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ひよこ、初のお友達




 話が纏まった私達は、盗賊を引き連れてダンジョンの外に出た。

 大の大人を五人も連れて歩くのは面倒なので、早々に警備隊に引き渡す。よし、身軽だ。


「……人、いっぱい……」


 ちびドラが辺りを見回しながらボソリと呟く。初めて見る多さの人に少し気圧されているようだ。

 それもそうだろう。なにせ、私達は今街に来ているのだ。

 適当な出口から脱出した私達は、盗賊達を引き渡すためにその場から一番近い街を目指した。そして辿り着いたのがこの街だ。白虎さんの領地の中で一番栄えている街らしい。どうりで活気があると……。


 白虎さんの背中に乗せてもらっているちびドラは、ギュッと白虎さんにしがみつきながらもキョロキョロと、しきりに首を動かしている。常に眠たそうな半目だから分からないけど、かなり色んなことに興味津々のようだ。

 かく言う私も、迷子になるといけないので人型に戻って魔王に抱っこされている。ちなみに、魔王が着替えを持ってきてくれていたので街に入る前に普通の格好に着替えたよ。

 さすが魔王、用意周到だ。


 盗賊達を引き渡した白虎さんは、盗品も取り返したので持ち主を呼び出すように命令していた。ちゃんと現物を見て確認してもらってから返すんだって。その場には、白虎さんが直々に立ち会うそう。

 私達も特に用事はないので、白虎さんに付きそうことにした。

 そして、持ち主の人達が来るまでには時間があるので、その間にみんなでごはんを食べようということになったのだ。

 今はごはんを食べるお店を探しがてら街をブラブラしているところなんだけど、白虎さんは行く先々で声をかけられている。

 顔が広いのもあるし、領地の人達に慕われてるんだろうなぁって感じの声のかけられ方だ。


「――あ、白虎様こんにちは~! 背中のかわいいドラゴンちゃんはどうしたんですか?」

「新しいダンジョンのボスでな。まだ小さいから俺が育てることにした」

「へ~、お名前はなんて言うんですか?」

「まだ決めてない」

「あっはっは、じゃあかっこいい名前を考えてあげないとですね~! がんばってくださいよ~!」

「おう」


 道行く色んな人とそんな会話をしながら、白虎さんは進んでいく。

 だけど、話しかけられる頻度でいえば私の父親ズもそう変わらなかった。


「あ、陛下にデュセルバート様!? どうしてこんなところに!?」

「陛下が城を離れられるなんて珍しいですね~。是非羽を休めていってくださいね」

「あ、もしかして娘様ですか? 俺、娘様がお披露目された式典に行ったんですよ。ちっこくてかわいいですね~!」


 次々と話しかけられる父様達。人気者だ……。

 人気者の父親達を持ったことはとても誇らしい。だけど、そろそろ空腹が限界を迎えそうだった。


 きゅ~。


「「あ」」


 私とちびドラのお腹の音がちょうど重なった。

 ちびドラもお腹が空いてたんだろう。いっぱい動いたし、魔法もたくさん使ったもんね。


「すまない、お腹空いたな。すぐに食事に行こう」

「そうだね、白虎の行きつけのお店がいいんじゃない? この近くにある?」

「あります。すぐに向かいましょう」


 私達のお腹の音を聞いた大人達の行動は早かった。

 白虎さんがすぐさまお店を決め、早足でそのお店に向かう。魔王達が真剣な顔で先を急ぐもんだから、周りの人達もこぞって道を開けてくれた。何か重要な案件のために急いでいると思われたんだろう。ただ娘達がお腹を空かせただけなんだけどね。


 白虎さんが連れてきてくれたのは、大衆食堂だった。

 そこそこの広さの店内は、お客さんで賑わっている。


「デュセルバート様や陛下を連れてくるところじゃないかもしれませんが」

「いいや、むしろ嬉しいよ」

「ああ、ヒヨコ達には格式張った店よりも、こういう活気のある店の方がいいだろうしな」


 うんうん、魔王の言う通りだ。

 家族連れも多いのか、お店の中には子ども用の椅子もあった。その椅子に、私とちびドラが隣同士で座る。


「かわいい……」

「うんうん、かわいさ二倍だねぇ」


 父様と魔王が私達を愛でてる間、白虎さんはテキパキとお勧めのメニューを頼んでいた。できる虎さんだ。


 白虎さんが私達に頼んでくれたのは、お子様ランチだった。

 クマの形に整えられたケチャップライスの上には旗が射してあり、おかずもポテトやたこさんウインナー、からあげなどバリエーション豊かだ。さらにはミニデザートのゼリーまでついてきた。


