とある文官視点
俺は魔王城で働くしがない文官だ。もう二百年程魔王城で働いているだろうか。だが、これでもまだまだ若輩者だ。
人間達からしたら意外だろうが、魔界は基本的にのどかだ。魔族の寿命が長く、体も丈夫なおかげか、魔界内で大きな問題が起こることはそうそうない。
最近はデュセルバート様の核が奪われるというとんでもない事件が起こったが、あれは人界の腐れ神が悪いしな。
半分はその人界の神によって生み出されたヒヨコだが、魔王城では大層かわいがられている。デュセルバート様や陛下だけでなく、騎士や俺達文官にもだ。
ヒヨコは、代わり映えのしない日々の中でいい刺激になった。
ヒヨコ一人が加わっただけなのに、魔王城は一気に賑やかになったし、その類い希な魔法の腕は、俺達も負けていられないと向上心を芽生えさせた。
あとなんといってもかわいい。
よくデュセルバート様が抱っこしている姿を見るが、とても幸せそうにしている。
陛下もヒヨコが来てからは雰囲気が大分柔らかくなったしな。陛下がヒヨコのパパだというのは、今では魔王城全体の共通認識となっている。
あの方が娘を溺愛するのなんて、実際に見るまでは信じられなかったな~。
陛下がヒヨコを抱っこして歩いているのを見た時は、自分の目を疑った。だって、あの陛下だぞ? 微笑みながら子どもの相手をする陛下なんて想像したこともなかったよ。あれは、俺の長い生の中でもトップクラスに印象に残っている出来事だ。
デュセルバート様が娘を甘やかすのはそこまで意外でもなかったが。
ただ、神であるデュセルバート様に子どもができるとは思ってなかったけど。
魔王城で働く者達は、ヒヨコの成長を見守るのを密かな楽しみとしている。
ヒヨコが人型をとれるようになった時なんて、一週間くらいはその話題で持ちきりだった。
俺達は良くも悪くも変化がないから、めまぐるしく成長していくヒヨコには関心を抱かずにはいられないのだ。
そんなヒヨコだが、最近友達ができたようだ。
魔王城にはヒヨコと同じ年頃の子どもはいないのでどこで友達を作ったのかと思えば、旅行先で出会ったらしい。しかも、旅行先で発見した未発見ダンジョンのマスターだと。
随分と特殊なお友達だがまあ、ヒヨコも特殊だからな。白虎様の養い子だというから危険はないだろうし、似たもの同士でちょうどいいのかもしれない。
それに、あの年頃の子には友達が必要だからな。
ヒヨコのお友達は度々この魔王城に遊びにきているそうだから、そのうち目にすることもあるだろう。
そんなことを考えていると、ちょうど前方から黄色い頭の子どもが駆けてきた。
微笑ましく思いながら眺めていると、黄色い頭が二つ、どんどん近付いてくる。
……ん? 二つ?
目を擦ってから顔を上げると、全く同じ顔、同じ体型の二人が俺の横を通り過ぎていった。
「え!? ひ、ヒヨコが二人!?」
見間違いか? ……俺、疲れてるのかな……。
いや、俺が疲れている分には問題ないが、ヒヨコが憑かれでもしていたら大変だ。
「……一応、陛下に報告しておくか」
まあ、誰よりも強いヒヨコのことだから大丈夫だろうけど。
ヒヨコのドッペルゲンガーの正体は、どうやらお友達のリュウだったらしい。
あんだけ精巧な変化ができるなんて、相当な魔法の使い手だろう。
そっくりな二人だったが、父親達は見事に二人を見分けたらしい。俺からしたら全く同じ外見にしか見えなかったが、それは父親のなせる技か。
ちょうどその場面に出くわしたから少し離れたところから眺めていたんだが、ヒヨコもリュウもすごく嬉しそうだった。目をキラキラさせて父親達を見上げてたな。
子ども達からそんな眼差しを向けられ、父親達も叱ろうという気が失せてしまったようだ。「すごいすごい!」とはしゃぐヒヨコを抱っこして、陛下も満更でもなさそうにしている。
まあ、かわいいよな。
あんな素直に愛情表現されたらかわいがらざるを得ないだろう。
あ~、俺も子どもほしいな~。
コミカライズ3話更新されてます!
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