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0002‐外伝01 後編

 しばらくしたら目を覚ました。

少女と男の下品な馬鹿笑いにたたき起こされたのだ。

酒を飲みながらバカ騒ぎをするこいつらをすぐにでも怒鳴って黙らせたかった、先程の心地よさを返してほしい。


しかし、話している内容が自分の事では目を開けて怒鳴るに怒鳴れない。

確かに囮になって野盗たちの前に出たはいいが、久々の実戦に体がついていかず落馬…。

我ながら情けない事だが、そこまで笑う事ではないだろう!

私の自己犠牲の精神を少しは買ってほしい!

しかも、逃げた愛馬は20年来の相棒だったんだぞ!

そして、息子たちに切り捨てられたことも笑うところじゃないだろ!

きっと息子たちは断腸の思いで野盗との交渉に応じなかったに違いないのだ!

そうでなければ泣くぞ!!


起きるに起きれなくなったのでふて寝を決め込み、聞き耳を立てていた。

悪鬼と男は酒、ギャンブル、娼婦の話や貴族や金持ちの悪口など下品な話を永遠と続けていた。


目を閉じてさっさと寝てしまえばよかったのだがそれをしなかったのは

少女がどんな人間なのかが気になったからだ、もしかしたら自分の事を何か話すかもしれないと。


しかしその期待を外れる事になった。

少女ではなく男の身の上話となったためだ…。



 男は鍛冶屋の三男に生まれたらしい。

父親が鍛冶屋というまともな職を持っていたため平民としてはまともな暮らしをしていただろう。

真面目に働くことを誇りとした父をそれなりに尊敬していた面はあった。


しかし、父親が鍛冶屋であっても後を継げるのは長男。

結局出来るのは長男の下でひたすら下働き…まるで自由のない奴隷のような扱いだったのだという。


まあ、よく聞く話だ。


ちなみに貴族では高い魔力を持った男が跡継ぎとなる事が多い。

もし男子に恵まれなければ女が後を継ぎ比較的魔力の高い男を婿に迎えることが通例である。

そして、次に魔力が高い者をスペアに…


他の者たちはというと…戦で戦功をあげ一旗あげるか、平民として生きるくらいしか道はない。

余裕がある家ならばその家で暮らしていくことは可能であろうが、間違いなく肩身の狭い思いをするだろう。

もちろん子供を産める女の選択肢はもっと多い、自分で選択できるかはまた別の話であるが。


結局、男は自分の扱いにとうとう耐え兼ね、父親と兄を相手に喧嘩になったそうだ。

その夜、家の金を盗みそのまま住んでいた故郷から飛び出し新たな地で生きる事にした。


男は自由を手に入れた。何でも出来るのだと確信していた。

…しかし、男が手にした自由というのは残酷だった。


来る日も来る日も職を探しては断られ続けた。

当たり前だ、どこの馬の骨ともわからない男を誰がすき好んで雇い入れようと思うのか…。

結局ハンターギルドで自分でも出来る仕事を探してその日暮らしの毎日。


無論、報酬などたかが知れており家から盗んだ金を少しずつ切り崩していった。

金もそこをつき、とうとう後がないという所でやっとの思いで見つけた鍛冶屋で住み込みでの働き口。


自分にもやっと運が向いてきたと思った。

しかし、そこで待っていたのは自分の足元をみた奴隷のような扱いだった。


ほとんど休憩も休みもない肉体労働、日常的な虐待、それで貰えるのが少ない食事とくすんだ銅貨。

資産である奴隷の方がよほどマシな環境だったのかもしれない…。


そんなある日に見た光景…それは跡取り息子が親方に自分の作品を見てもらっていた時の事だ。


『ちっとはマシにはなったがまだまだだな…。まあ、店の隅にでも置いておいてやるか…』


憎かった…自分の自由を啜って成功していく奴等が…。


………


そして男はその夜、親方のハンマーを手に取り自慢の跡取り息子の頭を叩き割った…。


その後の事はよく覚えていないらしい…

だが、住んでいた街にいられるわけもなく、すぐにその街から逃げ出しまた別の街へと流れていったそうだ。

流れ着いた町ではもう職を探すことは諦めていた。

殺人を犯したのだ…もういつ警備隊に噂が流れてもおかしくない。


盗みを働いては酒とギャンブルに溺れ運よく大金が入ったら娼婦を買い、住む場所を転々と変える…

そんな典型的なろくでなしになっていた。


ある時、男の下に一つの仕事が舞い降りた。

それは、商人の荷馬車を襲う野盗の手伝いだった。

正直腕っぷしには全く自身が無かったのだが、護衛よりも数が多いことが重要なのだとか。


どうやら商人が質の悪い護衛を雇ったという情報を手に入れたそうだ。

その時金が無かったのもあって、物は試しとその仕事に応じた男。

棍棒を持って野盗たちの傍で荷馬車に向かって罵るだけの簡単な仕事。


護衛達は数を見て分が悪いと悟って交渉に応じ残った商人は殺された。

僅かな金を受け取って荷馬車を見捨てたのである。


荷馬車には運よく女が同乗していた。


本来、親分が一番に頂くのが決まりだったがその時は手伝ってくれたお礼として男が一番に使っていいと言われ、

仕事の報酬も実入りが良かったからと予定よりも多く貰うことが出来た。


野盗たちは今まで出会ったどんな人間たちよりも"誠実"であった。


その夜、野盗たちと飲みかわす酒は今まで飲んだどんな酒よりも美味いものだったそうだ。

こうして、男は野盗となった。


人を襲い、殺し、奪い、仲間と騒ぎ金が入ったら街に降りて娼婦を買う。

男は再び自由を手に入れた。

