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0009‐商隊救出③

 

 魔物の通った痕跡はわかりやすく残っていた。

リルルの言った通り大型の魔物が通った後、そして数はわからないがどうやらゴブリンもその後に続いているようだ。

5騎の竜はその後を迷わず辿っていく。


商人達が襲われた時間とカイ達が救出に入った時間、そしてゴブリン達の行軍速度からおおよその距離を割り出す。

そこから考えるとそろそろ接敵するか…というところで、辺りに兵を隠すことができそうな場所を見つけたカイは後続にサインを出す。

サインに従い、セルゲイ以外がそこで停止。

カイとセルゲイはそのままゴブリン達を追い、そしてその後続を目視で捉えた。

そして数秒もしないうちにソレを見つけた。

オーク、そしてその腕に抱えられた人間。


その姿にカイはセルゲイに救出するため声をかけた。


「大尉、先行する援護を!」


「おうさ!」


言ってカイはスピードを上げオークに近づくがまるで気が付かないオークとその取り巻きをしているゴブリン達。

カイが十分迫ったのを確認しセルゲイはカイの要望に答え、槍を構え…走行中の騎乗から思いっきり投擲した。

その一撃は見事オークの肩に命中し、その腕が緩み人間の少女が放り出された。


オークに攻撃を仕掛けようとしていたカイは後ろから飛んできて見事オークに命中したそれを見て「すご…」と思わず呟いてしまった。

カイとしてはここまでの事をお願いしたつもりはなかった。

カイ自身も血反吐を吐くくらいの訓練はしており槍を投擲し敵に当てることはできるだろう。

それはトールソンの土地柄できなきゃ死ぬという環境であったためである。

だが人質がいる状態だけでなく騎乗した状態でそれができるかと言ったら当然否である。


たまに体が痛むとぼやくようになったが流石歴戦の戦士である。

もし女であったのなら黄色い声の一つでもあげたい所だ…彼が振り向くことはないだろうが。


カイはすぐさま少女の方に意識を切り替えた。

放り出され地面に転がった少女を直ぐに回収、そのまま急いで引き返した。

セルゲイも槍を回収しオークに止めも刺さずにUターン。

あまりの突然の出来事にゴブリン達も呆然としていたが、ようやく獲物を奪われたことに気が付き後ろでギャッギャと騒ぎ始め、オークの怒号が森に響いた。


来た道を引き返すとほどなくして先ほど他のメンバーと別れた地点へ到着する。

そこでは、クルセイが一人ウォーハンマーを振りながら合図を送っていた。


カイとセルゲイの二人はその合図をしていた地点を騎竜でピョンとジャンプし、セルゲイはそのまま茂みに消えていった。

カイは一人少女を抱えたままその地点から距離を取り待機する。


「オーク1、ゴブリンおよそ20。少尉はオークを狙え。

外したら今晩は大尉と同室にして特別訓練をつけてもらうぞ。」


経験の少ないプーサの緊張をほぐしてやるために冗談を交えつつ指示を飛ばすと茂みの中から「ヒェッ!」という声が聞こえてきた。

おや?どうやら緊張を解すのに失敗したらしい…後で文句を言われたら新人への洗礼とでも言っておこう。



カイの腕の中には先ほど助けた少女が憔悴した顔でガタガタ震えていた。

あれだけ恐ろしい目にあったのだからしょうがないと、自分のポンチョを少女に着せて背中を軽くさすりつつ、帯剣していた剣を引き抜いた。

そうこうしているうちに、オークとゴブリン達が追い付いてきたようで、わめき声が聞こえてきた。


「えっ?…いや!…逃げ…いやぁぁぁぁ!!!」


少女がオークの声に気が付いて、錯乱を始めた。

カイは暴れて竜から落ちないよう押さえながらジッと魔物たちを迎え撃つ。

少女の叫び声は魔物たちの格好の標的となった。

そして、目の前にいるのは自分たちの獲物を盗んだ相手一匹。

止まる理由も恐れる理由も何もなかった。


そして、オークはそのまま突撃をかけ…ものの見事にすっころんだ。

転んだ場所には草に隠れ、木と木の間にロープが張ってあったのだ。

