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0007‐商隊救出①


 カイの率いる一行は騎竜に乗って森の中を駆け抜けていた。

全員が森に溶け込むような深い緑色のポンチョを着ており、荷物を積んだ竜を森の中とは思えないスピードで駆けていく。

カイが王都にある学園に通うこととなったためトールソン領からの旅の途中である。

本来なら街道を走っていくのが普通なのだが、乗っている騎竜に若干の問題があった。


カイたちの乗っている騎竜は二本足で走る小型の竜である。

最高速度が訓練された馬の方が早いことと気性が荒い事が難点であるが、馬と比べると走破性、走行距離、馬力とこの全てにおいて勝っており頭もいい。


トールソンでは重宝されるのだが、王国方面では全く使っている人間はいないだろう。

騎竜の調教はカイが昔興味本位で手に入れた卵を孵化させたことが発端であり、その調教方法をカイが王国に広めていないため普及しようがないのだ。


そして、この騎竜にはランドドラゴンという名前のついており立派な魔物なのである。

この魔物というのは王国では忌避の対象…生理的に全くと言っていいほど受け付けないのだ。

ドラゴンというのが力の象徴として見られることもあり少しはマシではあるのだが…

ランドドラゴンという魔物だがいざ戦うとなると正規兵が何とか相手になるかもというレベルの魔物で、一般人が出会ったらもはや諦めるしかない。

そんなものが、集団で街道を爆走しているとどうなるか?

街道を利用している一般人がすれ違うたびに叫び声をあげる何とも迷惑極まりない状況になってしまったのだ。


そんなわけで、セルゲイの「坊、この森まっすぐ抜けちまえば迷惑かからんしショートカットになるんじゃないか?」という提案をどうせだからやってみるかと採用することにしたのだ。

王国の道は魔物の領域を避けるように蛇行していることが多々ある、が魔物を討伐しながら進む戦力はそろっているのでカイは問題ないと判断した。


慎重なプーサが一人反対していたが、その慎重さをかって先頭を行ってもらうこととなった。

手入れされていない森を騎竜に乗って走るなど経験の少ないプーサにとっては正気の沙汰ではなかったが、他のトールソン勢にとってはそれが日常である。

毎日、魔物が巣くう森で狩りを繰り返しているのだから文官志望でもなければできて当然なのだ。


「俺は文官志望ですよ!?」


このプーサの悲痛な訴えは、ジョークとして笑顔で流されてしまった。

…パワハラ?いいえ、期待です。


「プーサ、ランドドラゴンは森の中を駆け抜ける事に特化した魔物だから、方向だけ指示して任せれば後は障害物はよけてくれる…後は度胸だ。むしろ、これでビビっているようだと騎竜に舐められるぞ。」


