在だったのだ。

 人当たりのいい人柄をしているゆえ、あまり関わりのない者に言えば首を傾げるだろうが。

 魔界を統べる神としてそうあるべきだと思ったのだろう。もしかしたら、特定の人物を特別扱いしまくった聖神を反面教師にしていたのかもしれないが。

 万人にフレンドリーで、時には誰かと酒を交わすことなどもあったが、明確な“特別”は作らなかった。


「あはは、君はそう思うだろうね。ずっとそのスタンスでやってきたし、ほぼ悠久の時を生きる我からしたら魔族の一部以外はみんな子どものようなものだと思ってたもん」

「最近は違うのか?」

「うん。特別(ヒヨコ)と出会っても、魔族のみんなを慈しむ気持ちは変わらなかった。それに、もっとみんなのことを知りたい、仲良くなりたいと思うようになったんだよ。神としては失格かもしれないけどね」

「……我はいいと思うぞ」

「ふふ、それはありがとう。――あ! あの子達ってばようやく普通に走り出したよ! かわい~!」

「なんだと」


 急いで窓の外に視線を戻すと、ヒヨコ達が超加速を止めてポテポテと走っているところだった。一瞬で移動する競技じゃないことに気付いたのだろう。

 うん、うちの子達は今日もかわいいな。


 今日はヒヨコがたくさん話したがるだろうが、慣れないことをして疲れているだろうから早めに寝かしつけなければ。夜更かしさせると、明日の朝眠くてぐずるからな。

 夕飯の時間を長めにとるか。


 そんなことを考えながら、初のことに挑戦する娘を眺める。

 子どもが子どもでいてくれる期間は一瞬というからな。ヒヨコ(うちの子)も毎日成長を実感するし。



 少しだけ様子を見るつもりだったが、今のヒヨコを見られるのは今だけかと思うと、中々席には戻れなかった。



 この日は碌に仕事にならなかったのは、言うまでもないだろう。







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