この地点に待機していた際にクルセイが用意していた罠である。

魔物たちはいきり立って全速力で走っていたため前方に異常があっても簡単には止まれなかったのであろう。

続いていたゴブリン達も面白いように次々と転んでいく。


そしてカイが「やれ!」と一言いうと草むらの中から矢が一本、オークにめがけて飛んで行った。

矢は見事にオークの頭に命中、その一発だけでオークはわけもわからないまま絶命した。

オークのおこぼれ目当てでついてきたゴブリン達はこれには理解が追い付かない。

いつの間にかオークが動かなくなっていたのだから…


オークに矢が命中したのを見て、カイは黒百合の装飾が入った美しい剣を大きく掲げ…


「殲滅せよ!!」


掛け声とともに振り下ろした。


その攻撃命令に従い、茂みの中からプーサを除く全員がゴブリン達を囲むように現れ攻撃を仕掛けていった。


ゴブリン達は何が起きているのかが分からなかった。

一匹の人獲物を追い詰めていたはずが、突然何かに足を取られ転んでしまい、起き上がったらいつの間にか大群に囲まれているのだ。

自分たちより遥かに多いと感じたそれにいとも簡単に混乱し、何もできずに数を減らしていった。


攻撃しているのは部隊のメンバーだけではなかった、騎竜たちも参加していたのである。

騎竜に使われるランドドラゴンは魔物であり、ゴブリン程度を倒すことなど造作もないほどの力を持っている…というよりも、ランドドラゴンにとってゴブリンはただの餌なのである、負けるはずがなかった。


セルゲイの槍で薙ぎ払われ、クルセイのウォーハンマーで頭をたたき割られ、イオのククリに首を刈られ、4匹の竜たちのかぎ爪で切り裂かれ、牙で食いちぎられる。

なんとか逃げ出せたゴブリンもプーサの弓によって後ろから射殺されていった。


もはや一方的な蹂躙…というよりただの作業であり、戦闘時間は1分あったかどうかの間に終わってしまった…


―――――――――――――――――――


 カイの手の中には今だ震えている少女…メルルがいた。

オークの出現に怯えヒュッ、ヒュッと過呼吸状態になっている。

もはや敵の気配はなくなったとはいえ流石にこのままここにいるのはまずい、早いところ妹に会わせてやらないやらないと冷静になれないだろう…

そう思いこの場を他の物に任せることにした。


「俺は先に帰るイオはこのまま護衛についてくれ。プーサ、魔石はオークだけでいい。他も死体の確認が終わったら帰投しろ。」


イオが自分の騎竜に乗ってトコトコついてくるのを確認するとカイはその場を後にした。

メルルの背中をそっとさすり「もう、大丈夫ですよ…」と優しく声をかける。


しばらくすると、若干呼吸が落ち着いてきたように見えたカイが、彼女の身近な人の話を振る。


「リルルのお姉さんでよろしかったでしょうか?妹さんがたいそう心配していましたが無事で何よりです。」


そう言って、微笑みかけようとした瞬間メルルがハッと気づいてカイに問い詰めた。


「リルル…そうだ!リルルは無事なの!ねえ!!リルルはどこ!!!」


胸倉をつかむ勢いでカイに問い詰めるメルル。

護衛のイオが思わず反応してしまったが手で制止させ、リルルの無事を教えてあげた。


「え…ええ。無事ですよ。今仲間が保護しているので商隊の場所に着いたらすぐに会えると思います。ご安心ください。」


「ああ、そうなんだ…ああ、よかった…」そう言いながら張り詰めた糸が切れたように脱力したメルル。


カイはメルルが落ちないようそっと肩を抱いた。


………


そこでメルルはハタと気が付いた。

自分の置かれている状況が変化していることに…


さっきまで自分はオークに担がれ、連れ去られていたはずだ。

そして、これから自分はオークやゴブリンに人としての尊厳をすべて奪われ嬲られる予定であったはず…

身動きも取れず、叫んでも魔物たちがケラケラ笑うだけ、命を絶つにも方法がなく覚悟もない。

グルグル自分の思考が周り気が狂いそうになっていたところで…


はて?

