#156 Parasite the filone
「………それで、その宗教団体が《ジェイル フィローネ》と言うらしいんですけど、何か知っている事はありませんか?」
「……いや、名前くらいしか分からないな。」
「俺もだな。ここは広告も出していないような閉鎖的な場所だからな。」
「そうですか…………。」
哲郎は学園を出た後 どうやって宗教団体に接近するかの助言を乞う為にエクスの家に足を運んだ。そして偶然そこにノアも居合わせていたため 三人で作戦を立てる運びになった。
「そう言うが哲郎、お前の事だからもう何かしらの作戦は考えてあるんじゃないのか?」
「はい 一つだけですが。
その前にエクスさん、その写真に写ってるセリナさんって知ってますか? 人間族科の生徒だって聞いたんですが。」
「こいつなら知ってるぞ。
ファンとの繋がりで一回だけ会ったことがある。」
「そうですか。
で その人が言ってたんですよ。『無理に連れ戻そうとしたら』って。
ですから閉鎖的とは言っても面会か何かで接近する事は出来ない事は無い筈なんですよ。だからそれを利用すればどうにかなるとは思うんです。」
エクスは写真を机に置き、哲郎の話をじっくりと聞いている。
「……にしてもそいつの妹も不憫な事だな。
両親の反対を押し切ってまで夢を叶えたのにその矢先に蹴躓かされるなんて。」
エクスの置いた写真を覗きながらノアが口を開いた。
「……やっぱり多いんですか?そう言うパーティー関係のトラブルって。」
「ああ。こういう職業は人気かつ簡単に就職出来る分 人数も多くて生き残りも激しい。
それにパーティーは依頼の達成度だけが収入源だから足切りもさして珍しい事じゃない。」
「………………。」
ノアの口から出る生々しい話を哲郎は黙って聞いている事しか出来なかった。
「それよりも哲郎、そのセリナって奴から他に聞いてない事は無いのか?」
「いや 大した事は何も。
ただ、セリナさんがそこに足を運んだ時に大量に花が飾ってあったのを見たと言ってました。
それと、訪問した時に出迎えたのは皆 女性だったらしいですけど。
こんな事 大した情報にはならないでしょう。」
三人は共に俯いて頭を悩ませた。現状では件の宗教団体に近付く手立てが全くと言っていい程無い。
その時突然部屋に扉を軽く叩く音が聞こえた。三人共に音の方へ反応する。
「あの、エクス様
彩奈です。郵便物が来ていたのでお届けに来ました。」
「分かった。 入っていいぞ。」
「失礼します。」
扉を開けて彩奈が入って来た。
「あ! 哲郎さんいらしてたんですね。
…国王様への謁見、大変だったみたいですね。」
「はい。 それは確かに。」
国王はその権力を利用して翌日の新聞の記事を里香の銃撃に差し替えたのだ。
「……それでアヤナ、届いていた手紙というのは?」
「は はいっ!
えーと、《シーフェル・パシフィック》という人から 三日後に偲ぶ会に出席する と報告の手紙です。」
「ああ あいつか。」
『ノアさん、シーフェルって誰ですか?』
『エクスの家が贔屓にしている魚人族の資産家だ。』
『魚人族の!』
小声で話す哲郎とノアに構う事無くエクスは質問を続ける。
「それは誰の送別会なんだ?」
「《セイン・ヴィンロール》という巨匠の人の送別会だと書いています。エクス様が来たいと言っても良いようにちゃんと場所も書いてますよ。」
「場所といってもどうせどこかのホテルだろ?」
「いえ、最初はホテルだったらしいんですけど急遽予定が合わなくなってしまって、ここから近い宗教団体が部屋を一日貸してくれる事になったらしいんです。」
『宗教団体!!!?』 「ひっ!!?」
宗教団体
突然出てきたその単語に三人共 驚いて彩奈に接近してしまった。
「どど、どうしたんですか!!?
私何かおかしな事言いましたか!!?」
「アヤナ、手紙にはその宗教団体の名前は書いてあるか?」
「も、もちろん書いてますよ。
この近くの…… 《ジェイル フィローネ》という所らしいです。」
『「ビンゴ!!!」だ!!!』 「!!?」
願ってもいない好機に三人は一斉に興奮した表情を浮かべた。
「ビ、ビンゴ………?? 一体何の話ですか?」
「彩奈さん、その送別会について他に何か分かりませんか!!?」
「え、えっと、
団体の活動は内密にするという条件で入信者が送別会の食事の用意や案内も手伝ってくれるとも書いてました。」
たじろぐ彩奈を置いて三人は頭の中で次々に作戦を立て、口元を緩ませた。
「…………あの、その宗教団体がどうかしたんですか?」
「アヤナ、今からレイン家の人間として一つお前に命じたい事がある。」 「?」
「実はテツロウは依頼でその宗教団体から人を連れ戻そうとしている。それでその偲ぶ会を利用してそこに潜り込む作戦を立てた。
そこでアヤナ お前はテツロウの隠れ蓑としてその宗教団体に入信するふりをして潜り込め。」
「………………………
エエッ!!!!?」
静かな部屋に彩奈の驚く声が響き渡った。