#52 The shield of the tiny courage Part5 ~Stop the pike. Protect the weaker.~
5年前
「ファン、お前は《イージス》を知ってるか?」
「? イージス………ですか?」
「そうだ。それは 女神が用いる防具。
つまり、女神を守るという使命を背負う盾 と言うわけだ。」
「……それが、どうかしたんですか?」
「厳しいことを言うようだが、お前は剣の腕が立たない。
だから、お前は盾になれ。
自分の大切な人を守るための盾にな。」
「………盾に ですか…………」
「それから、あの窓を見ろ。
兵士達がマーシャルアーツの特訓をしてるよな?」
「……はい。」
「マーシャルアーツ、言い換えて《武道》
お前は、《武》という字をどう書くか知ってるか?
《戈を止める》と書くんだ。」
「?」
「これから成長していく中で様々な理不尽がお前を待ち受ける。時にはそれがお前の大切な人に向くこともざらにあるだろう。
その時、お前は盾としてその理不尽な暴力という《戈》を《止める》
そんな聖騎士を目指せ。」
***
(………お兄様。
僕はあの時、あの言葉の意味がまるで分かりませんでした。
だけど、今ならしっかりと分かります。
僕の《騎士之盾》はこのために、このような理不尽な暴力からみんなを守るためにあったんですね。)
グスは今まさに、その五体を砲弾に変えてファンの息の根を止めんと急接近している。
その事さえもファンには手に取るように理解出来た。
(………分かりました お兄様。
僕はこの日、この時から 自分の大切な人を守ることが出来る《盾》になります!!!!!)
ファンは振り向きざまにグスの顎を掴んだ。
グスの身体に乗っていた凄まじいスピードは顎を支点にして上方向の力に変わり、下半身は中に舞い、対称的に上半身は下方向へ急降下する。
ズドォン!!!!! 「!!!!!」
グス自身の全速力と全体重が乗ったカウンター投げが炸裂した。
グスは後頭部から地面に激突し、その意識は完全に闇に葬られた。
『こ、これは…………………!!!!!』
「しょ、勝負あり!!!!!」
一瞬の事に圧倒されていた観客席はその宣言で我に返ったかのように熱狂の声を上げた。
『つ、遂に勝負が決しましたァ!!!!!
なんと、なんとファン・レインがあの筋力の要塞 グス・オーガンに引導を下し、白星を掴みました!!!!
これこそまさに、下克上!!!!
この目で見ても信じられません!!! グス・オーガンが無残にも地面に倒れふしています!!!!!』
***
控え室
哲郎はアリスと共に待機していた。
そこにファンが歩み寄ってきた。改めて見ると、全身が生傷と鮮血に覆われており、見るに堪えない有様である。
しかし、彼はその状態でこの公式戦の始まりを白星で飾ってくれたのだ。
「ファンさん!! お疲れ様でした!!!」
哲郎はハイタッチをしようとファンに駆け寄ったが、それは叶わなかった。
ファンはまるであやつり人形から糸が切れたかのように膝から崩れ落ちた。
「おおっと!?」
哲郎は咄嗟に かろうじてその崩れ落ちる身体を受け止めた。
声をかけようとして、彼の意識が途切れていることに気付いた。
「……無理もない。もう既に限界だったんだ。」
「エクスさん!」
声の方へ振り返ると、そこにエクスが立っていた。
「あの時、最初に受けたタコ殴りの時点で身体は限界だった。
もしあと少しでも受けていれば、あと少しでも精神力が綻んでいたら、結果は違っていた。きっとファンの方が先に地面に顔をつけていただろう。
傍目で見たら圧勝に見えたかもしれないが、実際はどっちが勝ってもおかしくなかった。」
「……実の弟の成長を 素直に認める気は無いんですか?」
「過剰な評価は慢心を招くだけだ。
こういう時に叩いてこそ戦士は伸びる。」
エクスの冷たくも核心を突いた言葉に哲郎は返す言葉を失っていた。
***
ファンとグスの試合から僅か10分と少し
観客席の注目は既に新しい試合に向けられていた。
『さぁさぁ皆様 お待たせ致しました!!!
お次もまたまた異色のカードが出揃いました!!!!』
次鋒線を闘うアリスは、遂に試合会場に降り立った。
視線の先では茶髪の男が澄ました顔をして佇んでいる。
「改めて自己紹介しよう。アリス・インセンス君。 僕は ロイドフ・ラミン。
先程はあの雌豚が粗相をして申し訳無かったね。彼女は僕らが責任を取って処遇を決めておくから、安心して。」
「…………………」
アリスは彼の言葉に何の反応も見せようとしなかった。その笑顔の奥底に得体の知れない何かを感じ取ったからだ。
「……それから欲を言うとね、君にはこんな無謀な試合は止めて欲しいんだ。
僕はこう見えて紳士な人間だからね。
それでも僕と戦うと言うならば仕方ない。
すぐに場外に追い出してあげよう。」
ロイドフ・ラミン
彼の背中から無数の蔓が伸びていた。




