#192 The Inferno Tentacle 6 (Alraune)
哲郎は天井のすぐ近くを飛んで移動している。
ついさっき倒した魔物達を最後に追っ手も足止めも居ない。
(………さっきので全部倒したのか?それなら話は早いんだけど そう上手くいくとは思えない…………。
それにこの一本道はいつまで続くんだ?もう何メートルも移動してるのに曲がり角も分かれ道も全然無いし………………)
「!」
哲郎の目に先程よりも遥かに大きな扉が飛び込んで来た。遠くからでもその重厚な金属光沢からその重さが手に取るように分かる。
(………マリナと《転生者》はあの奥に居るのか!!
あの重そうな扉をこじ開けるには あれしか無いか!!!
まだ実戦で使った事は無いけどやるしかないか!!! よし!!!)
空中で体勢を変えて両足を扉の方に向ける。そのまま速度を限界まで上げる。
(行くぞ!!! 僕の我流技だ!!!!)
魚人波掌 蹴撃
《滝壺蹴踏》!!!!!
ドゴォン!!!!!
全速力で扉に急接近し、扉に当たる瞬間に両脚を全力で伸ばして渾身の蹴りを叩き込んだ。
脚には腕の数倍に及ぶ力が備わっており、哲郎はそれに目を付けた。そして自分に出来る事を総動員させて長い時間を掛けて改良を重ねていたのだ。
今の哲郎に出せる最高速度と脚力を全て乗せた衝撃がもろに扉に伝わり、鍵の部分の金具から悲鳴が響き渡る。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!
行けェ!!!!!」
バゴォン!!!!!
横方向に飛ぶ哲郎の渾身の蹴りが扉の鍵を破壊し、強引にこじ開けて壁に激突し、周囲に轟音を響かせた。
「!!!!?」
瞬間、哲郎の目に様々な情報が一気に飛び込んで来た。ここが地下である事を忘れさせるかのように高い天井を持つ礼拝堂のような広い部屋。そしてその部屋を埋め尽くさんばかりの巨大な植物の魔物。更に床でマリナが膝まづいていた。
「!!!? あ、あなたどうやってここに!!!?
まさか、あの人達を倒したって言うの!!?」
(!!? あの人達!!?)
哲郎は一瞬 マリナの言葉の真意を考えたが、それ以上に考える必要のある事があった。
この場には弟(と思われる人物)が居ない事、そして目の前の巨大な怪物が本当に《転生者》なのかという事だ。
(どうする!? 今ここでマリナを拘束するか!?
それとも目の前のこいつを何とかするか!? そんな事僕に出来るのか!!?)
「!!!? うわっ!!!!」
巨大な植物の魔物の身体から二本の蔓が哲郎目掛けて飛んで来た。それを間一髪の所で身体を捻って躱す。
(!!!? こ、これは……………!!!)
蔓が僅かに掠った袖の部分が破れていた。そして哲郎が攻撃を躱した後ろの壁には大穴が二つ空いている。物凄い速度で攻撃が飛んで来た証拠だ。
(……………!!!
やっぱりこの場でマリナを捉えるのは無理だ!!
この化け物を何とかしないと………!!!)
「!!!
うっ!! くっ!! うっ!!!」
哲郎の考えを見透かし、その上でそれを完全に打ち砕くかのように何本もの蔓が一気に襲い掛かる。その全てを辛うじて躱すが完全に足を止められてしまう。
(ダメだ!! 全然動けない!!! さっきとは全然違う!!!
こ、こうなったらあれを使って一気に決めるしか……………!!!)
頭の中で作戦を立てた後、哲郎はある瞬間を待って数秒間蔓の攻撃を躱し続けた。
(!! 来た!!!)
哲郎は蔓の先端が自分の足裏に来る瞬間を狙っており、それはようやく訪れた。足が蔓に接した瞬間、脚に最大限の力を込めて《漣》を発動し、追撃が来るより早く距離を詰める。
(顔が隙だらけだ!! 行ける!!!!)
魚人波掌
杭波噴《突》!!!!!
バチィン!!!!!
ウツボカズラの形をした巨大な顔に渾身の掌底を叩き込んだ。掌から植物の顔面が小刻みに震える感触が伝わる。
(植物にはたっぷり水分が詰まってるだろ!! その全部に衝撃が響き渡る!!!
粉々に弾けてしまえ!!!!)
『ん〜? なんや喧しいなぁ?』
「!!!??」
バゴッ!!! 「!!!?」
その声は植物の魔物が言ったというよりは魔物の内側から聞こえてくるようだった。その声に気を取られて上空から襲ってくる蔓の攻撃に気付かなかった。
そのまま地面に墜落する。
「〜〜〜〜〜!!!
な、なんだ一体………………!!!」
「ああ主よ!!! 申し訳ございません!!!
私の詰めが甘いばかりにこの神聖な場所に部外者の侵入を許してしまって…………!!!」
(!? 主!? 今の声の主の事か!?)
地面に墜落した哲郎に構う事無くマリナは一心不乱に祈りを捧げている。そして上に視線を向けると魔物のウツボカズラ型の部分に人一人の身長くらいの長さの割れ目が入っている。
「………………!!!」
「おん? なんやワレ?
なんでガキがこんなとこにおんねや?」
「!!!!? (な、なんだこいつは………………………!!!!!)」
割れ目をかき分けて出てきたのは女性の姿をした何かだった。
何かと言ったのはその何かの肌は黄緑色をしており、髪が濃いピンク色をしていたからだ。そしてその背中からは翼が生えていた。
《ヘルヘイム》と全く同じ翼を。