#151 PHOENIX
レイザーやワードを含む大広間に居た人間は哲郎と王宮の職員を除いて全員 退出した。これで哲郎達の懸念要素は無くなったが、里香は全く表情を崩さない。
『オルグさん、油断はしないで下さい。
この前言っていたように里香は根源魔法を模倣して使いこなすような人間です。
転生者が崩されたらあっという間に全滅してしまうでしょう。』
『………だろうな。』
里香の知識においてはオルグダーグより哲郎の方が一枚上の状態だ。
「……………んまー、これだけわんさかひとが集まってくれてるわけだし? やっぱこれが無難だよね?」
『!!!!!(いきなりか!!!!)』
里香が徐に手を伸ばすと前方に巨大な人形の腕が現れ、その掌に黒い魔法陣が展開された。
「《皇之黒雷》」
「!!!!!」
里香の気の抜けた詠唱とともに魔法陣から巨大な黒い雷が一直線に放たれた。瞬間的に哲郎は考えるでもなく騎士達の前に出た。
「テ、テツロウ君!!?」
「皆さんは早く伏せて!!!! (忘れるな!!! こんな物 僕以外が触ったら一瞬で消し炭なんだ!!!)」
前に出した右腕の力を一瞬で抜き、脱力したまま振るって雷の先端にぶつけた。《粼》で弾き飛ばす算段に出る。
「…………………… グッ!!!!? こ、これは…………………!!!!
(あの時より格段に強くなってる……………!!!!?)」
「………あのさー、その技で弾こうとするのは良いけどさ、なんで君はあの時のボクが全力だって思ったの?」
「!!! (だ、ダメだ 押し負ける…………………!!!!)
ウワッ!!!!?」
雷の圧倒的な威力に押し負け、哲郎の身体は下方向に弾き飛ばされた。雷は上方向に弾かれ、大広間の天井に風穴を開ける。しかしこの場には城へのダメージなど気にする者は一人としていなかった。
「テツロウ君!! 大丈夫か!!?」
「僕の事は気にしないで下さい!!すぐに次が来ます!!! それに間違えないで下さいよ!!!
里香にとっては身体を媒介にしてない根源魔法なんて何発でも撃てるんですよ!!!」
国王から聞いた話では根源魔法は本来 威力と引き替えに杖などを媒介にして放つ物である。
魔界公爵家のイギアの家系は媒介を使わずに威力を落とすこと無く放つことができ、尚且つ肉体への反動も後遺症が残らない程度に抑えることが出来るのだ。
「そ。よく分かってんじゃん。 つまり、
これでお終いだよ。」 「!!!!」
先程と威力も大きさも遜色無いほどの黒い雷の塊が哲郎目掛けて一直線に突っ込んでくる。
哲郎は真っ先に自分では無く後ろの騎士達を庇わんと踵を返し走り出した━━━━━━━━
バリバリバリバリッッ!!!!! 「!!!?」
雷は哲郎に当たる前に炸裂する音を響かせた。
振り返るとそこには国王が剣を抜いて里香の黒い雷を真っ向から迎え撃っていた。
「ぬああっ!!!!!」 「!!!」
バチィン!!!! と強烈な音が響き、雷が剣に打ち上げられた。奇しくも雷は哲郎が弾いた場所と同じ穴を通過する。
「こ、国王様!!!」
「心配は無用だ!!! 君は早く体勢を立て直すんだ!!! 彼奴はすぐに次を撃ってくるぞ!!!!」
哲郎の心配を無用と切って捨てたが国王の顔からは目に見えて汗が流れていた。
「……こりゃ驚いた。
まさか国王サマが家臣達を助けるなんて。」
「戯け!!! 今でこそ一国の王だが元より私は騎士の家系の生まれ!!
その誇りも剣術も一切捨ててはおらぬわ!!!!」
国王の表情は真剣そのものだったが、哲郎にはそれは虚勢にしか感じられなかった。
国王の持っている剣が無残なまでに黒く焦げていたからだ。
「………そんな黒焦げの剣 片手に凄まれても別に何とも思わないよ?」
「……………………」
剣が焦げている事は事実と認めたのか反論はしなかった。しかし後ろにいる騎士達の心配や怯え視線を感じ取ったのか、すぐに口を開いた。
「………確かにこの剣は黒く焦げている。最早用をなさないだろう。
ただし、この一発を撃った後の話だがな!!!!!」
「?!!!」
国王が一声と共に剣を里香の方向に向け、そこに黒い魔法陣を展開した。しかし里香の物とは違い、周囲が赤く光っている。
「テツロウ君!! そして皆の者!!! 離れておれ!!!
この魔法の衝撃波を受けるだけで、火傷では済まんぞ!!!」 「!!!」
国王の言葉が真実だと確信した次の瞬間には哲郎は国王との距離を取っていた。そして直ぐにそれが正解だったと思い知らされる。
「喰らえ!!!!
根源魔法 《皇之焔鳥》!!!!!」 「!!!!!」
国王の剣から放たれた炎は左右に大きく広がり、鳥の翼の形を作った。そして鋭く尖った炎の嘴が既に黒焦げになって用をなさない人形の腕を軽く消し炭にしながら里香へと一直線に飛んで行った。