#182 Shelling Ford 15 (Nonfiction Mystery)
「エティさん、先程も聞きましたが、あなたは事件当時 マリナさんと話し終えた後はずっと自分の部屋で通信していた。
間違いありませんね?」
エティは一言 『ああ。』とだけ言った。これで彼のアリバイも証明された。
「ちなみにその時、何か気付きましたか?」
ギルドの男の質問に首を横に振る。
男は手を顎に当てて少し唸った。
現状取れた手掛かりは謎の花の匂いだけだ。この証言の信憑性はほぼ確実である。レオーネとアギジャスという二人が証言している為、偽証の可能性は考えにくいからだ。
「ロベルトさん、あなたは事件当時、何をしていましたか?」
「私も彼らと同様にマリナ氏と話し終えた後は部屋で一人で作業をしていました。
今度 遠くの刑務所で説法するので、その原稿を仕上げていたんです。」
「……………………。」
ギルドの男の顔をロベルトは神妙な顔付きで聞いていた。自分にはアリバイが無いと分かっているからだ。
「………あ、そういえば、」
「!? 何ですか?」
「ドアの側に髪の毛が落ちていたので拾って、ゴミ箱があったら拾おうと思って入れていたんです。
これです。」
ロベルトはポケットから髪の毛を一本取り出した。それはかなり長く、そして明るい黄色をしていた。
「……長い金髪…………………
容疑者の中には該当する人は居ない……………。
!!」 「!!!」
ギルドの男は信者の一人に視線を向けた。それはマリナだ。彼女の髪もまた長い金髪である。
「もしかしてですがこの髪はマリナさん、貴方の物ではないんですか?」
「た、確かにそうですが………………」
「あの部屋は確か今日の朝八時に掃除されていましたよね?という事はこの髪は貴方がその後に部屋に入ったという証拠になります。
参考までにお聞きしますが、何をしに行ったんですか?」
「私はただ 部屋の掃除がきちんとされているか確認に行っただけです。」
「それはいつ頃ですか?」
「参列者の皆さんと話す前についでに…………
確か、11時半くらいでした。」
「………………………………」
哲郎はマリナの話を聞き、そしてそれが真っ赤な嘘だと見抜いた。哲郎は午前中はずっと例の空き部屋の上に居て中を覗いていた。
結果、掃除が行われた八時以降 部屋に入った人は誰もいなかった。
ベリア達には申し訳ないが、マリナの髪はもっと前に部屋に落ちたものであり、掃除の時に彼女達が取り損ねたのだ。
「どなたか、彼女が部屋に入る音を聞きましたか?」
信者達は顔を見合うが、それにうんと言う人は誰も居ない。
「………ここの部屋は防音性があるから聞こえなかったんだと思います。」
「………まぁ、この髪はそこまで重要では無いでしょう。
そもそもここの人達とずっと話していた貴方は潔白です。」
「…………………」
マリナはバツが悪そうに俯いた。しかし哲郎の目にはそれが本心には見えなかった。
確かに遺体をあの部屋に置いたのは彼女ではないが、この宗教団体に潜む陰謀に彼女が絡んでいるのはまず間違いない。
昨夜の謎の食事、部屋に隠してあった謎の穴、そして今の嘘などという怪しい要素が山のように出てくる。
さらに哲郎は同時に この事件を解けば自動的に宗教団体やマリナの謎も明らかになると理解していた。
「では次にゴスタフさん、あなたは当時 どうしていましたか?」
「俺も話の後は部屋でのんびりと、それこそセインさんとの思い出に耽っていたよ。例えばほら、この写真とかだ。」
ゴスタフは懐から生前のセインと二人で写った写真を取り出した。しかしそれが自分のアリバイを証明する物でない事は彼が一番良く分かっている。
「その時何か気付きましたか?」
「いや、これといって何も。
少なくとも花の匂いには気付かなかったな。」
「そうですか…………………。」
ギルドの男は再び唸った。
新たに髪の毛という状況証拠は出てきたものの、少なくとも彼等にとっては重要なものでは無い。
しかし哲郎はそれも重要な手掛かりと捉え、エクスに連絡を繋ぐ。
「……エクスさん。今の話、聞いていましたか?」
『ああ。一言一句逃さずな。
髪の毛の事だろ?その時お前はあの部屋の真上に居た。それは間違いないな?』
「はい。ですからあの髪の毛はもっと前に部屋に落ちた、つまりマリナさんは今日の八時より前に部屋に入った事になります。それが何の為だったのかは分かりませんが…………」
『……………』
水晶の向こうでエクスも唸った。髪の毛が事件に関係しているかは現状 分からないのだ。
『ちなみにお前は誰が怪しいと思ってるんだ?』
「いやぁ今の所はなんとも。何せ全員にアリバイが無いし、それに推理物みたいな手掛かりが全くありませんから……………。」
『? 推理物? トリック? 何の話だ?』
「あぁいえ。なんでもありません。気にしないで下さい。」
哲郎は忘れかけていたが ここは異世界であり、推理小説も無ければトリックという概念も無いのだ。