カイに言われ、後ろからアルフィーに舌打ちされればプーサのような若い世代の人間では反論するには難しい。

涙を呑んで了承するしかなかった…。

意を決して出発すると後ろのカイからアドバイスが飛んでくる。


「頭を下げろ!枝に当たると死ぬぞ!」


泣いた。




 森の中を駆け抜け、そろそろ街道に出るかといった辺りでどうも様子がおかしい事に気が付く。

最初に気が付いたのはアルフィーで「止まれ!」と全体の進行を急停止させた。


「カイ様、声が聞こえます。…戦闘をしているようですね。」


言われて、カイも耳を澄ませて周囲の音を聞く…


「ああ、確かに…プーサ!先行して街道を確認してこい。」


「ええ?聞こえませ…りょ、了解しました。」


不平を言おうとしたのをアルフィーの眼力で止められ、すぐさま街道に向かい確認しに行くプーサ。

その他一行は速度を緩め警戒しつつ進軍する。

街道に出たカイたちは今度は道なりに音が聞こえる王国方面へ進んだ。


間もなくプーサが慌てて戻ってくる。


「カイ様!この先500m程で戦闘です。商隊の車列が魔物の群れと交戦、岩肌を背に囲まれ劣勢です!」


「魔物の種類と数は?」


アルフィーが足りない報告に確認を取る。


「ゴブリン、数は目視できただけで20程度、50以上はいそうです!」


それを聞いたカイは直ぐに指示を飛ばした。


「アルフィーは最後尾で警戒、プーサも下がれ。セルゲイ先頭で敵を蹴散らせ、クルセイと俺で打ち漏らしをやる。

イオは遊撃だ。いくぞ!」


進軍スピードは経験豊富なセルゲイに任せ、駆けながら隊列を組んでいく。

ほどなくしてプーサの報告通り、囲まれている商隊の車列が見えてきた。

どうやらゴブリン達はケタケタ笑いながら代わる代わる牽制を繰り返し、商人たちが限界を迎えるのを待っているようであった。


一行はスピードそのままに、車列に沿って展開しているゴブリン達に対して突撃をかけた。


セルゲイが槍で薙ぎ払い、残った敵をカイとクルセイがウォーハンマーで頭をたたき割っていく。


イオはプーサに自分の騎竜を任せ馬車に隠れた敵や、商人たちと戦っている敵を次々とククリで仕留めていった。

その速度は決してカイたちのスピードに劣るものではなかった。

ただ、時折商人たちから礼を言われるのだがフードを深くかぶって逃げるように去ってしまう…


アルフィーは状況から前線に支援は不要と判断したため、プーサに死体の確認を指示し自分は車列後方からの監視に専念することにした。

プーサは竜から降り自分とイオの竜を引きながら倒れているゴブリン達が死んでいるか一体一体剣を突き刺し確認していく。


戦闘はごく短時間で終わったのだが、その間にアルフィーは森に何かいる気配を感じた。

そして、ソレを見つけてしまったため一人森へと入っていくのだった。


―――――――――――


 程なくして事が終わると商隊のリーダーがセルゲイの下に駆け寄ってきた。


「騎士様!この度はどうもありがとうございます、おかげで命拾いしました。

私はこの商隊のリーダーを務めている者です。」


騎竜に気づき、恐る恐るという感じで歩み寄ってくる商人。


「ふむ?そうか、少し待て。」とセルゲイが状況を話始めそうな商人を静止させると、そこに森に逃げようとしていたゴブリンの残党に追い打ちをかけていたカイとクルセイがちょうど戻ってきた。


「坊!こいつがリーダーだってよ!」


セルゲイが呼んでみせると商人がはて?という顔を見せる。

「すぐに行く!」と返事をするのは黒髪黒目の美しい少女だった。

商人はすぐさま美辞麗句を用意し挨拶をしようとしたが、その前にカイが竜から降りて先に挨拶をしてきた。


「商人殿、助太刀が必要だったかは不明でしたが、相手が魔物であったため介入しました。

俺はトールソン男爵家嫡男、カイ・トールソンです。」


そういって短剣の家紋を見せてくるカイに対して思わず「え…?」と声を漏らしてしまった商人。


商人たちが見たのは勇猛に敵を薙ぎ払っていくセルゲイの姿であり、他はただの付き人だろうというのが第一印象である。

そして、格好を見ると全員森では目立たないような地味ポンチョを着込んで魔物である竜に乗っているのだ…

本当の所は謝礼金目当ての冒険者か何かと思っておりセルゲイに"騎士様"と声をかけたのもただの社交辞令だった。


エルデバルト王国での騎士爵とは男爵以上の貴族が自身の権限で任命できる一代貴族である。

男爵家では基本的に2名の枠があり、国王から褒美としてその枠が増やされることもある。

古くから続く貴族家では、代々そこに仕える騎士を抱え込んでいたり、自分の嫡子以外の子供に騎士爵を与えることもある。

カイからしてみれば、跡目争いがあると人間関係ドロドロしそう…という感想ではあるのだが。


そんなわけで、こんなところにポンポン本物の"騎士様"が湧くわけないのだが、一般的には戦場で活躍する戦士たちの憧れは貴族である騎士爵をもらうことである。

なので、戦場で活躍しそれっぽい人間にはお世辞を兼ねて一緒くたに騎士と呼んでしまうのである。


ちなみにセルゲイはガチホモの騎士様である。


硬直してしまった商人をジッと見つめるカイ。


「し、失礼しました!貴族の方がいらっしゃるとは思わず…」


そう言って慌ててカイに対して挨拶しなおす商人に、カイは「計画通り!」と心の中で鼻を膨らませた。


貫禄のあるセルゲイがいれば条件反射でそっちに挨拶をして自分が無視されるはず。

「相手が先に無礼な態度をとったらマウント取れる!」と名案を思い付いたように話すカイに、周りの反応は「せこ」と一言呟くだけであった。


なぜこんなセコい事をしているかというと、それはカイがあまり交渉事が得意ではない…むしろ苦手であることが原因だ。

足元を見るのが苦手だったり、泣き落としに弱かったり…正直何度も騙されているのだ。

なのでこれは、華麗に交渉事を進めたいと夢見るカイのささやかな抵抗なのだ。


ちなみに、そのだましてきた相手がアルフィーに物理的に後悔させられたり、顔真っ赤でほっぺを膨らませたカイから謎テクノロジーを導入され自分たちの仕事が同業他社ごと焼き尽くされたりが続いたため、トールソンではカイを騙したら抹殺されるという物騒な噂がささやかれるようになってしまったのだが…。

それでなくても、カイの顔は舐められたり口説かれたりと色々苦労もあるのでその点でもセルゲイを前に出しておくことは有用であるのだ。


完全に初手でペースを持っていかれた商人はカイとセルゲイに状況を話し始めた。

ちなみにクルセイはというとカイの傍で周囲の警戒という名の欠伸をかくのであった。


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