ひよこのお出かけ!
私は的に向けて次々に魔法を打ち込んでいく。
『ぴ(氷結)』
『ぴ(爆撃)』
『ぴ(水撃)』
的には自動修復機能が備わっているらしいけど、修復し終わる前に私が魔法を打ち込んじゃうので一時的に的はボロボロになってしまっている。そのうち勝手に直るから問題ない。
ここは魔王城にある訓練施設の一つで、私は魔王、ゼビスさん、オルビスさん、そして門番さん二人の前で魔法を披露している。といっても魔法の発表会みたいなことではない。これはちゃんとしたテストなのだ。
私はくるりと振り返る。
「ぴぴ? (どうだった?)」
「うん、問題ないな。どうだゼビス」
「S級魔法をこれだけ連続で打てたら問題ないでしょう。発動速度、威力ともに魔界でもトップクラスなんじゃないですか?」
おお、とっても褒められてる……!
「いやこえぇわ。ひよこがぴよぴよ鳴いただけでS級魔法がどんどん発動してくのなんて一種のホラーでしょ。夢に出てきたらどうしてくれんの」
「お前が勝手に見に行きたいって言ったんだろ」
両手で自分を抱いている赤髪の門番さんに青髪の門番さんが突っ込む。赤髪がイグニさんで青髪の方がクリスさんって名前らしい。
ふふん、ヒヨコ魔法は得意なんだよね! みんなが褒めてくれるので両手を腰に当てて胸を張っちゃったりする。
ゼビスさんはなぜか褒めると同時にお菓子をくれた。ゼビスさんは私をおでぶちゃんにする気だね? どのお菓子もおいしく食べちゃうけど。
あ、本題を忘れるところだった。
「ぴぴ? (まおう、これなら一人でお出かけしてきてもいい?)」
そう、これは私が一人で出かけても大丈夫かという試験だったのだ。ひよこの体でも十分戦えるかという確認だね。魔界は弱肉強食なところがあるから人間界ほど秩序は保たれていない。街中で急に戦闘が勃発することも決して多くはないけどゼロではないそうだ。
私は別に魔王と一緒にお出かけでもいいけど、魔王は割と忙しくて一緒だと好きな時にお出かけできなそうだから一人で出かけることにした。
ヒヨコってば魔法を使ってでの戦いは負け知らずだから心配はいらないよって言ってるのに魔王がなかなか信じてくれないんだもん。こんなに小さくてかわいいひよこが強いって言われても信じられないのは無理もないと思うけど。
そしてテストの結果、晴れて私は一人でお出かけをする権利を勝ち取った。
体に括り付けられた風呂敷型のマジックバッグにはお昼ごはんとおやつが入れられ、首には魔王特製の魔道具が装着された。
「ぴ? (これはどんな効果があるの?)」
「重症を負ったら自動的に我の元に転送されるようになっている。あとヒヨコには必要ないかもしれぬが、任意で防御魔法が発動するようになってるぞ」
「ぴぃ……! (おお……!)」
魔道具なんて初めて着けたけど、二つも機能がついてるなんてこれ絶対高いよ! なんか綺麗な石ついてるし。
私が初めての魔道具に感動してると、魔王は何かをブツブツ呟き始めた。
「重症ではなく掠り傷を負ったらに条件を変更した方がいいか……? 防御魔法も任意ではなく自動にすべきだろうか……」
「そうするとお出かけの難易度が一気に跳ね上がりますね」
「ぴ」
ゼビスさんの言う通り、魔王が条件を変更しちゃったら私のお出かけは掠り傷を負ったら強制終了になっちゃう。それはさすがにきつすぎるよ。
私は魔王から首についてる魔道具を隠した。
「ぴぴ(このままでいいよ。じゃあいってきま~す)」
「はい、いってらっしゃい」
「……気を付けて行ってくるのだぞ」
「ぴ~(は~い)」
私は見送ってくれた二人に手を振りながら魔王城を後にした。