到底許すことのできない自由を…。


少女はギターで音楽を奏でながら男の話したいままに話をさせ、時折「そうかい…」と相槌を打ち聞いていた。



 男の話が終わったのはそろそろ夜が明けようとする頃だった。

流石に寝たふりを続けるのもつらくなってきたのでこちらものそのそと起き上がる。


「くだらねぇ話を長々と悪いな…」


「気にすんな、よくある話だ。途中からまともに聞いちゃいねぇよ。」


「…たく、ほんと口の減らねぇ奴だな。」


「野菜もちゃんと食べなさいってのがうちのお兄ぃの教えなんでね。」


「何の話だそりゃ?」という男の質問には答えず、少女は大きく背伸びをしあくびをかいた後に男にさてと尋ねた。


「私はそろそろ行かにゃならん、…お前さんどうするよ?」


…選択肢などあるのだろうか。

人を殺した野盗が行き着く先は決まっている。

首輪を着けられ強制的に従わされる真に奴隷となる道。


もう一つが…


………


……



そして男は選択した…


他の全てを捨て、なお手放せなかったそれを。


「…いや、やっぱやめとくよ。あんなクズどもでも俺の唯一の居場所だったんだ…」


「そうかい…」


そういって立ち上がり剣を抜く少女。


「タダだから祈っとけ」


「あん?祈ったことなんてねーぞ…俺なんかが祈ったってしょうがねぇだろ?」


「神様なんて幸か髪の毛が薄いやつのためにいるんだから、テメーみたいなクズが祈ったっていいんだよ」


そう言いながら男から財布をひったくり中の銅貨を手のひらに取り出しガッカリした顔で自分の財布にしまう。

男は呆れた顔をしながら少女に尋ねた。


「タダっていったじゃねーか。」


「仲介料は別途かかるに決まってんだろ。」


「うへぇ…んで…どの神様に祈ればいいんだ?」


「なんでもいいだろ…、昨今は便所にも女神がいるらしいし」


「なんだそりゃ?」


「確か、汚ねぇ便所の神様でも美人なら徳のある神様になれるって感じの話だよ…」


「そうなのか…やっぱ美人は得だな」


「だろ?」


「…んじゃあんたが女神様でもいいんだな?」


「あぁん?わたしゃ便所と同格か?まあいいや…んじゃ祈れ」


「どうやるんだ?」


「そりゃお前…目と口を閉じて、昨日の晩飯の味でも思い出しとけばいいんだよ。」


「ああ…、ありゃうまかった。」


男は言われたとおり、静かに目を伏せた。



「女神?…女神ねぇ……」


少女はしばし思案し、そして役割を演じ始めた。


少女は詠う…


その表情に女神の眼差しで男を見据え…

口には微笑を浮かべ…

その声は全てを慈しむように…

その言葉は口汚い罵りで…



テメーは今から地獄に落ちる


当たり前だ…テメーはやりすぎた


いくら私でも救えねぇ


奇麗に死なせてやるんだ感謝しな


地獄に落ちた後のことは知らねぇが


まあ、今生の地獄でも許されたんだ…


せめて、またろくでなしどもと不味い酒でバカ騒ぎぐらいは許されんだろ…



少女は歌う…


森に…大地に…大空に響き渡る清らかなる歌声で。


異国の歌だろうか…?


いや…これは古の…大昔に滅びたとされた旧王国の古語で紡がれた歌。

言葉の意味は分からずとも一つわかる事…

それはこれが魂を鎮めるための歌であるという事だろう。


命を対価に特等席でこの歌声を聴ける男の事を羨ましいと思ってしまうのは、

自分が死を身近に感じる年になったからであろうか…


少女の周りを…いや、森中の…この大地全ての精霊達が舞い踊り、それを照らす朝焼けの中…

男と私は女神をみた…


「女神だってのに救えないでわりぃーな」


「気にすんな…」


「…言い残すことは?」


「先に逝ったやつらに教えないとな…、女神は口が悪かったって」


ニヤリと笑う男


「言ってろ」


笑う少女








「じーさん、あんたどうするんだ?通り道だったら送ってもいいけど…」


ゴミ捨て場に土で蓋をし終わった少女が土ぼこりをハタキながらたずねてきた。

私は血のりを落とした自分の剣を腰に差しながら答えた。


「頼めるか?もちろん謝礼は払う。」


「まじ!?じーさん金持ってんの?やった!」


少女の塗ってくれた薬がよく効いたのか傷の痛みはほとんど抜けていた。

つくづく不思議な少女だ…


口を開くとろくなことを言わない少女は、今は途中通りかかった行商人の馬車の荷台の上で静かな寝息を立てている。


先程まで軽快な異国の歌と音楽を披露していた。

若い行商人は神の作りたもうた曲だと絶賛していたが、やめればいいのに行商人は少女に対して曲の由来を聞いてしまう。

そして、行商人は少女に死体を探しに行くときの歌だと教えられすっかり意気消沈してしまった。

そんな行商人は今では先程まで褒め称えていたはずの神の曲を自らの鼻歌で冒涜するようになってしまっていた。


天使の寝顔を眺めながら馬車の荷台に揺られ…

ふと、昨日の少女の言葉を思い出す…


………


「…いや、やっぱり生ごみはダメだろ。」


ひどい詐欺にあったと…そんなどうでもいいことを思うのだった。


閲覧していただきありがとうございます。


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※☆評価は取り合えず1Ptとか出来次第で変えるとかでも嬉しいです。

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