ひよこ、狼ファミリーと遊んであげる
魔界の状況もすっかり落ち着いたので、私はある場所へと向かうことにした。今日もお供はリュウと父様だ。魔王はお仕事。
「リュウ、いくよ!」
「うん」
手を繋いで歩き出せば、どこへ行くのかも聞かずについてきてくれるリュウ。その後ろからは、宙に浮いた父様が微笑まし気な顔でついてくる。「うちの子達は今日も元気だな~」と思っている顔だ。
「ヒヨコ……今日はどこいくの……?」
「ないしょ! さぷらいずだよ!」
「わかった」
物分かりのいいリュウは、それ以上は何も聞かずについてきてくれる。
そう、今日はあのモフモフ達に会いにいくのだ。
「――みんな! ヒヨコがきたよ!!」
ででんと登場する。
すると、寛いでいた毛玉達が一斉にこちらを向いた。家族だけあって、みんなどこか顔立ちが似ている。
あれ? なんか想像してた反応と違うな。
喜んで飛びついてくると思ってたんだけど、みんな首を傾げてこちらを観察している。その様子に、私もぴよっと首を傾げた。
「……キュ? キュフ?」
スンスンと鼻をひくつかせながらこちらに歩み寄ってきたのは、一番小さなサンダーウルフだ。
「ちびちゃん!」
そう、私達が会いに来たのは、この前魔王城に連れ帰ったサンダーウルフファミリーだ。あの時はちびウルフと満足に遊べなかったからね。魔界の状況も落ち着いた今、一緒に遊びに来たのだ。
だけど、ちびウルフはいまいち私のことを思い出していなさそうだ。
ヒヨコしょっく!!
「……あ、そういえば」
「ヒヨコ……?」
私はリュウと繋いでいた手をパッと離し、ひよこの姿に変化した。そういえば、ちびウルフと会った時はこっちの姿だったからね。
そして黄色い毛玉を見た瞬間、ちびウルフは瞳を輝かせてこちらに駆け寄ってきた。
「キュッ! キュキュッ!」
短い脚をトタトタと動かしてちびウルフが近付いてくる。
よかった、やっぱりこの姿なら覚えててくれたね。すると、隣のリュウも「なるほど……」と言ってちびドラゴンの姿になった。
ちびウルフはこちらに来るやいなや、あーんと口を開けて私を咥えようとする。
「だめだめ! あーんしないよ!」
「キュン?」
ダメなの? と首を傾げるちびウルフ。
かわいいけどダメだ。咥えられちゃったら一緒に遊べないもん。
「ちびウルフ、ダメだぞ」
リュウが両手で私を抱き上げる。
すると、ちびウルフは「ひよこちょーだい」と言うようにリュウの腕に両前足をちょこんと載せた。
「――ぐぅっ、か、かわいいっ……! なにこの光景……かわいすぎるんだけど……っ!!」
何かを堪えるような音で頭上を見上げると、父様が空中で悶え苦しんでいた。
「みんなちっちゃいのに、お互いにちび呼びしてるのとかたまらないよ……! 魔王呼んできてあげた方がいいかな」
「おしごとのじゃま、しないよ」
「分かったよ。うちの子ってばほんとにいい子」
デレデレとした顔で微笑む父様。
「おやバカ……」
父様を見上げてリュウが呟く。すると、父様がおや、と言うように片眉を上げる。
「普通だと思うけどねぇ。ほら、あっち見てみなよ」
「「?」」
リュウと一緒に父様の指さした方向を見る。つられたのか、ちびウルフも一緒に顔を向けていた。
「……わぁ」
そこには、地面にゴロンゴロンと転がる大人のサンダーウルフ達がいた。あ、さり気なくちびウルフの兄弟達も混ざってる。
「ほら、彼らだって『うちの子達かわい~』って転げ回ってるんだよ」
「……そんなもんなのか」
「そうそう、白虎はしないの?」
「白虎も……たまにやる。すぐにわれにかえるけど」
白虎さんもやるんだ。意外……でもないね、なんかその光景が簡単に想像できちゃったもん。一見するとそうは思えないけど、白虎さんもリュウのことかわいがってるからね。
白虎ファミリーが円満そうでヒヨコもほっこりだ。
「ぴぃ……」
「キュ?」
ほっこりしていると、ちびウルフが「遊ばないの?」とばかりに前足を私に向けてちょいちょいと振る。かわいい。
「ぴぃ! ちびちゃん! あそぼっか!」
「キュッ!!」
パァッとつぶらな瞳を輝かせるちびウルフ。
「なにする?」
そう問いかけると、ちびウルフがパチパチと雷を身に纏ってみせた。
それでなにする気なの? 見てよ、側にいるだけなのに静電気でヒヨコの毛がぽさっとしちゃった。
「パチパチはしないよ」
「キューン……」
残念そうに三角形の耳を寝かせるちびウルフ。
「ふつうに、おにごっこしよう……」
「いいね!」
「キューン!」
リュウの提案にちびウルフも賛成の鳴き声を上げる。遊べればなんでもいいんだね。
それから小一時間程、私達は芝生の上を駆けずり回った。





