#158 Parasite the filone 3 (Provisions)
哲郎は今 屋敷の天井裏の通気口から通話を掛けている。それはある物を手に入れる為だ。
『それでテツロウ、その通気口からはどれくらい移動できそうなんだ?』
「……まだ動いていないので何とも言えませんが、恐らくはかなり広く動けそうです。だけどここは一階ですので上に行きたければ一度ここを出て階段を昇って行くしか無いでしょうね。」
『いや、その必要は無いぞ。
シーフェルの手紙ではその会は屋敷の一階だけを使うらしいからな。それでも奴らを探りたいというなら慎重に動け。』
「? やけに念を押して言いますね。何か不安な事でも?」
『一つだけな。そこを調べていく内に妙な噂を聞いたんだ。
『そこを卒業した人間は例外なく消息を絶っている』とな。』「!!?」
『これだけ言えば俺の考えている事が分かるだろう? この一件には何かとてつもない裏がありそうだ。』
「………………なるほど。
分かりました。 あくまで情報収集に専念すれば良いんですね?」
『そうだ。 そろそろ準備が出来たようだから通話を切る。 すぐにそっちに行くはずだ。』
「分かりました。」
哲郎は通話を切った。上下左右を金属で囲まれた閉鎖的な空間でうつ伏せの姿勢は節々に響くが、作戦上ではこの状態が明朝まで続く。
この程度の痛みは妹を奪われて為す術もないセリナに比べたらどうという事は無いと言い聞かせた。
「!
……どうやら上手く行ったようだな。」
哲郎の手の中に例の物が握られていた。水が入った水筒だ。
***
サラが面会希望人を偽って宗教団体を訪ねる事を当人は快諾してくれた。そして三人の議題は次の段階に移った。
「………いいか二人共。 今立てた俺の作戦が成功すれば、テツロウはあそこに入り込んで探りを入れる事が出来る。ここまでは良い。
すると問題はテツロウの食事と排泄な訳だ。この問題をどうにか出来れば後はお前の根性がどうにかしてくれるだろうと信じている。」
「はい。それはもちろんです。
妹さんが帰って来ないセリナさんの苦しみに比べたら待ち続けるくらいは耐えてみせます。」
「それを聞いて安心したぞ。
それで話を元に戻すがお前の食事をどうするかだな。食事以前に水分補給はしっかりとやっておかなければいざという時にまずいことになるからな。」
「そうですよね。何とか………………………
!」 「ん? どうした?」
哲郎はハッとしたように表情を変えた。
「こういうのはどうでしょう?
僕のご飯を、彩奈さんに送って貰うというのは。」
「エッ!!!?」
エクスの後ろの彩奈が予想だにしない事を言われ驚いた声を上げた。
「テツロウ、それはつまりアヤナの《転送》を使ってお前の飯を送るという事か?」
「はい。」
「いやいやいや!! 無理ですよそんなの!!!
私なんかに務まるようなものじゃないです!!!」
彩奈が顔を青くして迫る。
「そうですか?僕は出来ると思いますよ?
そもそも初めて僕に能力を見せてくれた時、コインを僕の手の中に移したじゃないですか。それなら僕がどこに居ても僕の所に送ることは出来るんじゃないですか?」
「いやぁ……………
私なんかにそんなに都合のいい事…………………」
「それならやってみましょうよ。
今から部屋の外に出ますからここから僕の手にコインを送ってみて下さい。」
***
結果からいうと一回目は失敗し、そして二回目で成功した。二回目で哲郎は位置情報を教える魔法具を持ち、彩奈がその場所を見る事でコインを送り届ける事に成功した。
「……どうやら行った場所が移動していても、それがどこにあるか分かっていれば送る事が出来るみたいですね。
とにかくこの方法なら潜入している間のごはんはどうにかなりそうです。」
「それはいいとして、問題はお前の用足しだよな。」
「それなんですがね、たった今 良い方法を考えつきましたよ。
女性を頼る事ができない以上、宗教団体の屋敷のトイレを使うしか無いでしょう。だからそこのトイレを使っても怪しまれないようにすれば良いんですよ。」
「……何が言いたいんだ?」
「セリナさんに聞いた話ではその宗教団体の信者は同じ服を身に付けているらしいんです。
だからノアさんが僕をマキムに変えた時みたいに信者の女性に姿を変えれば怪しまれずに用を足せると思うんですよ。」
***
哲郎は水筒に入った水を一口飲み、頭の中で状況の整理を始めた。
(水は無くなったら彩奈さんがその都度送ってくれる。
これからやらなければいけない事は二つだ。
この通路の中を通ってどれくらい動けるのかを正確に把握する事と人目につかない場所を探してそこで一夜を明かす事だ。
作戦が動くのは明後日の偲ぶ会の日だ!!)
***
哲郎が屋敷に潜入した翌日 更に状況が動いた。
門の前に立った尋ね人を黒い服に身を包んだ長身の女性が出迎える。ジェイル フィローネの制服は基本は白で、リーダーのみが黒い服に身を包むのだ。
「……あれ? またお客様かしら?
こんな場所に何の御用でしょう。ここにはお花くらいしかありませんけど……」
「あ、あ、あの 私………………」
「あ もしかして入信希望の方ですか?
もしよろしければ見学だけでも可能ですよ?」
「は、は、はい。 入信 希望です…………
アヤナ、アサクラって 言います…………………。」
慈悲に満ちた表情を浮かべる女性を前に、顔を真っ赤にして上がり倒した彩奈が潜入を開始した。