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ひよこ、魔王城に帰宅する




 とうとう、魔王城に帰る日がやってきた。


「ヒヨコ……!」

「リュウ……!」


 ヒシと抱きしめ合う私達。また会えるのは分かっていても、別れは寂しいものだ。

 そんな私達を、保護者達が困ったように見守っている。


「あ~あ~、二人ともお目々をうるうるさせちゃって……」

「心が痛むな」

「特にリュウは、最初っからヒヨコに懐いてたしな……」


 白虎さんの言葉で、私はあることを思い出した。


「そういえば、リュウのダンジョンはどうしてるの?」

「ん? 今はリュウに全ての入り口を塞いでもらって、誰も入れないようにしてるぞ。何せリュウは異例中の異例だからな、対応はこれから考えていくさ」

「そっか」


 まあ、白虎さんなら上手いことやってくれるだろう。すでにリュウとも良好な親子関係を築いているようだし。

 この期間で、白虎さんとも大分仲良くなれた気がする。兄貴分って感じだね。


「びゃっこさんも、ありがとね」

「ああ、またいつでも遊びに来てくれ。というか、ヒヨコは転移が使えるんだから気が向いたらいつでも来られるんじゃないか?」

「ああ、それもそうだね」


 すっかり忘れてた。馬車で来たからかな?


「こっちに遊びに来る時は、ちゃんと父ちゃん達に行き先を言ってからにするんだぞ?」

「わかった!」


 白虎さんの中でも、魔王と父様はすっかり私の父親認定されたようだ。

 すると、これまで黙っていたリュウが口を開いた。


「……おれも、転移しゅうとくする。それで、いっぱいヒヨコのとこに遊びにいく」

「! うん、ヒヨコ、まってるよ!」

「まってて」


 しっかりと頷くリュウ。

 色々と規格外のリュウのことだから、難易度の高い魔法である転移もすぐに覚えちゃいそうだけどね。


 そして、私は見送りのために湖から出てきたリヴァイアサンを見上げた。


「リヴァイアサンも、またね」

「ええ、またいつでも遊びに来て下さい。次にいらっしゃる時までに、鱗も湖ももっと綺麗にしておきますわ」

「ふふふ、ほどほどに、ね」


 すると、魔王の手が私の肩にのせられた。


「ヒヨコ、そろそろ……」

「うん」


 魔王に促され、私は馬車の方に移動した。

 帰りも、馬車はヴァイスとネロが引いてくれる。二頭は白虎さんの領の馬だけど、またこの領行きの荷物か馬車を引いて戻ってくるんだって。


 魔王と父様と一緒に馬車に乗り込む。そして私が窓から顔を出すと、馬車が動き始めた。


「みんな~! またね~!!」


 大きく手を振ると、リュウや白虎さん、リヴァイアサンも手を振り返してくれる。

 それから、お互いの姿が見えなくなるまでずっと、私達は手を振っていた。




◇◆◇





「――もはやなつかしいね、まおーじょう」


 馴染みのあるお城を前に、私の口からはそんな感想が飛び出していた。

 帰ってきたって感じがする。


 ヴァイスとネロにお礼を言って別れ、私達は自分の部屋へと向かう。そして荷物を置くと、シュヴァルツとゼビスさん、そしてオルビスさんが部屋を訪ねてきた。


「ヒヨコ様、おかえりなさい!」

「シュヴァルツただいま~!」


 シュヴァルツの脚にヒシと抱きつく。そんなに長い期間離れてたわけじゃないのに、すごい久々に会った感じがする。


「シュヴァルツは、ゆっくりやすめた?」

「はい、ですがヒヨコ様のお世話をしていないと、日々にやりがいがなくて退屈でした」

「そっかぁ。お休みの間は何をしてたの?」

「そうですねぇ、一人で二泊三日の旅行に行って観光してきました。あと、魔王城のお膝元の街も開拓できていなかったので、食べ歩きをしておいしいお店探しをしてきましたね。それとせっかくなので私服も一新しました」

「めちゃめちゃエンジョイしてるじゃん……」


 誰だよ、ヒヨコがいなくて退屈とか言ってたの……。

 半目でシュヴァルツを見ていると、大きな手が頭にふわりと乗せられた。ゼビスさんの手だ。その隣には、オルビスさんもいる。


「ヒヨコ、おかえりなさい」

「おかえりヒヨコ。旅行は楽しかったか? お土産話を聞かせてくれ」


 そうだ! オルビスさん達に話したいこと、いっぱいある。


「ぴ! ぴぃ!! ぴぴぃっ!!!」

「ヒヨコ、落ち着いてください。興奮しすぎて鳴き声しか出てませんよ」


 どうどうと、ゼビスさんが私を宥める。

 本当に、おじいちゃんみたいな安心感がある。よしよしと背中を撫でられる私を見て、父様がクスリと微笑んだ。


「ヒヨコ、買ってきたお土産をみんなに渡して、いっぱいお話しておいで」

「は~い!」


 父様からみんなへのお土産を受け取り、ソファーへと移動する。

 ゼビスさんとオルビスさんには私のお小遣いでも買える小さな宝石、そしてシュヴァルツにはガラスペンをあげた。


「う、嬉しいですヒヨコ様! 大事に使いますね!」

「うんうん」


 ガラスペンの入った箱をギュッと抱きしめるシュヴァルツ。オルビスさんとゼビスさんも私のお土産は財宝洞窟には仕舞わず、手元で大事に保管すると言ってくれた。

 みんなが喜んでくれて何よりだ。


 それからは、ゼビスさんのお膝の上に座ってみんなに旅行の話を聞いてもらった。

 湖で遊んだこと、ダンジョンに行ったこと、リュウと出会ったこと……、話したいことが次から次へと溢れてきて止まらなかった。


 ゼビスさんが適度に差し出してくるお茶によって口の中を潤しつつ、旅行の思い出話をし続ける。


 だけど、途中からうまく口が動かなくなってきちゃった。目蓋も重たくなり、瞬きの回数が増える。


「ヒヨコ? ……ふふ、眠くなっちゃいましたか」

「帰ってきたばっかりだしな。このまま寝かせてやろう」

「ヒヨコ様もまだまだ子どもですね。ベッドに寝かせましょう」

「あ、このまま私が行きますよ」


 私を受け取ろうとするシュヴァルツを制し、ゼビスさんがヒョイッと私を抱き上げる。その頃には、私の意識は半分夢の世界へ旅立っていた。


「ヒヨコ、楽しかったんですね」

「父親達との初めての旅行だし、陛下とずっと一緒にいられたのも嬉しかったんだろうな」

「そうですね。こんなに嬉しそうなヒヨコを見られるんですから、陛下には定期的に休みをとってもらわなくては」

「はは、爺ちゃんの腕の見せどころだな」

「ええ、任せてください」


 ゼビスさんとオルビスさんの楽しそうな会話の後、少しヒンヤリとしたシーツが頬に当たる感覚がする。


「おやすみなさい」


「……ぴぃ……」



 なんとか返事をした後、私はスコンと眠りに落ちてしまった。










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