#147 The Black Agent
国王との話が一段落ついた哲郎は壁に掛けられた時計に目をやった。裁判が始まるまであと二時間を残すのみとなっている。
「それでやっぱり、裁判はここの城でやるんですよね?」
「うむ。ここの十階には大広間があって、そこに色々な人間を呼んである。傍聴席も抽選を出した翌日には埋まってしまった。」
まるで自分で開いたパーティーに沢山人が来てくれたかのように得意げに話す。
「……そこまで大々的にやるということは、やっぱりやっぱりあの事は伝えてるんですよね?」
「もちろんだ。ラドラのなりすましくらい伝えているに決まっているだろ?たかがいじめ問題如きの裁きを何故私の城でやる必要があるのだ?」
『如き』という表現は不適切だと感じたが、学園のトラブルをいちいち城の中で解決していたら日にちがいくらあっても足りないだろうと納得付けた。
パリム学園はあらゆる分野においてエリート校であり、その生徒 ましてや寮長のなりすましとなれば生徒にとっては一大事件といえる。国王の立ち会いの元で裁判にかけるのは自然な運びだ。
そう思考を巡らせている最中、扉を叩く音が哲郎の耳に入って来た。
「国王様、オルグダーグです。
招待状を持つ者が国王様とお話がしたいと言って 待たせております。」
「そうか分かった すぐに向かう。
それから部屋の中に証人を読んでいるからお前も挨拶しなさい。」
「畏まりました。」
「…………………
あっ!」
扉を開けて入って来たのは黒のローブに身を包んだ黒髪短髪で高身長の青年だった。哲郎はその外見に見覚えがあった。
「紹介する。彼が私の親衛隊の《オルグダーグ・ヴェドマンド》君だ。」
国王から聞かされたその苗字で確信した。
「分かると思うが今日裁判にかけられる一人のワード・ウェドマンドの兄だ。」
「………………!!」
哲郎はオルグダーグの顔をまじまじと見つめる。その顔立ちの所々に彼の面影が見えた。
「ちなみにだが、姫塚里香が転生者だと見抜いた転生者が私の部下にいると言っただろう?彼がそうだ。」
「えっ!!!?」
哲郎は驚いてオルグダーグの方を見た。
その表情は事実を否定する様子もなく淡々としている。
「ではオルグ、私は面会をしてくるからテツロウ君の相手をしていてくれ。」
「畏まりました。」
無機質な返答の後で国王が部屋を出た。
***
(……………またこの状態か………………。)
初めてあった人と二人だけで部屋に残されるという状態を、ついこの前彩奈と体験したばかりだ。
「…………テツロウ・タナカ君だな。」
「! は、はい。」
意外にも先に口を開いたのはオルグダーグだった。不意を突かれて返答が一瞬詰まった。
「色々聞きたいことはあるだろうが、まずは私の愚弟が迷惑を掛けた事を謝らせて欲しい。」
「いえいえ そんな事は。」
その冷たそうな表情からは想像もつかない程の腰の低さに哲郎の方がたじろいだ。
エクスの屋敷から自分を攫ったのは他でもないワードだが、哲郎は別に迷惑は感じていないが、それは言わないでおいた。
「……あの、オルグダーグさん。」
「オルグで良い。ここにいる人はみんなそう呼んでいる。」
「じゃあオルグさん。あなたはラドラになりすましていた少女が転生者だと見抜いたそうですが、今の僕はどうですか?」
「君が転生者か分かるか という事か?
それなら君が転校をたくさん経験した学生だ という点を含めて全て分かっている。」
「………………」
こうまで自分の生い立ちを言い当てられたのはコロシアムの決勝でノアに当てられた時以来だ。
「テツロウ君、君もエクスと関わっているなら当然そのノアやアヤナとも会っているんだろう?」
「はい それはもちろん。二人とも会った事があるんですね?」
「ああ。君は二人を見てどう思った?」
「どう思った というのは能力の話ですか?
ノアさんは恵まれてると思ったし、彩奈さんも特徴的だと思いましたよ。もちろん僕も《適応》は気に入ってます。」
「気に入ってる か。そうだろうな。
転生者の能力にはその人の前世がそのまま反映されるから、馴染まない道理は無いんだ。」
「そうですか……………………(彩奈さんは気に入ってるようには見えなかったけどな)。」
彩奈と初めて会った事を思い出した哲郎は《あの質問》を投げ掛ける事に決めた。
「………あの、オルグさん。
もし宜しければあなたの能力を教えて欲しいんですけど。」
「? あぁそうか。
君も不完全な転生者だから私の前世が分からないのか。
分かった。」
オルグダーグは哲郎に自分の手に注目するように促した。
「………………… あっ!」
オルグダーグの指先から焦げ茶色の細かい粒がどんどんと溢れ出した。哲郎はその正体に直ぐに気が付いた。
「もしかしてそれは………!」
「私の能力は《砂塵》。世間ではこれを土魔法として通している。」