なぜ私無事なのだ?


そしてなぜいつの間にかお姫様抱っこで王子様の腕の中にいるのだ????


メルルは自分の眼前に広がる人物の容姿に目を奪われ、現状の把握が全くできない状態になっていた。


…え?男…女…?


メルルは考えた…


いやいや、こんな奇麗な男がいるわけがない…では女?

でも胸はないし、何より王子様じゃないか?

王子様と言えばくそ野郎(憎き男)である…

いや、くそ野郎じゃないから王子様なのか??


考えた…


ところでなんかいい匂いするな…

はっ!!まさか魔物がなんかのフェロモン出してメスを幻覚状態にして発情させているのでは??


考えたんだ…


とりあえず何かのフェロモンが出ているのは確かだ…現に今私発情してるし!?


そして、考えるのをやめた。


例え幻覚だとしてもそれに身をゆだねちゃえばもうどうでもよくないか??

男とか女とか今はどうでもよくないか???


「もう…男でもいいや…」


そんなわけのわからない事を言って、カイに体を預け胸に顔をうずめクンカクンカ匂いを嗅ぎながら腰に手を回したのである。


メルルが腰に手を回したことで肩から手を離したカイ…

うすうす感じてはいるのだ…


これは…また、やっちまったんじゃないか?…と


それが確信に変わったのは頭痛を抑えるようなしぐさでため息をつくアルフィーの姿を見た時であった。

なお、姉妹の再開はカイに見惚れて涎をたらしているいるだらしのない顔をしているメルルがリルルに不意打ちを食らわせる形で実現した…

この時邪魔者扱いをされた事をリルルは一生忘れないだろう…


―――――――――――――――――――


「うぅ~、せっかく昇進したってのにあんまりだ。」


オークの魔石を死体から剥ぎ取りながら泣き言をいうプーサ。

魔石取りというのはトールソンでは子供がやる仕事の筆頭である。

プーサ自身も数年前までは小遣い稼ぎにやっていたバイトなのだが、要は魔物の解体だ。


魔石を取らないと、それを食べた魔物が狂暴化することが分かっている。

ランドドラゴンも主食はゴブリンであるが、魔石を取ってから食べさせないと段々気性が荒くなっていき手が付けられなくなってしまう。

なので、騎竜の調教は勝手に魔物をつまみ食いしない事を覚えさせることが必須で、騎乗者も竜に断固としてつまみ食いをさせない態度が求められる。

子供の頃、魔石取りをする際はトールソンに広がる魔の森を浄化するためにとても大切な仕事だから確実にやりなさいと口を酸っぱく言われたものだ。

だが、危険がないから子供の仕事なだけで汚いし臭いからもう絶対やりたくないとプーサは思っていた。

だからこそオークの魔石だけでいいと言っているのだろうが…嫌なものは嫌だ。


「カイ様直下で喜んでたっしょ?メンバー編成見て自分が一番下っ端だって気づかなかった?」


カイという人物はトールソンでは控えめに言って英雄である。

子供たちに憧れる人間を聞いたら、物語のヒーローヒロインか大抵がカイ様と答えるだろう。

これが、上の世代になるとカイの母親や父親の名前が上がるのではあるが…

プーサ自身もカイの立てた孤児院で育ったくちであり、子供時分にはカイに直接世話をしてもらったこともある。

なので、カイの下で働けるというのは憧れの人の下で働けるという栄誉であったのだ。

軍学校を卒業したばかりのプーサが信じられない大抜擢であった。

理由は軍学校で座学において歴代最優秀な成績を収めたことと、脳筋しかいないトールソンで珍しく文官志望だったこと。

それと子供のころから所属しているアルフィー配下の少々変わった音楽隊"フィドラークラブ"での実績が認められた形だろう。

プーサはトールソンにおいてはエリートであり、それなりにプライドもある。

なので思うところもあるのだ…。


