#3 Martial Arts
『なんという波乱の展開でしょう!!!
ゼース選手からいきなりダウンを奪った!!!
このテツロウ選手、只者ではないぞ!!!!』
実況に応えるかのように観客のボルテージも一気に最高潮になった。
いいぞ小僧!!
やっちまえー!!
ゼースを倒せー!!
観客からも哲郎を支持する声援が飛び始めた。
「……まぐれだァッッ!!!!」
その声援を振り払うかのようにゼースは怒りに任せて叫んだ。
「だったらもう一度仕掛ければよろしい。」
『立ち上がったぞゼース選手!!
やはり優勝候補の実力がこの少年を打ち砕くのか!!?』
ダッッ!!!
外枠付近の地面をバネにしてゼースは再び哲郎に急接近した。
今度は突きで哲郎を強襲する。
しかし、哲郎はゼースの剣の刃を受け止めた。そしてその勢いを受け流してゼースの体制を崩す。
「おアッ!!?」
スダァン!!!
そのまま哲郎はゼースの背中を地面に叩きつけた。
「ガハッ」
背中に衝撃が走ると呼吸が乱れる。
それは魔人族のゼースも例外では無かった。
その一瞬を見逃さず、哲郎は仰向けになった彼の喉に狙いを定めて足を踏み入れる。
その攻撃をゼースはかろうじて躱した。
「……今度は投げ技かよ」
「僕はね、今日まで対人用に様々な技を得てきたんです。
時にあなた、今まで何と戦ってきましたか?」
「それに答える必要があんのか?
あの時俺の質問に答えてくれなかったのによ。」
なんという器の小さい男だ。と 哲郎は最早怒りにもならない呆れの感情を抱いた。
「別に構いませんがね。答えてくれなくとも。まぁあなたが今日まで魔物と戦って来たというならあなたは僕には勝てない。
僕の手の中にある技にはね。」
哲郎が話し終わるや否やゼースはもう一度哲郎に仕掛けた。
哲郎はその勢いを利用し、ゼースの顎を掴んで地面に叩きつける。
『す、すごいすごいぞテツロウ選手!!
あのゼース選手がまるで赤子のようにあしらわれている!!!』
「……テメッ………!!!」
「言っておきますが僕はあなたを見くびってもいないし慢心もしていない。
だからこそ全力であなたを潰しにかかる。」
ゼースにだけ聞こえるほどの小さな声で哲郎は囁いた。
哲郎は離れ、ゼースは再び立ち上がった。
しかし、ゼースを異変が襲う。
(グッ………!!!? こいつは………!!!!)
「グラグラしますか?当然でしょう。
脳にダメージを負ったんだから。」
「クソがッッ!!!!」
なおもゼースは仕掛ける。
それを冷静に受け流し、哲郎はゼースの体を倒す。
しかし、ゼースは踏みとどまった。
そのまま強引に哲郎を空に舞わせた。
「なッッ!!?」
「かかったな!!!」
哲郎の体は地面に叩きつけられ、一瞬の隙ができた。
それを見逃さず、ゼースは哲郎の胸を切りつけた。その胸から血が吹き出す。
『遂に、遂にゼース選手が反撃したァー!!!
テツロウ選手の技を切り返し、剣での攻撃に成功!!!
テツロウ選手のダメージは深刻か!!?
果たしてこの勝負、どうなる!!!?』
「ハハハ
ぬかったな 小僧ォ!!!
俺達 魔界公爵家にはな、軍隊もいるんだ!!!お前の使った技を沢山持ってる兵隊たちがな!!そして俺はそいつらと実戦を繰り返してきたんだよ!!!」
ゼースは勝ち誇り哲郎を笑い飛ばした。
「つまり、お前の技を俺は対策できた!!
惜しかったな まぁ、技だけじゃこの魔界コロシアムを勝ち上がることはできなかったってわけだ!!!………!!!!?」
そこまで言い終わるとゼースの顔色が変わっていく。
「……どうしました?話は終わりですか?」
「バ………バカな お前、血が………」
『こ、これはどうしたことでしょう!?
テツロウ選手の出血が みるみるうちに引いていく!!』
「そう。僕には盾もあるんですよ。
技だけであなた達に勝ち得るなんて そんな夢を見てはいません。」
「そしてッッ!!!」
今度は哲郎が飛びかかり、ゼースの左頬を狙って蹴りつけた。ゼースはそれを剣を持っている左腕で受ける。
そのまま飛び上がり、
『く、組み付いた!!
テツロウ選手がゼース選手の首に組み付きました!!!』
「ウッ クッ ウッ」
「僕が投げ技しか脳のない一本槍使いだとでも思いましたか!?」
哲郎は両足でゼースの首を締め上げる。左腕ごと剣も封じられているので反撃ができない。
そのまま哲郎は体をゼースの後ろ側に向け、全体重を後ろに預けた。
当然 ゼースは地面に倒される。
『これは長い歴史を持つ魔界コロシアムにおいても異様な光景だ!!
本来 魔法などが飛び交うこの試合において、人間族が、寝技で魔人族に対抗しているのです!!!』
「終わらせましょう!!!」
「何っ!?」
哲郎が次に選択した行動は、
『な、何と裏返った!!
果たしてゼース選手、この状態をどう切抜ける!!?』
「まだまだッ!!」
哲郎はゼースにまたがった状態で仰け反り、ゼースの膝裏を掴んだ。
そのまま起き上がり、ゼースの体を折り曲げる。
「あがあァァァァ!!!!!」
背骨と股関節を強引に折り曲げられ、ゼースの全身に激痛が走る。
『き、決まったァー!!! テツロウ選手、ゼース選手の体を身体を極めることに成功した!!!
このラグナロクにおいて 弱者が強者に勝つため、そして軍人が勝つために作り出された魔法と対局をなす技術、マーシャルアーツ!!!
その真髄が今、ゼース選手の身体を蹂躙しているのです!!!!』
「さぁ、ゼース・イギア。
懸命な判断を。 敗北を認めるのです!!!」