0012‐プーサとイオ①
準備が終わりテントから這い出ると、セルゲイとクルセイの二人がこちらに気が付いた。
敬礼をして夜番の引継ぎを行う…どうやらアルフィーはまだ戻ってきていないらしい。
流石に夜はまだ冷えるのでテントを出て火の傍へ寄っていく。
商人達がいるので明かりがないと危ないことと、夜の魔物の脅威がトールソンと比べると驚くほど低いこともあって灯火管制を敷かなくていい事になっているため、夜番の間火に当たれるのが幸いだ。
トールソンの森の場合、浅い場所ならまだいいが少し深い所に入って火を焚いたら魔物が無限湧きして、とんでもない事になるのだ。
この無限湧きは軍学校で体験学習として一度は体験する事になる。
プーサも勿論体験したのだが、その時は臨時教官からは自分を越えれば火を消して構わないと言われ…
訓練兵全員迷わずに団結し簡易陣地を築き失禁しながらも一晩中魔物討伐にあたる事となった。
その雑なカリキュラムを取り仕切った臨時教官が赤髪で頬に傷がある目つきの悪い女だったのだ。
あの戦力で戦いを挑む判断をする奴がいたら訓練兵自らでそいつを軍学校から追い出す所存である。
そんな経験もあってか、トールソンを出てからも当然そのつもりでいたのだが…
最初、トールソンから出た直後はセルゲイから「灯火管制はいらん」と言われたときは皆で遂にボケが来たのかと焦った…
この場所は商隊が襲撃にあった場所から少し進んだ、商人たちが言っていた野営場所である。
そして、夜飯後に小休憩を入れていたプーサ達がこれから本格的な夜番に入る事になっている。
この後の夜番を前後半で分けて前半をプーサとイオ、後半をセルゲイとクルセイが担当する。
これは疲れた体で夜番をして眠りこけたら意味がないための小休憩と、
明日のプーサの仕事内容が他と比べて多くなる見込みであるための配慮だった。
二人は馬車で交代で休むのでちょっとくらい休憩時間が短くても問題ないと言ってくれた。
先輩方二人はプーサに気を使ってくれた形だ。
そして、同年代のイオと一緒の方が気が楽だろうという気づかいもあった。
プーサとしてはクルセイと一緒であってもよかったのだが、そうするとイオがセルゲイの横で寝ることになる。
…それはさすがに寝覚めが悪い。
ということでこれらには素直に感謝することにした。
流石は混沌とした時代のトールソンを最前線で支えてきた歴戦の勇士たちである、頼もしい限りだ…
ちなみにカイが編成に入っていないのは別に貴族だからというだけではなく、現行の指揮官であるからだ。
緊急時にはたたき起こして指示を出さなければならない指揮官が夜番をしていて使い物にならないなど意味がないのだ。
用事があって出歩く際も居場所を報告し、すぐに連絡を取れる体制を取っておかなければならない義務がある。
怠れば、きつい叱責が入るだろうし下手をすると指揮官失格の烙印を押されるかもしれない。
…まあ、カイを裁ける人間がトールソンにいるかという話はあるのだが。
副官であるアルフィーがこの場にいれば二人でもう少し柔軟に対応できるだろうが、いないので仕方がない。
そもそも、カイに下働きなんて誰もさせないし…
夜番が始まり、相棒のイオと焚火を囲み談笑…は、会話が一言しか続かないので無理。
しゃべらないし、二人だというのにフードを被ったままでプーサにはお手上げだった。
道の脇にある開けた空間での野営であり、周りは森なので視界は悪い。
監視も時たまどっちかが見回りをするぐらいで正直やることがなくて暇である。
武器の手入れ、装備の点検と補修、近くに川があるので簡単な洗い物ができるくらいか…
などと考え、次々にこなしていくプーサ。
イオだが…その間ずっとジッとしていた。
そして、日付が変わったくらいであろうか、唐突に本のようなものを出して何かを書き出した。
はて?と思いプーサがその本をちらっと確認すると…日誌?
(…なぜに今?…あ、もしかして今日の報告書くのに日付変わるの待ってたのか??)
