#149 Marionette Knight
普段滅多に国民に姿を見せない国王が姿を現した。その一つの出来事だけで会場にざわめきが起こった。
哲郎は国王の国民への影響力を再確認した。
「皆の者 静粛に。
本来 このいじめ問題は学園内の会議でその処遇を決める筈であった。何故ここまで事が大きくなったかと問われれば偏に寮長 ラドラ・マリオネスが成り済まされていたからである。
この裁判では主に成り済ましについての議論に重点を置く為、諸君もその心づもりをしておくように。」
既に学園内に成り済まし事件が知れ渡っていたのかその場に居た制服に身を包んだ学生達の中に不満を吐露する者は一人としていなかった。
***
そこからの数十分は 始めはアイズン達の被害者の生徒の証言が続き、その次に偽ラドラに拉致監禁された生徒達が順番に証言台に上がっては降りをしばらく繰り返した。
そして最後に哲郎のよく知る顔が映った。
(! あれって…………!)
学園の地下で出会った少女 ミリアだった。
彼女もまた 自分を危険に晒したラドラが偽物だったと言う事は知っている筈だが、その動揺は一切感じなかった。
(ミリアさんも招待状を貰ってたのか? いや、そんな筈は……………)
そこまで考えて哲郎は結論に至った。
ミリアも招待状を貰っているなら国王から紹介があるはずであるため、学園から証言の依頼があったのだろうと考えた。
自分に招待状が来たのは自分が偽ラドラに一番近しい人間だからであろう。数多くいる被害者の一人であるミリアにわざわざ招待状を送るとは考えにくい。
ミリアの証言は哲郎が地下通路で聞いた話と全く同じ 職員室に向かう途中で迷ってしまった結果何者かに眠らされたと言うものだった。
哲郎はその様子を冷静な感情で眺めていた。
(もうすぐ僕の番だよな…………)
時計に目をやると国王に予め伝えられていた予定の時間が少しづつ迫っていた。脳内で改めて自分がやらなければならない事を整理して繰り返す。
(大丈夫。 僕のやる事なんて簡単な事だ。
偽ラドラの事について話せる事を全部話して その後で写真と(人形の)生首を見せればいい。
落ち着いてやればきっと大丈夫………………
?!)
開いた哲郎の目は奇妙な光景を捉えた。
国王の後ろに立っている甲冑に身を包んだ護衛の男達 その内の一人の顔色が明らかに悪い。
まるで何かに恐怖しているような印象を受けた。
「!!!」
次に哲郎の視界に飛び込んできたのは男の右腕が不自然に動く光景だった。その手元には金属の光沢が光る。
その瞬間 哲郎の身体は勝手に動いていた。
「国王様 危ない!!!!」 「!!?」
ドゴッ!!! 「ウグッ…………!!!」
人にぶつかる事の無い最短距離を全力で駆け抜け、剣を抜いた男に体当たりを見舞った。
剣の軌道は僅かにずれ、国王の肩の数センチ先の空を切り裂く。
鉄の塊にぶつけた肩が痺れるように痛むがそんな事を気にかける暇もなく男の剣を持つ手首を掴み、身体を捻って関節を固めて床に倒す。
金属の塊が石造りの床に叩きつけられて辺りに轟音が響き、それに連鎖するかのように場内がざわめきに包まれる。
哲郎が男の凶刃から国王を守り床に組み伏せるまで僅か6秒程の時間だ。
「おい ザフマン!!
なんのつもりだ 国王様に刃を向けるなど!!!」
「わ、分かりません!!
先程から身体が勝手に動くんです!!!」
「何!?」
(!! 身体が勝手に!?
まさか
!!!)
哲郎が考えを巡らせる暇もなくザフマンと呼ばれた男の眼前に赤色の魔法陣が展開された。
(こ、これはまずい!!!)
「国王様!!! 早くお逃げ下さい!!!!」
その願いも叶わずザフマンの魔法陣から放たれた一筋の大きな火柱が国王に迫っていく。ザフマンを組み伏せている哲郎はその光景を見ているしか無かった。
しかしその火柱は国王の身体を蹂躙することは無く、奥から高速で伸びて来た黄褐色の触手のようなものによって食い止められた。
その触手が動きを止めた瞬間 そこから粒のようなものが零れるのが目に入った。
(…あれって砂!? って事は………)
「何とか間に合ったようで何よりです。国王様。」 「!!」
哲郎や騎士たちの視線の先にはオルグダーグが立っていた。その背中から砂を押し固めた触手が伸びている。
「オルグさん!!!」
「テツロウ君 何も話す必要は無い 状況はもう分かっている。ザフマンは操られているようだな。ひとまずこいつで縛って動きを止めろ。」
「分かりました。」
オルグダーグの手には鎖が握られていた。
ザフマンの表情は『早く縛って動きを停めてくれ』と訴えかけているように見えた。
シュンッ!! 『!!?』
哲郎が拘束するために体重を緩めた瞬間、ザフマンの身体が宙を舞った。
「あーあ もうちょっとだったんだけどなー。国王サマを騎士が殺したってなったら大スキャンダルだと思ったのに。
ま、何でもボクの思う通りには行かないよね。」
ザフマンの身体が宙に吊るされた先で 姫塚里香が天井近くの装飾に腰を掛けて軽薄な笑みを浮かべていた。