「ふぉ~!!」

「すごい……!」


 もちろん私も喜んだ。だけど、それ以上に瞳を輝かせたのは私の隣にいるちびドラだった。

 白虎さんに持たせてもらったスプーンを手に、お子様ランチプレートを凝視したまま固まっている。


「ちびちゃん固まってるね」

「ヒヨコも、初めてお子様ランチを見た時はこんな感じだったな」


 うんうん、初めて見た時は感動したもん。


「ほら、腹減ってるんだから食べろ。お子様ランチなんて、これから何回でも食べさせてやるから」

「うん」


 白虎さんに促されたちびドラは、ケチャップライスをスプーンにとって口に運んだ。


「!!!」


 カッと目を見開くちびドラ。尻尾もブンブンと忙しなく動き出す。


「おいしい……!」

「はっはっは、そりゃよかった。いっぱい食えよ」

「うん」


 ちびドラは、そのままあぐあぐとごはんを食べ進める。

 瞳を輝かせ、一心不乱にスプーンを動かすちびドラ。うん、いい食べっぷりだ。

 ちびドラを見ていたらさらにお腹が空いてきたので、私もごはんを食べ始める。たこさんウインナーを一口。

 うん、おいしい!


「……ふふ、二人揃ってごはんを頬張ってるのかわいい」


 私の対面に座っている父様がニコニコ顔で私達を眺めている。見てても面白いものじゃないと思うけど、父様の顔は本当に幸せそうだ。それは父様だけではなく、白虎さんと魔王も同じだけど。


「みんな、たのしい?」

「うん」

「ああ」

「そうだな、楽しいぞ」


 順に父様、魔王、白虎さんの返事だ。

 そっか、まあ三人が楽しいならいいや。


 そうしているうちに大人組のごはんも運ばれてきたので、地元で大人気の味にみんなで舌鼓を打った。


 そして、もっきゅもっきゅとごはんを食べているうちに、私はあることに気付く。


「ヒヨコ、もしかしたらちびドラがはじめてのおともだちかもしれない……!」

「ともだち……」


 ちびドラが私の言葉をポツリと繰り返す。


「おれ、ヒヨコのともだち?」


 どうやら、友達の意味は分かっているようだ。ダンジョンボスは、もしかしたら生まれた時からある程度の知識は持っているのかもしれない。ちびドラが特別なのかもしれないけど。


「ちびドラは、ヒヨコとともだち、いや?」


 そう聞くと、ちびドラはブンブンと勢いよく、首を横に振った。

 そんなに激しく振って大丈夫? ちぎれたりしない?


「おれ、ヒヨコと友達……うれしい……」


 はにかみながらちびドラが言う。


「! ヒヨコもうれしいよ!!」


 ヒヨコ、友達ゲットだ!




 そしてある程度お腹がくちくなったちびドラは、甲斐甲斐しく私のお世話をし始めた。


「ヒヨコ、頬がよごれてる。拭くからうごかないで」

「ヒヨコ、かみの毛が口に入りそう」

「ヒヨコ待って。このイスは高いから自分で下りるのはきけん。だっこで下ろしてもらった方がいい」


 食後、自分でイスから下りようとしたらちびドラに止められた。


「あい。まおーだっこ」

「ああ」


 ちびドラの忠告を素直に聞き、魔王に向けて手を伸ばす。すると、魔王はヒョイッと私を抱っこし、そのまま自分の片腕の上に座らせた。

 ちびドラの方は父様が抱っこし、白虎さんの上にのせている。



「――友達というより、保護者が増えたみたいだな……」



 白虎さんの上に跨がるちびドラを見て、魔王がボソリと呟いた。








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