おでかけしてきたひよこ
ヒヨコがおでかけから帰ってきた。出て行った時には持ってなかった加護を手に入れて。
どこかスッキリとした顔をしているヒヨコを我は手のひらの上に乗せた。
……間違いない、ヒヨコはフェニックスの加護を受けている。
フェニックスは我が四天王の一人だ。南の統治を担っている魔界の実力者。そんなフェニックスの加護を受けるには一つの条件を達成する必要がある。それは、フェニックスと戦って勝利することだ。ちなみに他の四天王の加護を受ける条件も同じだ。
だが、我が各地の統治を任せるだけあって四天王を倒すことは容易ではない。いくらヒヨコが元最凶の聖女だとしても苦戦すると思っていたのだが――。
「ぴ!」
魔王褒めて! というようにヒヨコが見上げてくる。こんな顔で見られて褒めずにいられる者がいるだろうか。
我の指は独りでに動いて、ヒヨコの頬をうりうりと擽っていた。ヒヨコが嬉しそうにぴぴっと鳴く。
フェニックスの加護を得られたということは、ヒヨコがフェニックスとの闘いに勝利したということだ。ヒヨコの体を確認するが傷は見当たらない。
「怪我はしなかったか?」
「ぴ! (ちょっとしかしてない!)」
ヒヨコが元気よく答える。さすがに無傷とはいかなかったようだ。
少し負った傷も治癒魔法できれいに治っている。
「痛くて泣かなかったか?」
「ぴ!? ぴぴ! (!? ヒヨコそんなことでなかないよ!)」
ちょっとムッとしたようで、ヒヨコが我を睨んでくる。痛みには強いひよこだったか。
すまんと謝るとヒヨコは満足そうにぴっと鳴いた。
「ぴぴ? (ねぇねぇまおう、ふぇにっくすのかごってなに?)」
真ん丸の目を我に向けたヒヨコが尋ねてきた。ヒヨコの無邪気な質問に我は少し驚く。
フェニックスの加護が欲しくて戦いを挑んだわけじゃないのか?
「フェニックスは不死鳥とも呼ばれるように、フェニックスの加護を得ると外傷や病で死ぬことはなくなる。あと火属性魔法の威力が上がる」
「ぴぴ(おお、すごいねぇ)」
のほほんと感心するヒヨコは、普通の魔族なら喉から手が出るほどほしがる加護のことなど眼中になかったようだ。それはそれでどうなのかと思うが。ただ純粋に力試しがしたかったということだから。
この前の侵入者の時もそうだったが、このかわいいヒヨコは存外戦闘狂の気があるらしい。まあ、せっかく強い魔法が使えるのだから思う存分力を振るいたくなる気持ちも分からんではない。
―――ん?
「ぴ! (あ! そうだ、ふぇにっくすがまおうにお手紙くれたよ)」
そう言ってヒヨコが風呂敷からフェニックス直筆の手紙を取り出した。
どれどれ。
『拝啓魔王様 本日、休暇中の私の元にかわいらしいひよこが一人で訪ねてきました。あまりにもひよこがワクワクしていたので戦いには応じましたが、聞けば、ひよこはなにも聞かれなかったので魔王様に行先は告げていないとのことでした。いくら強いとは言え、この愛らしい小鳥を野放しにするのはいかがなものかと存じます。 フェニックス』
「……」
簡単に言うと我の管理不行き届きに抗議する内容だった。
そういえばフェニックスは今休暇中だったな。休暇中はもちろん挑戦にも応じていない。
普段フェニックスの奴は休暇を邪魔すると烈火のごとく激怒するからこの程度の抗議で済んだことは奇跡にちかい。あ、そういえば奴は鳥型の魔族には優しかったな。
何はともあれウチのヒヨコが悪いことをした。今度詫びの品を送っておこう。
「ぴ?」
「……」
きょとんと首を傾げるヒヨコに文句など言えるわけはない。
「……今度からは我に行先を告げていくのだぞ」
「ぴ! (は~い!)」
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