#196 The Inferno Tentacle 10 (Guillotine of the Tentacle)
「………名前を教える?」
「せや。出血大サービスやぞ。
自分の名前が割れんのは首締めるくらい危険やからのぉ。」
「………それは、どっちの?」
「ア?」
《転生者》はまるで『何を言ってるのか分からない』というような表情を浮かべた。しかし哲郎はそれが嘘だと確信している。
「どっちのだと聞いてるんですよ。
現世か前世か。それとも里香みたいに名前を変えてないんですか?」
「ワレ何言うとんのや。 名前は一人一つに決まっとるやろが。
《トレラ・レパドール》 それがワシの名前や。」
「………………(七割型嘘の方向で行くか…………)。」
《転生者》は自分の名前を《トレラ》と名乗ったが、哲郎にはそれが偽名である可能性の方が大きく感じられた。前世が人間(それも日本人である可能性が高い)でありながら徒に少女達の血を貪っている。そしてなおかつ前世の名前をひた隠すなら 今名乗った名前も怪しむのが定石だ。しかし今の名前以外に目の前の《転生者》を象徴する名詞は無いので、取り敢えず《トレラ》と呼ぶ事にする。
「……ではトレラさん。聞きたい事がもう三つあります。」
「おん?」
「つい先程 屋敷で行われた偲ぶ会の遺族の女性が攫われかけました。それをやったのはあなたですね?」
「あぁそうや。別にガキの血でも十分なんやけど、久しぶりに脂の乗った女性の血ぃも飲んでみたくなったんや。
なんやったらワレも飲んでみるか?コクがあって旨いんやで。」
「………………………!!!!!
……聞かれた事にだけ答えて下さい。
あなたが洗脳てるマリナの部屋にあった何かの異空間、あれは何ですか?」
「あぁ。あれもここに通じてるんや。」
「!!」
「こいつが礼拝堂に行けんくなった時の為の勝手口みたいなもんや。
……ってか何やワレ、その『ついてない』みたいな表情は。仲間が今の話聞いたら援軍に来てくれるとでも思たんか?
それをさせんためにこの部屋全体に妨害を仕込んだんやないか。」
トレラは既に止血を終え、依然として人を食ったような態度で哲郎に接している。そんな彼女(の可能性が高い)に対し哲郎は冷静さを取り戻しつつ最後の質問を投げ掛ける。
「……では最後にもう一つ、この目立とうとしない宗教団体がこの偲ぶ会を請け負った理由は何ですか?」
「それァ流石に言えんなぁ。」
「なら答えなくて結構です。見当はついてますから。上に命じられたんでしょ?
あなた達の上にいる、この世界の破滅を目論む人達に!!!」
「達やと?何を根拠に言うとんのや?」
「とぼけても無駄です!!!
分かってるんですよ!! あなた達の上にいるのは二人組だ!!そいつらはあなたのような《転生者》を仲間に募ってこの世界を滅ぼそうとしてるんでしょう!!?」
「なんのこっちゃ分からんな。
根拠も無しにそんな絵空事ばっかぐたぐた並べんなや。」
「………飽くまでとぼけるつもりですか。
なら良いんですよ。あなたの身体に聞きますからね!!!!」
トレラへの怒りが限界に達しかけていた哲郎はそれが最善策ではないと分かりつつも地面を蹴って彼女の方へと強襲した。それ以外にトレラと戦う方法が思い付かなかったからだ。
「《樹枝巨槍》」
「!!!!?」
哲郎がトレラとの距離を詰める間の一瞬でトレラは目の前に魔法陣を展開し、そこから鋭く尖った太い幹が再び槍のように哲郎に襲い掛かった。胸を狙って伸びて来たそれを間一髪で避ける。幹の先端が掠って服に一筋の切り込みが入った。
「…………………!!!!
(この心臓を一突きにしようと狙って伸びて来る攻撃!!! まさか………………!!!)」
「外れてもうたか。いつもやってるようにやったんやけどな。」
(!! やっぱり!!!)
咄嗟に幹を避けて崩れた体勢を空中で立て直し、トレラの斜め左側に着地する。着地するや否や哲郎はトレラに再び質問を投げ掛ける。
「………今のを使ってやったんですね。」
「オン?」
「今の幹の槍を使って女性達の心臓を抜き取ったんでしょう!!!?そのお腹を満たす為だけに!!!!」
「さぁ?そりゃどうやろな?
ワシの作るこの木にそいつらの血でも付いとったら認めたってもええねんけどな。」
「!!!!」
「あ、せや ガキ。
そこ、気ぃつけた方がええぞ。」
「!?」
ズバッ!!!!! 「!!!!!」
トレラの忠告は現実となって哲郎に襲い掛かった。どこからともなく蔓が物凄い速度で振り抜かれ、そして哲郎の首を両断した。
「………………!!!!」
「さ、こいつで終いや。」
「!!!」
傍から見れば完全に命を絶たれた哲郎に対し、トレラは更に無数の蔓を伸ばした。