#83 The puppet monster
哲郎の頭の中からは脳が揺れる揺れないなどという疑心は消え失せ、目の前の怪物の異常な姿に圧倒されていた。
「じょ、上半身がくっついてる…………!!!?」
『おいなんだ!!? 上半身が何だと!!?』
今の哲郎にはエクスの声など届く余裕は無かった。哲郎の感覚は目の前の怪物を観察することに集中していた。
自身の窮地故に余裕がなかったが、良く観察すると口の端から顎へ日本の溝のような線が伸びており、腕の関節は何やら球体のような物で繋がれていた。
そこから哲郎が導き出した答えはひとつしか無かった。
(…………人形………………!?
!!!)
そこまで考えて哲郎は思い出した。
エクスが話してくれた奇妙な失踪事件の話を。
男をさらった謎の三本の腕
長さや細さがバラバラなのに色は同じ赤褐色
男の『ラド』という最期の言葉
カタカタという謎の音
「………そうか。 やっぱりそうだったんだ…………。」
『やっぱり? 何がやっぱり何だ?
応答しろ!』
哲郎は水晶を口に近づけた。
「……エクスさん、報告します。
ヤツの、ラドラ・マリオネスの能力の正体が分かりました。
エクスさんが推測した通り、やつは人形魔法の使い手です。」
『何!? どうしてそんなことが言える!?
そっちで何が起こってるんだ!!?』
「詳しく説明している余裕は無さそうです。
それからもう通信を切ります。 これ以上続ければいつ僕が自由の身であるか分かったものじゃない。」
『!! そうか 分かった。
なら俺たちはお前の水晶を辿って引き続き逆探知を試みる。 場所が分かり次第、すぐに応援を寄越してやる!!!』
「分かりました。」
その言葉を最後に哲郎は通話を切った。
それは同時に退路を断つという事でもあった。 今 背後にいる少女達の身を自分が守らなければならないという責任を自分に課す決意を固めた。
目の前の怪物は未だにケタケタと薄気味悪い笑い声を通路内に響かせている。
その最中にも哲郎は思考を巡らせていた。
(こいつの狙いは間違いなく僕だ。だけど僕とやつの距離が離れていた時、やつは別の人を襲っていた。
きっとこいつは近くに男性がいれば優先的に襲い、いなければ近くにいる人を襲うように命令されているんだ!!)
哲郎はそこまで推測し、作戦を纏めた。
(こいつから一定以上離れなければこいつは優先的に僕を襲い、その間は彼女達の身の安全は約束される!!)
怪物の嘲笑の声は依然として通路中に響き渡っている。 その最中にも哲朗は思考を巡らせていた。
(だけどどう対抗する………!!?
こいつには何度も脳を攻撃してるのに全く効いてる気配が無い………!! それにこいつと戦うってことは上半身だけなら二対一と同じだ………。 きっと寝技や関節技を仕掛けても一方を攻撃してる間にもう一方に邪魔をされる………!!! 第一 関節を極めて痛がるって保証も無いんだ……………!!
!! 待てよ!)
哲朗は一つの策に賭ける決心を固めた。
地面を蹴って隙だらけの怪物との距離を詰める。
(せめてエクスさんがここを突き止めるまでの時間稼ぎにでもなれば!)
哲朗は怪物と接する直前に身を屈めその脚を両手で掴んだ。 そして地面で身体をコマのように回転させて掴んでる怪物の太ももを両足で挟み、全体重を後ろにかけた。
怪物の身体は倒され、哲朗はその脚を取って身体をそらし、その関節を極めた。
哲朗は下半身は1人だと気づき、そこを攻撃すれば自分の技も通用すると考えた。
しばらく 数十秒の間 怪物は振るえるだけで解こうとはしなかったが哲朗はすぐに怪物が脱出する事を直感していた。
そして作戦を次の段階に移す。
「皆さん!!!! 僕がこいつを抑えてる間に早くここから離れて下さい!!!!!」
『!!!』
ここにいる少女たちの中には足を負傷したり縛られたりして動くことがままならない状態にあるが、哲朗は彼女達の心に訴えかけた。
「皆さんが足を負傷していることは承知の上です!! ですがエクス寮長は必ず皆さんを助け出してくれます!!! 希望はあります!!!
ですから皆さんも諦めずに頑張って下さい!!!!!」
エクス・レインというこれ以上ない頼もしい存在に心を鼓舞され、少女達の中に少しずつ助かろうとする決意が固まっていった。
怪物に集中しているので聞こえないが少女達の這う音が少しずつ遠ざかっていくのが分かる。 そしてその直後に哲朗の身体は宙に浮いた。 2人の上半身の力が哲朗の寝技を強引に返したのだ。
怪物が身体を振るって哲朗の身体は飛ばされた。しかしすぐに体勢を立て直してあまり離れない所に着地する。
「やっぱり関節技も効かなかったか。返してくるのは予測できたよ。
だけどもうこの場には彼女達は居ない。これで一対一だ。
目的は僕なんだろ? かかってこい!!!!!」
哲朗はそう啖呵を切って己を奮い立たせた。




