ひよこ、ダンジョン探索をする(保護者同伴)
「まおー、これってダンジョンだよね?」
「そう、だな……こんなところにダンジョンなんてあったか……?」
考え込む魔王。
そんな魔王に、白虎さんは首を横に振ってみせた。
「いえ、なかったはずです。もしかしたら、どこかのダンジョンに繋がっているのかもしれませんが」
「そうだな。デュセルバート様は覚えがあるか?」
「ん~、我も全てのダンジョンを把握しているわけじゃないしねぇ。でも、我らの誰も知らないってことは新しくできたダンジョンの可能性もあるよね。我が眠ってる間にできたのかな?」
「その可能性はあるな。……ヒヨコ、ステイだステイ。よーいどんの体勢に入るんじゃない」
今にも走り出しそうな私を手で押しとどめる魔王。
するとその時、背後の扉が独りでにゴゴゴッと動き、パタンと閉じた。
「ありゃりゃ、閉じ込められちゃったね」
全く危機感のない様子で父様が言う。
「無理矢理扉を開けて脱出できないこともないけど、それじゃあ風情がないよね?」
「うん」
チラリとこちらを見遣った父様に向けてコクコクと頷く。
「じゃあ、みんなでダンジョン攻略しよっか」
ピクニックにでも行くような気軽さで言う父様。
「やったぁ!」
「魔王と白虎もいい?」
「ああ、元々ヒヨコをダンジョンに連れて行ってやる予定だったからな。場所が少し変わっただけだ」
「俺も異論はないですぜ。新しく発見されたダンジョンはまず手練れのパーティーが様子見に入るもんですし、この面子なら申し分ないでしょう。むしろ助かります」
白虎さんの領で発見された新ダンジョンだから、本来なら領主である白虎さんが様子見をしてくれる人達などを手配しないといけないのかもしれない。今回は偶然にも私達が居合わせたから、手配をする手間が省けたということだろう。
むしろ父様と魔王のセットという、過剰戦力になってしまった。
「ヒヨコ、我らは後ろで見守っているから、好きに攻略してごらん」
「! とうさまいいの?」
「うん。でも、我らとははぐれないようにね」
「はーい!」
片手を上げて元気よくお返事をする。
――かくして、私の保護者同伴ダンジョン攻略が突如始まったのであった。
ダンジョンの壁や床は、水色の四角い石が規則的に敷き詰められて構成されている。その石は少しだけ透けており、どこかからの光を通しているので、ダンジョンの中は結構明るい。どんな素材の石なんだろう。
「きれいだねぇ」
「そうだな。ダンジョンでなければ観光名所にでもなりそうなものだ」
私の呟きに魔王が同意してくれる。
「難易度が低けりゃ観光地にもできるんですけどね……この雰囲気からして、そこまで甘いダンジョンではなさそうですからねぇ……」
白虎さんがぼやく。
そう、確かにダンジョン自体は綺麗なんだけど、その中に充満する魔力の濃密さから推測するにそんな甘いダンジョンではなさそうだ。むしろ、難易度は結構高そう。
まあ、ヒヨコはそっちの方が燃えるけどね!
「ふん♪ ふん♪ ふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながらダンジョンを進む。
「見て見て、ヒヨコがあんなにご機嫌だ。かわい~ね」
「ああ」
「やってることはあんまかわいくないですけどね……。というか、こんなに緊迫感のないダンジョン攻略は初めてですよ……」
内容は聞こえないけど、私の後ろにいる三人も仲良くおしゃべりをしながらついてきているようだ。
「む」
その時、足元の石の光がほんの少し強くなった気がした。その瞬間、上下左右からつららが飛び出してくる。このつらら、結構堅いのだ。普通の鉄で出来た鎧くらいなら余裕で貫通すると思う。
しかし、私の障壁の敵ではない。
ガッと音を立てて私の障壁にぶつかったつららは、その衝撃に耐えられずに崩れて地面に落ちていく。
このダンジョン、さっきから罠が多いんだよね。急に爆発したり、巨大な鉄の玉が転がってきて私達を潰そうとしてきたり。
ただ、まさに私の想像していたザ・ダンジョンって感じの罠だ。ワクワクが止まらない。
「殺意高めなダンジョンだな……」
後ろにいる白虎さんが呟く。
「罠は定番って感じだけど、質が段違いだ。並の使い手の障壁だったら貫かれるし、罠の破壊もできないだろうね。あんな簡単に罠の処理をしているところは、さすが我が娘ってところかな」
「あっさりと切り抜けているように見えるけど、ヒヨコの魔法の威力が桁違いなだけなんですね」
「そゆこと」
お、なんか褒められてる気配がする。
聞き耳を立てると、早々に別の話題に変わってしまった。
「いつの間にかこのダンジョンができていたようだけど、何か変わった報告とかはなかったのかい?」
父様が白虎さんに尋ねる。
「ダンジョン関連の報告はないですね。ただ、最近は盗賊が出るようになって困ってます」
「盗賊? 白虎の領地でそんなことをするなんて、命知らずなやつらもいたもんだね。盗賊なんて一瞬で捕まえられるでしょ?」
すると、白虎さんが一瞬口ごもった。
「いえ、それが……なかなか捕まらないんですよ……」
「え? そんなに手練れなの?」
「手練れというか……追ってるうちに忽然と消えちまうんですよ。逃げ足が速すぎるのか、なにかしらの魔法を使ってるのかは分からないんですけど」
「白虎を振り切るなんてそう簡単にできることじゃないからなぁ。何かがあるんだろうけど……」
おお、なんか物騒な話になってきた……。ヒヨコは聞かなかったことにしよ。
父様と白虎さんの話をシャットアウトし、再びダンジョンに集中する。
適当に歩いていると、目の前に大きな扉が現れた。その扉の横には、何か文字が書いてある。
「え~っと、なになに? 『一定以上の魔法をぶつけないと開かない扉。最大火力の魔法をぶつけてみよ』だって」
「りょーかい」
私は魔力を練り、手のひらに集める。
『――炎撃』
ドゴォッ!!!!
炎が火の粉を散らしながら、大砲の玉のように扉に激突する。
「あいた」
私の魔法をモロに食らった扉は、実にあっさりと開いた。
あまりにも簡単すぎてちょっと肩透かしだ。
後ろを振り向くと、すぐ傍まで来ていた魔王がポンポンと頭を撫でてくれた。
「上手にできたな」
「えへへ」
「ヒヨコ、そろそろ水分補給をしておこう。おやつもあるぞ」
「おやつたべる」
小さなバッグを手にしていると思ったら、マジックバックだったらしい。魔王はその中からジュースとちょっとしたおかしを取り出し、私にくれる。
甲斐甲斐しいね。
「――あんなに強いのに言動はまるっきり幼児って……ギャップがすげぇ……」
魔法に巻き込まれないように少し離れた場所にいた白虎さんは、おやつで頬をパンパンにする私を見ながら何かを呟いていた。