もしそうなら相当どんくさい話であるが…どうも当たっていそうだ。
その日誌は士官に義務付けられている活動報告のためのものだ。
部下無し士官ではあるがプーサも勿論書いている。
義務付けられているとは言っても、セルゲイのような古参の叩き上げ士官のような人間達はまともな教育が受けられていない事もあってこのような書き仕事は少なくなっている。
特務士官でもあるのだしてっきりイオもそれと同様に書類仕事免除なのだと思っていたのだが…
プーサは本を読みながらその様子を観察してみた。
イオは少し書いてから、指を折り棒で地面にメモをしながら不安そうに日誌に書き込み…
そこで手を止めた。
………
しばらくそのまま硬直した後、パタンの日誌を閉じ置いてしまった。
(…え?はやくね?)
プーサもこういった書き仕事は得意なので早い方ではあるが流石にここまでではない。
もしかして既に書いていて何か書き足しただけだったり?
気になったプーサはスッとイオに違ずいて日誌に手をかけると。
瞬間イオが「え?」と驚きつつもククリを引き抜いてプーサの首に突きつけた。
一応想定はしていたが、本当にナイフを突きつけられてしまいプーサとしては内心ドキドキである。
だがここで引いてはいけないと自分に言い聞かせイオに向かって言葉をかけた。
「イオ特務中尉、この日誌は隊の共有資産であります。自分にも閲覧の権利があると思われますが?」
「…ぁ…うん。」
そう言って首に突きつけていたククリを引いてしまうイオ。
(おいおいマジかよ…)
こんな簡単な嘘に引っかかってしまうとは…、プーサは呆れてしまった。
イオは仮にも特務兵である。
そして、特務兵というのはかなり優遇されており、その待遇が配属先の指揮官に依存する。
特に指示がない限り指揮官の次席程度の待遇となるが、ほとんどの場合は混乱を防ぐために配属時にどの階級で扱うかを決めてしまう。
特務大佐がセルゲイ大尉の下で中尉待遇で運用されたこともあるのだ…。
なんでそんなわけのわからない事になるのかというと、特務階級というのが脳筋の称号だからである。
脳筋に指揮権なんか渡したくない、でも、必要であるのはわかりきっている。
ようは脳筋に働きに見合った給料を渡すための階級なのだ。
指揮を執るため特務兵が指揮官より偉そうにされたらたまらん…が他の兵士たち頼むから舐めた真似しないでくれ。
これが、特務兵なのである…メンドクセ。
イオはというと、プーサは配属時にイオの待遇については何も聞かされてはいない。
そして、この隊の指揮官とは誰かというと…トールソンの実質の最高権力者であるカイである。
カイ直属の特務兵…プーサが権利を主張したところで「ヤダ」と一言いえば吹き飛ぶくらいの権力をイオは今現在保持しているのである。
プーサとしては、イオにとって命令を聞かなければならないのはカイであり自分は眼中にないのだと思っていた。
が…実際はどうだろう、さすがにこれは従順過ぎないだろうか?
そんなことを思いつつも戦利品の日誌をパラパラめくり、先ほど記載したであろう場所を開く。
…
……
………
中々の破壊力だった…
書かれていたのは日付と…
『ゴブリン 24』
(ゴブリン24匹って多いな~………じゃなくてなんじゃこりゃ?)
こんなの軍学校で書いたら、小学校に送り返されるレベルの内容だ。
チラッとイオの方を見ると…すぐ目の前なのにフードを深く被って頑張って気配を消そうとしていた。
どうやら、自覚はあるようだ。
パラパラとめくっていく。
最近のページは0が並んでいたが、トールソンを出る前の日付からまた記述が増えてきた。
プーサは配属時に受け取ったものを使っているが、どうやらこの日誌はトールソン内でも同じものを使っていたらしい。
『オーク 20? (書き足し:24内キング1ソルジャー15)』
…
『ゴブリン . (群れの単独での引き付けと殲滅ご苦労様でした。)』
…
『トカゲ 5 (訂正線:レッサードラゴン4、ファイヤドレイク1※トカゲは下級ドラゴンの兵たちの間での俗称であり報告書では使わない事)』
………なんぞこれ?
パラパラめくっても似たような記述しかない。
戦果も記述もえげつない…脳筋特務兵ここに極まれり。
プーサの脳裏にイオに関するとある考察がよぎる。
カイがイオの待遇を明確にしなかった理由は?
これはつまりイオに権限を渡すためというよりは行動の全責任をカイが取るためと見たほうがいいだろう。
では、そんな足手まといになりかねないイオを連れてきたのか?
これはカイとイオの行動から察するにカイ自身でイオを保護するため…
長い年月…もしかしたら生まれた時からかもしれないが、奴隷として生きてきた証である首の痕。
高度な戦いの技術。
前職は暗殺者かなにかだろう…
なぜカイ自身がイオを保護しなければならないのか?
