#157 Parasite the filone 2 (Visiter and Chaser)
ジェイル フィローネ
エクスの屋敷の少し遠くにある大規模の宗教団体である。そこは高い塀で覆われ、中の様子は殆ど分からない。分かっているのはその塀から多種多様な花が見えているという事だけだ。
そして今日 そこに一人の尋ね人が現れた。門の近くを掃除していた二人の少女が尋ね人を出迎える。
「……あの、ちょっと良いかしら?」
「はい! どういったご要件ですか?」
「あ! もしかして入信希望の人ですか!?」
「いえ 違うの。実は人を探してて、もしかしたらここに居るんじゃないかと思ってね。」
『………あ、そういう事ですか。
分かりました。ご案内します。』
そして門が開き、尋ね人が中に入った。
ほんの少しだけがっかりした感情が二人の顔から漏れたが尋ね人は構う事無く二人の後をついて行く。
「それで、どこに行けばいいのかしら。
あの中に入ればいいの?」
「いえ、あそこは『家族』しか入れない決まりになってますので 庭にある面会室に来ていただきます。それで、お名前と誰を探さているのかを先に教えていただけますか?」
「ええ 私は《サラ・ブラース》。
《エリア・エルメス》って人を探してるの。」
尋ね人はサラだ。サラは二人の少女の後に続き、庭の奥へと進んでいく。そしてある程度まで行った段階で二人の目を盗んでポケットに入れた通話水晶を起動し、小声で指示を出した。
『ほら、ここまで来ればもう大丈夫でしょ!?
さっさと入っちゃいなさい!!』
その合図でサラと共に開いた門から侵入した人物が行動を起こした。なるべく音を立てないように、そしてなるべく早く 本来『家族』しか入れない屋敷の扉の近くの植え込みの茂みに身を潜める。
『サラさん、成功です!
予定通りの配置に着きました!!』
『よくやったわ。後は頼んだわよ。
私は折を見て適当に帰るから。』
その人物は他でもない、潜入の為に黒い服に身を包んだ哲郎である。
***
サラが宗教団体を尋ねる前日 エクスの屋敷で作戦が立てられた。
「……アヤナが承諾してくれたのは良いとして、やはり問題はどうやってその状況に持っていくかだよな。」
「そうなんですよね。僕が入り込んで調査するのは決定事項として、何とかその閉鎖的な空間に穴を開ける事が出来れば話は早いんですが……………。」
エクスと哲郎は考えを巡らせていた。
いくら考えてもこの三人で彩奈の潜入に繋げる方法が全く浮かばない。
「……フン。 頭が固いな 二人共。」 「えっ?」
二人が考えを続ける中、ノアが口火を切って話を始めた。
「何だ? お前は何か考えが浮かんだとでもいうのか?」
「当然だろう。要は哲郎が入り込めるように事を運べば良いんだろう? だったら話は簡単だ。
哲郎以外の誰かが『面会』と称して注意を引き、テツロウがその隙に潜り込めば良いんだ。」
「なるほど! それなら潜入出来そうですね。」
「だが、誰がその役を受け持つんだ? 面会とは言っても男の俺達が近付くのは怪しまれるぞ。」
ノアはエクスが示した懸念要素にも笑みを浮かべて対応する。
「一人いるじゃないか。俺達が簡単に声を掛けられてこの作戦に喜んで乗ってくれる女性が。」
「えっ!? それってもしかして━━━━━━━━━━」
***
サラが注意を引いている隙に哲郎は屋敷の目と鼻の先まで接近した。
(……よし。何とか上手く行ったな。
後はこの扉が空いた隙に中に潜り込んで、天井裏に身を潜めれば………………。)
茂みに身を隠して数十分が経つと、その時が訪れた。箒を持った女性が今か今かと待った扉を開けた。その女性が扉のすぐ側の茂みを通過するや否や、全速力かつ音を立てないようにして閉じかけた扉を越えて屋敷の中に入り込む。
喜びに浸る暇もなく哲郎は重力に逆らって飛び上がり、天井に張り付いた。
(やったぞ!! これでそうそう見つかる事は無いだろうけど、なるべく早く見つけなくちゃな…………。)
人はあまり天井に気を向けないものだが、哲郎は決して油断はしなかった。天井を沿って飛びながら天井裏に通じる穴を探す。
(! あったぞ!)
哲郎はものの数分で天井に蓋を見つけた。見つけるや否や構う事無く入り込む。
(! あれ、ちょっと待てよ。
ここって………………)
哲郎が入り込んだのは天井裏ではなく通気口だった。しかしそこはかなりの広さがあったため小柄な哲郎は這うだけなら簡単に出来る。
身を潜める場所を見つけた哲郎は懐から水晶を取り出してエクス達に通話を試みる。
『………テツロウか? 潜入に成功したんだな?』
「はい。最初の予定とは少し違いますが、何とか通気口に入り込むことが出来ました。ここならかなり広く動けそうです。これからこの屋敷のだいたいの広さを調べます。
それで頼んでいた物は何とかなりそうですか?」
『ああ 問題ない。今準備をしている所だ。』