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フェリスの出自

時を遡ること、三か月前。


私は、アンドリューに婚約の解消を申し出ようか、日々悩んでいた。


そんな時、エリザベスが、声を掛けてくれた。


「悩んでいることがあるなら、私に相談して欲しい。必ずお姉さまの力になるから」


私は、エリザベスに全てを打ち明け、相談にのってもらった。


フェリスを好きなこと。アンドリューとの婚約を解消したいこと。


「それなら私に任せておいて。お姉さまの望みを叶えてあげる」


エリザベスは、自信ありげに微笑んだ。


それからというもの、エリザベスは、私とアンドリューのお茶の席に同行するようになった。


エリザベスがアンドリューを落とすのに、そう時間は掛からなかった。


そして、今日という日を迎えた。


エリザベスは、可憐に微笑んだ。


「アンドリュー様から婚約破棄させれば、この家には何のお咎めもないわ。けどアンドリュー様には呆れたわ。卒業パーティーに私を呼び出して、まさかあんな真似をするなんて。お姉さま、ごめんなさないね」


「良いのよ。婚約破棄を皆に知らせる手間が省けて、むしろ良かったわ」


「全てが計画通りね。私は将来、王妃になれるし」


私は急に心配になった。今回の件でも分かる通り、アンドリューは、顔だけしか取り柄のない男だ。エリザベスは賢くて美しい。もっと相応しい相手がいるのでは?


「アンドリュー様は、あの通り、あまり賢くない方よ。本当に良いの?」


「確かにポンコツよね。けど、顔が良いもの。お姉さまはご存じでしょ? 私が面食いだって。アンドリュー様になど、何も期待してないわ。王妃になったら私が陰で政務を行うの。その後は、王子を産んで、しっかり教育すれば済む話よ」


エリザベスの面食いには理由がある。


親戚に子供が生まれた時、エリザベスは、大変なショックを受けた。夫人はとても美しい方だったから、さぞ可愛い子供を想像していたのだろう。けれど、子供は主人に似て不細工だった。それ以来、子供のために相手は顔で選ぶと言い切っていた。


エリザベスの割り切りには、あっぱれとしか言いようがない……。


「お姉さまも面食いよね。フェリスはアンドリュー様以上だもの。あとは、お姉さまがフェリスと結ばれれば、この計画は完璧よ」


「問題はそこよね。フェリスは私を主としか思っていないようだし、何より身分が……。お父様もお母様も反対するに決まっているわ」


フェリスとの出会いは、七年前の雨の日だった。


路上に倒れている少年を、偶然、馬車で通りかかった私が見つけた。


その時、少年は、全身傷だらけだった。余程怖い目に遭ったのか、記憶も失っていた。


私は、少年を連れて帰り介抱した。


数週間後、私は、回復した少年の名を決めるために、様々な名前の由来を調べた。


「とりあえず、名前はフェリスでどうかしら?」


「……フェリス?」


「男性としては稀な名だけど、幸せという意味の名。この世は、怖いことばかりではないわ。貴方は、きっと幸せになれる」


フェリスは、小さくフッと微笑んだ。


「嬉しいよ。ありがとう……」


あの時の柔らかな微笑み。私は一瞬で恋に落ちた。フェリスと、この先もずっと一緒に居たかった。


私は、お父様に何度も頼み込んで、フェリスを私専属の執事にしてもらった。


フェリスは、子供の頃から呑み込みが早く、とても優秀だった。文字も私が教えると、あっという間に覚えた。何より驚いたのは、剣術の腕前だった。華麗な剣さばきには目を瞠るものがあった。騎士団の子息にも引けを取らない強さだったわね。


「それなら、何の問題もないわ」


エリザベスの声に、私は我に返った。


「どういう意味?」


その時、屋敷の前に、従者と護衛を伴った馬車が停まった。


窓の外を眺めていたエリザベスの顔が、パァッと華やいだ。


「そろそろ来る頃だと思った。グッドタイミングだわ。お姉さま、行きましょう!」


エリザベスは、私の手を取り走り出した。


「待って。エリザベス!」


私は手を引かれるままに、部屋を出た。


ドアの前に控えていたフェリスの前を、走り抜ける。


フェリスが、驚いた顔で私たちを追ってくる。


「お嬢様!」


屋敷の入口まで来ると、エリザベスは、ようやく私の手を離してくれた。


入口には、煌びやかな衣服を纏った男性と、その従者、護衛と思われる十数名の姿があった。


出迎えた執事長が、アタフタと困惑している。


中央に佇む威厳に満ちた男性に向かって、エリザベスは、淑女の礼をする。


「ようこそおいで下さいました。隣国、カイル帝国の皇帝陛下。私は、エリザベス・ドゥ・ワイマールと申します」


どういうこと? この方が、隣国の大国、カイル帝国の皇帝陛下なの!?


私は、慌てて淑女の礼をする。


「エリザベスの姉、マリアンヌ・ドゥ・ワイマールと申します」


陛下は、私たちではなく、なぜか私の隣に立つフェリスを見つめていた。


エリザベスは続ける。


「やはり面影がございますか? こちらにおられる殿方こそ、七年前に誘拐され、その後、行方不明となったルーカス殿下に間違いないかと。首元には、フルール・ド・リスの痣がございます」


陛下は、フェリスに近づくと、スッと手を伸ばした。震える手で、フェリスの頬に触れる。


「面影がある。ルーカス……。本当に我が息子、ルーカスなのか?」


フェリスは、戸惑いの表情を見せた。


まさか……。フェリスは、皇帝陛下のご子息なの?


陛下は、首元のフルール・ド・リスの痣を覗き込んだ。途端に、瞳を潤ませた。


「間違いない。ルーカスだ。生きていたのだな……」


陛下は、フェリスを力強く抱き締めた。


次の瞬間、傍にいた十名ほどの従者が、一斉にザッと片膝を突いた。


「ルーカス皇太子殿下!」


嘘でしょ……。皇太子殿下? ということは、第一皇子!


えっ!フェリスって、皇太子だったの?と思った方は★★★★★とブクマをお願いします!

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