それは、そうしなければならない人間を狙ってしまったから…
では誰を狙ったかというと…
魔法兵を捨て駒にしてでも打ち取っておきたい誰か。
ついでに言うと子供に弱い誰か…
そこで、プーサは考えるのをやめた。
もし本当にそうだとしたら、それがたとえ自分の意志ではどうにもならなかったことなのだとしてもイオに普通に接する自信がないのだから。
そして…だ。
パラパラとめくった最初の方に書かれている一文。
それは今日書かれた文字とは違いすごい歪な字で書かれたもの。
『ふえをもらった。うれしかったです。
‐気に入ってもらえたなら俺もうれしいです。
頑張って練習して一緒に演奏できるといいですね。』
それを読んで日誌をとじた…いや、これは日記だ。
プーサは考えを改めた。
イオは紛れもなく、最近産まれたばかりの子供なんだろう…。
こんな何も知らない子供に大事な…多分戦略物資を預けようとしていたと思うとゾッとする。
これなら自分が持っていた方がマシである。
自分であれば状況に合わせて中の物資を破壊する事が可能なのだから…。
さてこれをどうするかを考えようか…
例えばイオが本当に小さな子供であれば、高魔力保持者向けの児童施設に入れればいいだけなのだが、イオは身なりは子供というには厳しい、あれは自分の魔力から自身と他者を守る事を覚えさせる本当に幼児向けだったりするから…
年の割には背が低いなとは思うが、奴隷でまともな食事を与えられなかった場合よく見られるのでおかしくはない。
そして、イオの行動を見ているとなついているのは完全にカイのみといった感じか…。
首輪奴隷が解放されたときによくみられる光景で、解放してくれたカイの事をそれこそ神のように崇めてしまうのだ。
そのため、ほとんどの場合がカイとは直接会わないようにして社会復帰を目指すのだが。
だが、イオの場合魔法兵であり暗殺者…他と一緒というわけにはいかなかったのだろう。
だから傍において教育をしているのだろうが、カイにもっと何とかならないのかと進言したところで無理だろう。
あの人はあれで常にクソ忙しい毎日を送っているのだ。
時間を取って面談したり、日誌でやり取りしたりするのだけでもかなり気に留めている方である。
ならどうしようもないのか?
ふと、先ほどのアルフィーの姿が脳裏をよぎる。
自分は大人としてこの子供をそのままにしておいていいのか…と。
大きなため息をつくプーサ。
そして、荷物から自分の日誌を取り出してイオに差し出す。
「ほれ…読んでみろ。」
イオは恐る恐るそれを受け取り、開いてみる。
「いっぱい書いてある…」
そこにはプーサの行動記録が詳細に記されていた。
おおよその時刻、周囲の状況、部隊の様子、何をしたのか、どんな戦果を上げたか、遠回しな愚痴。
自分や周りがどんな功績や問題があったのかが詳細に書かれていた。
無論この日誌が誰かの手に渡っても今後の行動や目的、部隊メンバーの名前などが漏れないように隠語も多用されている。
自分の書いた日誌と大きく違うことに落ち込んでしまうイオ。
それに追い打ちをかけるようにプーサは言葉を重ねる。
もはや上下関係なんて無視だ。
「だろうよ、それが日誌、お前のは日記…にも満たない落書きだな。」
ここまでの差を見せられてぐうの音も出ないイオ。
「お前って字はどのくらい書けるんだ?」
言われてどう答えればいいかと悩むイオ。
プーサは直ぐに"普通に書ける"という答えが返ってこないことで察してはいるがそれでも答えを待つ。
数秒硬直した後、はたと気が付いたイオは自分の荷物から一冊の本を取り出しプーサに差し出した。
「えと…これ…書ける…と思う。」
差し出されたそれとはプーサも馴染みがある小学校の教科書であった。
懐かしいな~と思いつつ中をパラパラとめくり中身が随分わかりやすく変わっていることに驚く。
プーサが小さい時に使ってたのは、版画になっているのを自分たちで刷って作ったもので、こんな立派ではなかったし、本一冊を全員で共有とかいうのも多かったので一冊持っているのは羨ましいとは思う。
「一応読み書きの基礎はできるってことか。後は慣れだな。
んじゃ、俺のを見ながらそれっぽくイオのも書き直せ。」
突然のことで動揺するイオ。
それでも何とか考えた返答は自分が一番に信じている人の言葉であった。
「…え、でも…物を盗んじゃいけないって言われてる…」
