ひよこ、職場体験が決定する
白虎さんのお仕事が一段落つくのを遊びながら待ち、私達は一緒に魔王城へと帰還した。リュウの出稼ぎについて魔王と父様に相談しないといけないからだ。
シュヴァルツとリュウ、白虎さんを引き連れて魔王の執務室に行くと、魔王と父様が何かを話しているところだった。しかも、珍しく父様が書類を見ながら真面目に話をしている。
これは出直した方がいいかな……?
ソッと扉を閉じて踵を返そうとすると、閉じた扉が直ぐさま開かれた。そして、その隙間からヒョッコリと顔を出してきたのは父様だ。
「ヒヨコおかえり。邪魔じゃないからみんなで入っておいで。ちょうどリュウの話をしていたところなんだ」
「……おれ?」
急に話題に上げられ、首を傾げるリュウ。
立ち話もなんだということで、私達は執務室に入り、ソファーに腰掛けた。
「とうさまたちは、リュウのはなしをしてたの?」
「そうだよ。リュウのダンジョンをあのまま放置しておくのはどうかと思ってね。どこかから予算を引っ張ってこれないか魔王と相談してたんだ。あ、もちろん白虎やリュウにも相談するつもりだったよ? でも、当てもないのに提案するのもどうかと思ってね」
なるほど、それで先に魔王に相談してたのか。
だけど、どうやらタイミングはバッチリだったみたいだね。
白虎さんにアイコンタクトをすると、白虎さんは一つ頷いた後に私達がここに来た経緯を父様達に話し始めた。ダンジョンに人が来ないとリュウが寂しいので動物園を作ろうと思っていることを伝えると、父様の顔がパァッと明るくなる。
「おお! それはいいね! この前我が体調を崩して魔界が荒れた時、リュウのダンジョンは避難場所として活躍していたみたいだけど、そんな使い方だけじゃ寂しいからね。ね、魔王?」
「そうだな、高難易度のダンジョンモンスターをまじまじと見ることなど中々ないだろうから、一般市民だけでなく冒険者達にとってもいい機会になるだろう」
動物園計画には父様も魔王も賛成のようだ。そして予算も出す気満々で話を進めようとする魔王と父様に、白虎さんが言いづらそうに口を開く。
「その、予算のことなんですけど……うちのリュウが自分で稼いで出したいそうで……」
「「ん?」」
魔王と父様の視線が、同時にリュウに向けられる。すると何を思ったのか、リュウがむんと胸を張った。
そして頭上に疑問符を浮かべる魔王と父様に、白虎さんが補足を入れる。
「ダンジョンマスターとしてのプライドみたいなものがあるようで……」
「なるほどねぇ。まあ、気持ちは分からなくもないね。完全に資金援助を受けちゃったら自分のダンジョンじゃなくなっちゃうみたいな感じがするんでしょう?」
父様がしゃがんでリュウと視線を合わせると、リュウがコクリと頷いた。
「おれがなにもしないでおかねだけもらうのは……なんかちがう」
「今回に限ってはそう悪いことでもないけどねぇ。白虎、君の息子はいい子に育ってるね」
「あ、ありがとうございます」
父様にリュウを褒められた白虎さんは、照れくさそうに尻尾を揺らす。
「ふ~む、みんなが納得できるいい方法がないものかねぇ。魔王、どう?」
「……まず、リュウのダンジョンが観光地になると国にとっても利益になる。だから予算を出すことは問題なくできるだろう」
ふむふむと、私とリュウは揃って首を振りながら魔王の話を聞く。
「そうだな……それじゃあ、リュウには一定期間魔王城の仕事を手伝ってもらうか。その報酬という形でダンジョン整備の資金を支払うのはどうだろう。動物園で働かせてやることはできないが……」
そこまで言うと、魔王がチラリとリュウを見た。どうだろうか……? というお伺いの視線だ。
すると、リュウが席を立ち、てててっと魔王のもとへと向かった。
「それで……ううん、それがいい。……まおうさま、ありがとう」
「……魔王でいい」
「わかった」
「「……」」
見詰め合ったまま無言になる二人。二人ともそんなに喋る方ではないからね。
今はまだ絶妙な距離感だけど、そのうち仲良くなってくれるといいな。似たもの同士、気が合うと思うんだけどこればっかりは本人達のペースでね。
「――まあ、職場体験みたいなものだね。それじゃあ期間は一週間……は、短いからとりあえず一ヶ月にしようか」
短くね? というリュウの視線を受け、父様が即座に期間の修正をする。私達子ども組にはいくら必要なのかは分からないけど、さすがに一週間の対価では見合わないと思ったんだろう。リュウは真面目だね。
「リュウが手伝うとなると騎士団が妥当かな。たまにヒヨコが顔を出してるから向こうも慣れてるだろうし、リュウの戦闘能力があれば十分戦力になるでしょ。もちろん、あんまり危険なことはさせられないけど。あ、せっかくだから騎士団の制服も作っちゃおうか」
父様がノリノリでどんどん提案をしていく。白虎さんもリュウも、騎士団での職場体験に異論はないようだ。
「とうさま、ヒヨコもせいふくほしい」
「ん? ヒヨコもやるの?」
「うん、ヒヨコはリュウのおともだちだから。リュウがひとりでこころぼそくないように、いっしょにしょくばたいけんするの」
そう言うと、父様が目を細めて柔らかい微笑みを浮かべた。
「そっか。それじゃあヒヨコ用の制服も作っちゃおうか! 双子コーデで絶対かわいいよ!」
同じ制服を着た私とリュウを思い浮かべているのか、父様が私を抱き上げてスリスリと頬ずりする。まだ制服着てないけどね。
なにはともあれ、私とリュウの職場体験が決定したのであった。