#167 Bloody Party 4 (Suddenly Corps)
レオルとの接触を終えた哲郎はこれといって進展が無かった事を残念に思っていた。しかしそれもすぐに心の隅にやって彩奈から聞こえて来る音を聞いている。
(………この静かさ、それに一定に聞こえてくる擦れる音、 庭をほうきで掃除しているんだな………
!)
耳に当てた水晶から彩奈の声が聞こえ始めた。
『………あの、ミアーナさん、』
『ん? 何ですか?』
『ほんの興味で聞きたいんですけど、ミアーナさんってここに来る前は何をやってたんですか?』 『!!』
(………彩奈さん、核心ついてきたな。
これでどう答えるかで説得のしやすさが変わってくる…………)
ほんの数秒 ほうきの音が聞こえた後、ミアーナことアリナの声が水晶の向こうから聞こえてくる。
『………実は私、外で失敗しちゃったんです。』
『失敗?』
『はい。それで自分が大嫌いになってやけくそになってた時にここに拾ってもらったんです。
だから私はここが大好きなんです。』
『………家族は?』『えっ?!』
『……信者の言う《外》に誰か 大切な人は居ないんですか?』
『……………
いや、私にはそんな人居ませんよ。もし居たとしてもここの生活を捨てる気はないです。』
『………そうですか。』
彩奈とアリナの話しが終わって再び掃除の音だけが聞こえるようになると、哲郎は水晶を耳から離した。
(……あの間は間違いなく迷ったんだ。お姉さんや両親が居ることを話すかどうか。
折角家族がいるのに もったいない…………。)
哲郎は異世界に飛ばされた事で家族や友だちと離れ離れにされ、彩奈は父が早死し母は精神に異常をきたした。
哲郎はこの年で既に親や友達という存在の有り難さを十分すぎるほど理解しているのだ。
(えーっと、今はまだ休憩中だよな。
少なくともあと一時間はある筈だから…………… よし、少し寝よう。)
昨日は睡眠自体は十分に取れたが二日以上 寝転がった体勢でずっと気を張っている事はかなり身体に疲労をきたす。
(まぁアリナさんは彩奈さんがそばに居てくれてるし 大丈夫だろ…………。)
休憩時間中に騒ぎなど起こらないだろう と考えた哲郎はうつ伏せの体勢を仰向けにするために通気口から空き部屋に降り立つ。
降り立った哲郎が空き部屋に対して最初に抱いた印象は『とても綺麗だ』という物だ。全ての部屋は毎日のように掃除されているし、何より誰も使っていないのだから当然ではあるが。
(えーと、今の時間は…………、11時28分か。)
空き部屋の中には時計があり、静まり返った部屋の中で規則的な音をたてている。哲郎が覗ける通気口からでは床の大半しか見えず、扉や壁の様子は分からなかったのだ。
(とりあえず、エクスさんに連絡しとくか。)
「あー、エクスさんですか?哲郎です。
今のところ 変わった事は何もありません。オーバー。」
『ああ。こっちにも異常は無い。
アヤナは今 件のアリナと一緒に居る。オーバー。』
「ええ 分かっています。
それで僕はこれから空き部屋の上の場所で 休憩時間が終わるまで休もうと思います。何かあったら連絡を下さい。 オーバー。」
『分かった。お前もずっと寝たまま気を張り続けて疲れただろ。ゆっくりしていろ。』
「ありがとうございます。」
エクスとの通信を早めに終わらせた哲郎は飛び上がって通気口から 仰向けになるように入り、そのまま目を閉じた。
***
「キャーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
「ッッッ!!!??」
ガンッ!!! 「!!!?
ーーーッ!!! な、何だ…………!!?」
目を閉じて意識が微睡んでいた哲郎は少女の悲鳴で叩き起され、咄嗟に起き上がり低い天井に額をぶつけてしまった。
(さ、騒がしいな 一体…………
!!!!?)
通気口から空き部屋を覗き込んだ哲郎は自分の目を疑った。そこには胸を酷く損傷した少女の死体があったからだ。その周囲にはおびただしい量の血が散乱している。そして、哲郎が覗く通気口の真下には椅子が倒れていた。
(ダメだ!! ここからじゃ部屋の様子が分からない!!!
だけどこの声は、信者達だけじゃなくて 偲ぶ会の参列者達も居るってことか!!
と、とにかく エクスさんに連絡を!!!)
焦る手で水晶を取り出し、エクスとの通信を試みる。
「もしもし、エクスさんですか!!?
異常事態です!! 死体が、僕の下の空き部屋に死体があるんです!!! オーバー!! 応答して下さい!!!」
『狼狽えるな!! そんな事はこっちも分かっている!!』
「わ、分かりました。
で、彩奈さんは今どこに居るんです!?」
『アヤナならその部屋の前に来てる筈だ。だが、いくら聞いても『何が何だか分からない』の一点張りでパニック状態だ。
無理もないだろ。女が死体に直面したんだからな。』
「そ、そうですか……………
(一体何が起こったんだ……………………!!!!)」
潜入している哲郎には少女の死体の虚ろな目と腐敗臭を知る事しか出来なかった。