プーサとしてはこのまま小学校へ叩き送りたい衝動に駆られたが、それを抑えて何とか説得を試みた。
「知的財産を盗んではいけない物と認識するイオの心がけは感心するが、これは俺が見せてるんだから盗みじゃないよ。」
それでも躊躇するイオにプーサはちょっと卑怯な後押しをする。
「ちゃんと書けばカイ様が喜ぶぞ?」
「カイ様が…?なんで?」
そういう人だから…としかいえねぇな、と思いつつ「ほら早くしろ」とプーサはさっさと話しを進めてしまう。
元首輪奴隷というのはカイが喜ぶというとどんな辛い事でもやろうとしてしまうちょっと困ったところがあるのだ。
今回はプーサはそれを活用させてもらった。
案の定、イオは首を傾げながらも取り組もうとしている。
「ちなみに写せって意味じゃねーからな?参考にして、てめーの行動を書けって言ってんだからな?わかってるよな?」
「え”っ………うん。」
絶対にわかっていなかったが、プーサはどうせ今回だけだしと呆れながらも面倒見ることにした。
どうせ暇なのだと自分に言い聞かせ、イオの行動を思い出させてそれを文章に直し書き出す作業。
プーサが空いた時間でさっさと済ませてしまうそれに1時間ほどは掛っただろうか…
書き終えたイオのキラキラした目とは対照的にプーサには物凄く疲れる作業であった。
ただ、何度も自分で書いたそれを見返しているイオのフードから見えた表情にまあいいかと思うプーサであった。
…がそれもイオの一言によって終わりを告げた。
「その…プーサ様って凄いんだね…」
その言葉にカチンときたプーサ。
イオの胸倉を掴み怒りを込めて言った。
「おい、馬鹿にするんじゃねーぞ。」
イオは思わずプーサを投げ飛ばそうとしてしまうが、やっちゃダメな気がしてグッと堪える。
今まできっとイオの周りには"様"と呼ばれて当然の人間しかいなかったのだろう。
カイはもちろんアルフィーだってトールソンではカイの一番近くで仕えてきた英雄の一人なのだ。
だから、人と接することが極端に苦手なイオに気づいて指摘ができる人間なんてほとんどいなかったのだろう。
それはしょうがない。
プーサにだってわかってはいるのだ。
だが、イオを睨みつけてそのまま続けた。
「俺はお前みたいに自分を見下す奴に"様"なんてつけられて喜ぶ男じゃないんだ。」
プーサが怒ったのはただ一点。
自分を下の存在として認識し、その結果としてその他大勢が上位の存在となっただけの"様"呼びである。
これがプーサにとっては不愉快極まりなかった。
プーサの目標はトールソンを導いてきたカイやアルフィーの姿であり、
その姿とは決して人を蹴落とすものではなく、口にゴブリンの肉を突っ込んでも引っ張り上げる姿である。
それを目指すことが誇りでもあるのだ。
「え…あれ??え?」
イオは当然意味も分からず当惑する。
プーサもここまで言ってわからないでは赤っ恥である。
なので分かるような言葉を探しイオにゆっくり伝えた。
「イオ・フィドルは今、同じ隊の同僚で、カイ様を護衛するための仲間で、フィドルの名前を貰ってるってことは、クルセイさんや たいちょ と同じフィドラーの一員で…それはつまりは家族ってことだろ。」
一言一言かみ砕くように…
自分の貰った名前がどれだけ大切なものなのかをわからせるように。
「イオ・フィドルが自分を見下すってことは、プーサ・フィドルを見下すってことになるんだ。…気をつけろよ。」
…しばしの沈黙の後。
イオは何とか絞り出すように言葉を発した。
「ごめん…その…プーサ。」
その言葉を聞いて手を放すプーサ。
イオはフードを深く被り直し俯いてしまった…がそれは落ち込んいるのではないという事はプーサにも分かった。
「プーサ、プーサ…ふふっ…」とい呟きが微かに聞こえてくるのだ…
勢いとはいえ男に名前をつぶやかれて喜ぶ趣味のないプーサとしては勘弁してほしかった。
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「熱いっすね~」
「おうおう…あったまってきたなぁ~」
「俺が女なら惚れてますね。」
「俺もあともう少し若ければ…そっち行っていいか?」
「絶対線から入ってくんなよ??」
「それは何かの読み物で読んだな…たしか…」
「ツンデレじゃねーよ必死なんだよ。」
