#169 Shelling Ford 2 (Barren)
『………その《転生者》についてだが、アヤナがその気配を感じ取ってから 何か進展は無いのか?』
「……いえ、今のところは何とも。
僕もここからまだ一歩も動けていないので。」
『…そうか 分かった。
ところで、お前が欲しがっていた人探しのリスト、ギルドに掛け合って 連中が目を付けそうな十代くらいの女の中で行方不明になっている奴の名前と顔写真をリストアップした。
今からそっちに送る。』
「お願いします。」
哲郎の水晶に数十枚の顔写真が送られ、そしてその下には名前が刻まれている。
『……俺の勘が正しければ連中が女に拘るのにもその《転生者》が絡んでいる。』
「でしょうね。じゃあ僕は事情聴取の声を聞きながら、この屋敷のどこかにある《卒業者》のリストを探します。」
『分かっているだろうが慎重に動け。
もし見つかって戦闘になれば誰に何が起こるか分かった物では無いからな。』
「はい。分かっています。」
哲郎は通話を切り、再び大広間から聞こえてくる声に耳を傾ける。
『………では、レオルさんとエティさんはマリナさんと話をしてから一歩も外には出ていないのですね。』
『ああ。私はセインの話を終えたあとは部屋に設置されている通話水晶を使ってずっと話をしていた。
記録を確認すれば、俺のアリバイは証明される筈だ。』
『私も右に同じだ。
彼女と話を終えた後は設置されていた水晶で祖国と通信をしていた。』
『……つまり、お二人のアリバイは完璧という訳ですね。
となると容疑者は残りの八人に絞られるという事に。』
『!!! な、何を!!!』
ギルドの男の声の直後に 残りの八人が一斉に抗議の声を出した。
『落ち着いて下さい。まだ話は終わっていません。
犯行の手口ですが、犯行を終えてあの部屋を出る時にそれを誰かに見られる危険性があります。ですか、あの部屋には安全に出る事が出来る経路があります。
天井にある通気口を伝って出れば、誰にも気付かれる事なく脱出できます。通気口の真下に椅子が倒れていたのがその証拠です!!』
『「!!!」』
ギルドの男の発言にレオルと哲郎だけが顔を顰めた。それは不可能であると分かっているからだ。
『そしてそれを含めて考えると容疑者はまた絞れてきます。
まず体格的に通気口を通れないシーフェルさん、レオーネさん、そしてゴスタフさんは容疑者から外れます。
さらに年齢、そして体力的にヴィンさんとアリネさんも外して良いでしょう。
つまりそれが可能なのはロベルトさんとアギジャスさん、そしてペリーさん、
あなた方三人だけと言う訳です!!!』
『そ、そんな!!!』
容疑者だと疑われ、真っ先に口を開いたのはペリーだった。
『それなら私にもアリバイがある!!!
私は医務室で治療を受けていたんだ!! ほら、この脚をな!!!』
『医務室で治療? それはどうして?』
『階段から足を滑らせてしまったんだ。幸い 捻挫ほどの怪我ではなかったがな。』
『ん? ちょっと待って下さい。
今《階段》って言いましたか?おかしいじゃないですか。
この偲ぶ会は一階だけを使って行われていたんですよね?なのに何故上に行く必要があるんですか?』
『そ、それは一階のトイレが混んでいたから、二階のトイレに行ったんだよ。
とにかく私は犯行時刻には医務室に居たんだ!!』
一拍置いて ギルドの男は話し相手を変える。
『……ペリーさんの治療をしたのは誰ですか?』
『私達です。』
哲郎の耳に今まで聞いた事のない声が入ってくる。
『その治療はいつで、ペリーさんはどれくらい医務室に居たんですか?』
『確かエティさんの後がペリーさんで、マリナ様との話が終わった後にトイレに行って、医務室に来たのが12時50分で、治療が終わった後は念の為 安静にしていた方が良いと考えたので、休憩時間が終わるまでは医務室で休むように言いました。
ですからペリーさんには犯行は絶対に出来ませんよ。』
『……確かに、それだと彼に残された時間はほんの数分か。
どこかに隠した遺体を現場に運んで血液を撒き散らし、椅子に乗って通気口から出るのに最低でも10分から15分は掛かる。
ペリーさんのアリバイも完璧か。
……と いう事は……………』
『!!!』
哲郎は聞こえてくる声から ギルドの男がアギジャスとロベルトに視線を向けたと察する。
その時、水晶が再び ノアからの通信を受け取った。
「はい。 哲郎です。」
『ノアだ。お前も聞いているのか。
この不毛なやり取りを。』
『……言いたい事は分かりますけど 不毛は無いでしょう。みんな僕がここに居ることなんて知らないんですから。
確かに犯人が通気口を通って部屋から出たという可能性はありません。』
『そうだ。つまり犯人は通気口の真上に倒れた椅子を置き、犯人が通気口を通って部屋から出たと思わせる事で容疑を逃れる事が出来る、あの五人の中にいる可能性が高いという訳だ。』