#170 Shelling Ford 3 (Escape route of fake)
ギルドの男の事情聴取 そして彼の推理の話をノアは《不毛》と表現した。そう言いたくなるのは理解できるし表現自体は的を得ている。
なぜなら犯人が哲郎で塞がれていた通気口を通って現場の空き部屋から出た可能性は万に一つも無いからだ。
『………それでテツロウ、お前が大広間の会話を聞けるということは、アヤナもその部屋にいるという事だな?』
「はい。例のアリナさんがそばに居るかは分かりませんが、僕も事情聴取を聞く事は出来ています。」
『というかそもそもお前は何も気づかなかったのか?
例えば何か物音を聞いたとか、犯人の独り言を聞いたとか 何か無いのか?』
「………いえ、残念ながら何も。
ずっと寝たままの状態で疲れて ついぐっすり眠ってしまったようで。」
『……そうか。なら遺体発見の時の状況だけでも教えろ。それで何か分かるかもしれない。』
「分かりました。」
哲郎は通気口からでは遺体と周囲に飛び散った血、そして倒れた椅子しか見えなかった事を話した。
『………なるほど。犯人は遺体を部屋に置き、血を撒き散らして偽装を終わらせたという訳か。
その時人はどれくらい居た?』
「良くは分かりませんが、僕が現場を見たのは悲鳴が聞こえてすぐだったのでその時はあまり人は居なかったと思いますよ。その後もしばらく足音や悲鳴が聞こえてましたから。」
『分かった。ならお前はこれから
!』
「!? どうしました!?」
『お前も聞け!! 今その遺体発見の時の話を始めたぞ!!!』
「は、はいっ!」
***
「……では参考までに皆さん全員にお聞きしますが、遺体発見の時に何をしていたか教えて頂けますか?
まずレオルさん、あなたは現場のすぐ隣にいましたが 最初に現場に駆けつけたのはあなたで間違いありませんね?」
「もちろんだ。」
「そしてエティさん、あなたの部屋は現場の向かいにあるのに駆け付けたのは少し遅いようですが、何か理由があったんですか?」
「それはその時 まだ通話中だったからだ。
それを切っている時間があったからな。」
最初にアリバイが証明されたレオルとエティの確認が終わった。ギルドの男の話では駆け付けたのはレオルが最初でエティは四番目だ。
(哲郎達から見る)容疑者全員の現場に駆け付けた順番はレオル、アギジャス、シーフェル、レオーネ、エティ、ロベルト、ゴスタフ、アリネ、ヴィン、ペリーの順番だ。
だがギルドの男を始めとする大広間にいる全員はアギジャスとロベルトにのみ容疑を向けている為、(哲郎達にとって)疑わしい六人の遺体発見時の状況はあっさりと聞き終わってしまった。
『なるほど。
話をまとめると皆さん全員 ばらつきはあれど悲鳴が聞こえてすぐに駆け付けて、医務室に居て尚且つ足を怪我していたペリーさんは少し遅れて現場に駆け付けたと。
と なると問題はやはり動機、そして害者の遺体をどこに隠していたかという事になりますね。』
ギルドの男も言ったように、哲郎もこの二つの問題に取り掛かっていた。
動機の方は この宗教団体に潜む《転生者》が絡んでいるとみて間違いないとしても問題は遺体の隠し場所だ。
哲郎は教祖 マリアージュが居る地下室のように公にされていない隠し部屋があり、犯人がそこにある遺体を見つけ、この事を白日の元に晒そうとしてやったのだと推理した。
(……動機は本人に直接聞くとして、その犯人が誰なのかが分からない。
さっきの話でもこれといって怪しい点は無かったし………………)
『では皆さん、申し訳ありませんが遺体の隠し場所などを調べる必要がありますので、指示があるまで部屋で待機して下さい。』
水晶からは参列者や信者達のしぶしぶ受け入れる声やまばらな足音が聞こえてくる。
彩奈も部屋に行かざるを得ないため、これで哲郎達がギルドの男の話を聞く事は出来なくなった。
(……彩奈さんも動く事は出来そうにない。
やっぱりあの手しか無いな。)
哲郎は通路を這って空き部屋の隣の部屋に移動した。
「来ると思っていたぞ。 入れ。」 「!」
哲郎が部屋に降り立つと、レオルが椅子に座り、そしてその側にエティも立っていた。
「おお、テツロウ君!!
本当に来ていたのか! 久しぶりだな!!」
「エティさん お久しぶりです。」
「事情はたった今 レオル殿から全て聞いた。
君があの部屋の通気口を塞いでいたから、犯人は通気口を通って出たのでは無いとな。」
「はい。現場に倒れていた椅子は犯人が通気口を通って出たと思わせる為の偽装。
つまり犯人は通気口を通れないという理由で容疑を逃れることができ、尚且つアリバイが無い人物、アリバイの無いお二人、そして今疑われているロベルトさんとアギジャスさんを除く、あの六人の中にいる可能性が高いという訳です。」
「……………………」
レオルとエティは哲郎の話をじっと聞いている。
「……しかし、私にはどうも分からない。
偶然来る事になったここの女を殺して、一体犯人に何の得があるというのだろうか。」
「………それは僕にも分かりません(転生者の事を言う訳にはいかないな………)。
それでレオルさん、相談なんですが」
「何だ?」
「『僕に協力して欲しい』と言ったら どうしますか?」
「……ちょうど私もそれが必要だと思っていた。」