ひよこ、騎士さん達と交流する
急に静まりかえった空間に居心地の悪さを感じる。ヒヨコ、まだなにもしてないよ?
「聖女……」
「最凶の聖女……」
「ぴ?」
なんだろ、なんだかあんまり歓迎されてない雰囲気。いや、元敵だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。でもなんとなく伝わってくる感情は、敵意じゃなくて怯えのような……。
「ヒィィィィィィッ!! 誰かっ! この聖女を受け取ってくれ!!」
「無理無理無理無理」
「早くポイってしろ! 魔法打ち込まれる前にポイしろ!!」
気が動転して子どもに言い聞かせるような言葉遣いになる騎士。
「で、でも、ひよこを投げるのは……」
「バカッ! それはひよこの皮を被った鬼畜だ! ちょっと投げた所で傷一つ負わねぇよ!!」
本人目の前にいるんだけど。これ悪口だよね? 怒るべきなのかな。
コテンと首を傾げると、周りの空気が固まった。そしてにわかにざわつき出す。
「おい怒らせたんじゃないか?」
「あ、今暴言吐いたのこいつです。俺ら関係ないんで」
鬼畜だの投げても傷一つ負わないだの言ってくれた騎士が他の騎士に背中を押されて突き出される。
「おいっ!? なにすんだよ! ヒェッ! ごめんなさい!!」
即謝ってくる騎士さん。
ていうか、なんで私こんなに怖がられてるんだろ。
「おいこのひよこなんで自分が俺達に怯えられてるか分かってないみたいだぞ」
「ほんとだ。心当たりないって顔してやがるな」
「かわいく首なんか傾げてんな」
さっきの失言騎士さんを盾にして後ろからひょっこりと顔を出す騎士さん達。失言騎士さんの背中から何個も頭が生えてるみたい。
ちなみに、私を手のひらに乗せてる騎士さんは硬直しつつも私を落としたり投げたりすることはなかった。ただただ石像のように私を手に乗せ続けている。優しいね。お礼の気持ちを表すために頭を擦りつけようかと思ったけど、動いたらさらに怯えられそうだと思ったから止めた。
「―――何の騒ぎだ」
なんか一際大きな人が建物の方から歩いてきた。威厳たっぷりだし、きっと偉い人なんだろうな。よくよく見ると他の騎士さんとはちょっと制服が違うし。
鷹揚に歩いてきた大きな騎士さんは再び口を開き問いかけた。
「なぜ誰も訓練をしていないんだ」
「ハッ! 申し訳ありません団長! 元聖女のひよこが来て場が騒然としておりました」
「元、聖女……?」
団長と呼ばれた騎士さんが復唱した。そして、ギギギッと首を動かしてこちらを見る。
あ、目が合った。
「ぴ(こんにちは)」
「ヒッ」
「ぴ(ひ?)」
空耳かな。こんな厳つい顔した人から怯えたような悲鳴が出るわけ……。と、思ったら次の瞬間、団長さんは頭を抱えて蹲った。
「おいみんな! 団長をひよこから隠せ!」
「「「おう!!」」」
団長さんを周りにいた騎士さん達が覆い隠す。部下に慕われるいい上司なんだね。
「団長は一番聖女と相対してるから、最もトラウマがあるんだ」
「ぴ! (あ、そっか、まかいきしだんって、せいじょ時代によくたたかってたひとたちだ!)」
そう考えたら誰もかれもが見覚えのある顔。
「マジかよこのひよこ。今俺らのこと思い出したって顔してたぞ」
「魔界騎士団のほぼ全員にトラウマを植え付けておいて。信じられねぇな」
みんな示し合わせたように、このひよこ信じられないといった顔をする。ぐぬぬ。これに関しては覚えてなかった私が悪いからなにも言い返せない。言い返しても伝わらないんだけど。
「ぴ(ごめんね)」
ペコリと頭を下げて謝る。
「お、謝ってるみたいだぞ」
「案外素直だな」
「意外と人格は破綻してないのか?」
ちょっとずつ顔を出し、ジリジリとこちらに近付いてくる騎士さん達。ていうか私は人格が破綻してると思われてたの? 人間の王の命令を素直に聞くのも癪だから誰も殺さないように手加減してたのに。むしろ人格者だったんじゃない?
そんなことを考えていると、三人の勇敢な騎士さん達がすぐ側まで来ていた。三人のうちの一人が口を開く。
「おい誰か触ってみろよ」
チャレンジャーだね。さっきまでめちゃめちゃビビってたのに。
そして、じゃんけんで負けた一人が私の方に人差し指を近付けてきた。でもやっぱり怖いのか腰が引けてる。怖いのになんでわざわざ挑戦するんだろう。スリルを楽しんでるのかな。
ほんとは無抵抗でいようと思ってたんだけど、あんまりにも人差し指が近付いて来るスピードがゆっくりなのでうずうずしちゃう。
「おい! このひよこイタズラしたくてしょうがないって顔してる!!」
「ぴ」
バレた。
しょうがないからイタズラは止めておこう。
「お、目を閉じた。触っていいってことじゃないか?」
「ほんとだな。おいさっさと触っちゃえよ」
「お前ら……他人事だと思って……」
後ろの二人を睨む騎士さん。そして、意を決したように人差し指が私の体毛に埋められた。
「わ、ふわふわ」
一回触って大丈夫だと思ったのか、もっと大胆に羽を触ってきた。
「ぴぴ」
「おお……かわいいかも」
触り心地が気に入ったのか、ずっと私の頭からお尻にかけてを撫でている。
「大丈夫そうだな」
「だな。俺も触りたい」
私を撫でる騎士さんの後ろから二人の騎士さんが顔を出す。
「お前らなぁ……」
安全確認に使われた騎士さんは不満そうだ。そんな不服そうな騎士さんなど気にも留めず、二人は私を撫でくり回した。
ちなみに、撫でるのはとってもへたくそだった。