「俺、イオと同い年なんすけど…」


イオはカイのスカウトという形になっており階級も特務中尉。


そのイオなのだが。

入隊経緯が特殊でアルフィーレベルでないと事情を知らされていない。

ただ、プーサやクルセイと同じ家名をもらっていることからカイに保護されたのだとわかる、仲間意識だってある。

クビ筋に残る首輪の後から大体の事情も察することができるので同情もする。

ただ、カイが直々に世話を焼き優遇される姿が面白くないこともある。

まあ、ただの愚痴だ。


「じゃ、仕事取り換えてもらうか?」


「それは無理…人外でしょあんなの、絶対死ぬ。」


先ほどの戦闘にしたってそうだ、騎竜の走る速度で馬車の間を縫うように敵を打倒していくなど、プーサには絶対できない。


イオの階級である特務中尉…

"特務"とは軍で活動するにあたって魔力の高い魔法兵をどう扱うかで悩んだ末にカイがとりあえず言い始めた階級である。

魔法兵…これは、敵を打倒すのにあたり最も強力な力である。

ゆえにないがしろにできない…のだが…

単体の火力が強いからと言って指揮能力が高いわけではない。

そんなものに指揮権など渡したくない…が同時に魔法兵をないがしろにするのもあり得ない。

高い給料渡したいし、能力に見合った地位を与えたい。

そんなわけで苦肉の策として"特務"と言い出した…つまり、脳筋の称号である。


「イオにとってもプーサの仕事は酷だろう、お前にはお前の、イオにはイオの仕事があるんだ。そう悲観することもあるまい。」


笑いながらセルゲイが背中をバンバン叩き励ます。


「そうっすけど…それよりもあれ、ずるくないですか??」


女の子に抱き着かれているカイを見てクルセイに愚痴るプーサ。


「んなもん、今に始まったことじゃないだろ。

どうせカイ様が相手にしないのわかりきってんだし。」


カイに惚れている女の数と嫉妬する数はトールソンの人口の半分ずつという冗談が存在するほどだ。

それでも、ああやって抱き着いてくる女に手を出したという話は全くと言っていいほど聞かない。

一時は男色なんじゃないかという噂まで流れた…まあ噂の出どころは見当がつくのだが。

それでも羨ましいのは変わらない。


「それよりも…だ、カイ様に振られた女の傷心に付け込んで口説けば簡単にゲットできるって思わないのか?」


「それ…成功したことあるんすか?」


「いつか成功すればいいんだよ!一回でいいんだ!何度も挑戦すればいつかは相手してくれる女が現れる!」


カイを当て馬代わりにしようとするクルセイだが、実際にはダメな男の典型例としてカイを引き立てるだけであった。


「なんだなんだ、そんなに羨ましいのなら今夜俺の寝床に来いよ。優しくしてやるぞ?」


そういってプーサの尻を撫でてくるセルゲイ。


「羨ましいのはそっちじゃねぇよゲイ大尉!いい年して少しは自重しろ!」


プーサの全身に鳥肌が立ち、思いっきり距離を取り罵倒し、矛先を変えようとした。


「ったく、そうゆうのイオにやってくださいよ。カイ様の尻ばっか追いかけてるんすから喜ぶんじゃないですか?」


「「??………」」


プーサが言うと、黙りこくって目配せするセルゲイとクルセイの二人。

そしてその意思は合致した。


「ああ、そうかもしれんな~(棒)」


「プーサ…お前はそのままの君でいてくれ。」


まるでゴブリンのようなニタニタとした二人の笑顔に不信感を抱くプーサだが、もはや二人のおもちゃになることは確定している。

長くなる王都出張…酒の肴は多いに越したことはない。


「一体何なんですか~!!」


二人が何を考えているかわからないプーサが不満の声を上げるがそれは二人にとってはご馳走であった。


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