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夜番も終盤に差し掛かってきたところでプーサは大きな欠伸をかいた。
隣ではイオが一生懸命ロープの結び方を練習しているところだ。
プーサも先ほどまではロープで色々な結び方をイオに見せびらかして遊んでいたのだが…
軍学校で待機中の暇な時間ロープぐらいしか遊び道具がなく、ひたすら色んな結び方を覚えて遊んでいたのだ。
その成果が遺憾なく発揮されキラキラした目でプーサを見てきたイオであったが流石に飽きた。
イオを見ていると折り紙の折り方から教えた方が早かったんじゃないかと思うくらい不器用である。
ただまあ、同じことをひたすら繰り返す集中力はあるようだ…
複数の命令を同時にこなすのではなく一つの命令を淡々とこなさせるのが向いてるのかもしれない…
それにしても、よくもまあこれほど器用に歪な結び目が出来上がるものだとボーっと眺めていると…
突然イオが手を止め周囲を窺うようなしぐさを取った。
…
ハッと、気が付いてプーサも同様に辺りを窺ってみる。
時間が夜番交代直前の集中力が一番切れる頃だ。
水を煽って気付けにし「イオ、何かいるのか?」と状況を確認した。
ただ、イオの方に切迫した雰囲気は感じられない。
「…えと、車輪…かな?あと馬の音…あ、竜もいる。」
それを聞いてプーサは警戒を解いた。
その編成ではきっとアルフィーが戻ってきたのであろう。
さっそくイオにこの場を任せて出迎えの準備をする。
出迎えの準備と言っても夜番を出そうともしなかった商人どもの一人を叩き起こすだけだ。
起こすのは馬車の持ち主でいいだろう。
程なくしてアルフィーが到着した。
起こされたときはぶつくさ言っていた商人も馬車が見えると奇麗に手のひらを返してくる。
商人の後ろからランプで居場所を知らせつつ馬車に近づきアルフィーを確認した。
プーサは敬礼しつつ「お疲れ様です」と近寄る。
アルフィーは返礼し馬車から降りると、馬車の主である商人が急いで近寄ってきた。
商人はアルフィーの格好を見て顔をひきつらせたが、それを無視して結果を短く伝える。
「一匹は見つからなかったぞ。」
「は、はい!馬車が無事なだけでもありがたいです。」
アルフィーは見つからなかったのはお前の馬じゃないだろと思いつつも、
後は商人同士の話なのでどうでもいいと報告を終わらせた。
そして、着ていたポンチョを脱ぎプーサに押し付ける。
「うへぇ…もっと何とかならないんですか?取れないんですよ、これ…」
返り血で染まったポンチョにウンザリしながら不満を漏らした。
…残業決定である。
「不器用なんだよ…寝る。」
そういってカイの休んでいるテントへと入って行くアルフィーを見つめ「そうでしょうよ」とプーサは肩をすくめるのだった。
翌朝
アルフィーと相談をしているカイの下にトコトコとイオが寄っていった。
オズオズと日誌を差し出すイオに気付いたカイは「ああ」とそれを受け取り再び話し合いに戻ってしまった。
何かを言おうとし…でも言えずにイオはしょぼんとしながらその場を離れた。
いつもと違うその雰囲気に気が付いたカイ。
首を傾げながら…ふと日誌をパラパラとめくりそれに気が付いた。
「イオっ!」
いきなり呼ばれてハッ!?と振り返るとニコニコしたカイが指で丸を作ってくれたのである。
イオがパァと顔を輝かせると、今度は騎竜に急いで近づいていく。
今度は昨日覚えたロープの結び方を試すつもりなのだ。
カイはもはや自分の子供の作品を自慢する親のような顔で日誌をアルフィーに見せている。
アルフィーもまたかと困ったような顔をしつつも慣れた人にしかわからないような薄っすらとした笑みを浮かべていた。
プーサは自分の作業をしつつも呆れ顔で見ていた。
昔から変わらないカイとアルフィー。
そして、これから機動面を重視して荷物は馬車に積むことになっているのを忘れて騎竜に自分の荷物を積んでいるイオ。
ちなみにイオについては後で気が付いたときに思いっきり笑ってやろうと心に決めている。
日誌の最後にこう書き足されていた。
『プーサに書き方教えてもらった。うれしかった。
プーサに同僚で仲間で家族って言ってもらった。うれしかった。』
この日誌はカイにより機密の印が押され封印された。
これによって例えプーサがこれを目にして弁明したとしてもその瞬間懲戒である。
そしてこれがカイの中でイオ係が決定した瞬間でもある。