#197 The Inferno Tentacle 11 (Pride and Ashamed)
トレラの蔓の一振が哲郎の首を両断した。傍から見ればそれだけで決着はついているが、トレラは更にそこに蔓を大量に伸ばす。その蔓は哲郎の身体から離れた頭を狙っている。
トレラはそこまでしてもまだやり過ぎだとは感じなかった。哲郎の《適応》も然る事ながら、彼の目がまだ死んでいないからだ。
「ウッ!!!」 「!!?」
哲郎は空中で頭を掴み、身体の方に引き寄せて強引に蔓の攻撃を凌いだ。そして一瞬で頭を接合し、間髪入れずにトレラへと強襲する。
蔓を大量に出したトレラには哲郎の攻撃を防御する手段は残されていない。
「フンッ!!!」 「!!」
トレラの顎目掛けて掌底を伸ばすが、手で起動を変えて難なく躱される。そして逆に隙だらけになった腹目掛けてトレラの蹴りが飛んでくる。
それを哲郎は強引に身体を捻って横に跳んで躱した。そのままトレラとの距離を取る。
「………………!!!」
哲郎の息は目に見えて上がっていた。
それは肉体の疲労も然る事ながら、ラミエルとの特訓からずっと受けていなかった《肉体の切断》という体験によってその精神が著しく疲弊しているのだ。
そしてもう一つ、哲郎の頭の中に一つの疑問が浮かんでいた。
(………こいつの能力は何なんだ………………!?
植物を生み出して操る!! それは多分ヘルヘイムの能力だし………………!!
じゃあこいつはまだ僕に能力を隠してるのか!! それとももう使っている……………!!?)
哲郎が頭の中で立てた仮説は、トレラの能力は『魔物の身体を乗っ取る』という物だ。(それに関係する前世はどんな物か分からないが)《憑依》の類なら植物であるヘルヘイムの身体を乗っ取ってその能力を行使する事は出来る。
(それにこの仮説ならエクスさんの公式戦での発言とも矛盾は無くなる!! あの時エクスさんは『ヘルヘイムが進化した人間体が、ある組織の幹部を担っているという話もあるくらいだ』と言った。その組織は絶対に里香達じゃない。あいつらは秘密を死守している。
あいつが直接ヘルヘイムの人間体に転生したなら絶対に誰かが知ってるはず。そうじゃないなら後天的にヘルヘイムになったって事だ!!!)
「お? その顔、気ぃ付いたんか?」
「!!!」
トレラの言葉に反応した直後、哲郎の足元から攻撃の為では無い蔓が四本伸び、一瞬の内に哲郎の両手両足を縛り上げ、完全に身体の自由を奪った。
まるでそれを嘲るかのようにトレラは不自然なまでにゆっくりと歩み寄る。
(…………!!!
こ、これは……………!!!)
「ワレの考えとる事は当たりや。この蔓はワシの力やない。ワシが身体を貰っとるバケモンのもんや。」
「そ、それはつまり…………!!!」
「せや。ワシの《転生者》としての能力は《憑依》。この身体には何十年も世話になっとるわ。尤も、この植物のバケモンは死体になった時に貰ったもんやけどな。ワシの《憑依》は死体にしか効果が無いさかい。」
「………………!!!」
「ま、こないな事ワレに言うたとて無駄やけどな。なんせワレはこれから永遠にここで燻るんやからな。」
「!!?」
トレラの歪んだ口元と『燻る』という言葉の意味が分からず、不気味さが哲郎の心に伸し掛る。
「分からんか?ワレのその不死身さを何とかするにはここに磔にするしか無いやろ。
…せやな、その胸に蔓をぶっ刺して血をチューチュー吸い取るのが良えやろか。」
「!!!! (それはまずい!!! この蔓をどうにかしなくちゃ!!!!)」
「血ぃ吸うとる間は眠って貰おか。それこそこいつとか使うてな。」
「!!」
トレラの肩から醜悪な形の花が現れた。直感的にその花粉に麻酔の作用があると結論付ける。
「ほな、そろそろお寝んねして貰おうか。
二度と目覚める事は無いけどなぁ。」
「!!!!!」
トレラが哲郎の鼻に花粉を振り撒き、哲郎を眠りに落とす━━━━━━━━━━━━━
バリバリバリバリバリバリッッ!!!!!
『!!!!?』
トレラが近付けた花、そして哲郎を縛る蔓が突如として黒い雷に包まれ、一瞬の内に黒焦げになった。
「だ、誰や!!!?」
(この技は まさか…………!!!)
「おいテツロウ、その情けない姿はなんだ。
初めてこの私に舐めた口を聞き、ましてや不覚を取らせた小僧はその程度で根を上げるような奴じゃない筈だぞ。 違うか?」
「!! ワレは…………!!!」
「レ、レオルさん!!!!」
暗闇から姿を現したのはレオルだった。その後ろに彩奈も居る。
「何処ぞの公爵家のボンボンが何の用や!!!?」
「………テツロウ、事情はお前の連れのこの娘から全て聞いた。そいつが今日の事件、そしてこの屋敷で起こった行方不明騒ぎの黒幕なんだろう?
ならば話は早い。
お前に加勢してやるぞ!!!」