#144 The eve of the King's Audience
哲郎はサラ達が招待状の内容を読み終えた事を確認してからそれを自分の懐にしまった。
この食事の席を設けたのは初めての依頼を完了した事と招待状を受け取った事を伝える為であり、そのためこれで哲郎の目的の殆どは完了した。
「………? どうかしましたか?」
哲郎はサラの表情が予想より遥かに動揺に染まっている事に気が付いた。その事を不審に思って質問を投げかけると、彼女の口が大きく開いた。
「どうしたもないわよ! あんたそれがどういう事か分かってるの!!?」
「え? どういう事も何も『事件の事を証言してくれ』っていう事でしょう?それ以外の何があるっていうんですか?」
哲郎が純粋にそう答えると、今度はサラの表情が『やれやれ』と言わんばかりに呆れた表情に染まった。
「知らないの!? 国王様はね、殆ど滅多に国民に姿を見せたりしないのよ!!?」
「えっ!? 会った事無いんですか!?
紅蓮の姫君が!!?」
【紅蓮の姫君】などという異名を持ち、他の生徒から《様》付けで呼ばれる程のサラなら国王に会っているものだと思っていた。
「そうよ。 私たちが知ってるのはせいぜい名前と素性くらいの物よ。」
「素性? そんなの王家に産まれてそのまま先代の後を継いだとかじゃないんですか?」
「そんなありふれたものじゃ無いわよ。
もっともっと壮絶な人生を送ってるんだから。」
***
国王 名前を【ディルドーグ・バーツ・ヴルガン】 という。
元々王家の血筋ではなく、騎士の一家に産まれ、物心付くより前から剣の修行を積み、その類まれなる才能を発揮して十代後半の頃には一隊の騎士団を率いるほどになっていた。
彼が二十歳を越えた頃、王家ヴルガン家との縁談が持ち上がり、彼もそれを受け入れた。
そしてその高い剣と統率力の高さを先代国王に買われ、息子に恵まれなかった先代の跡を継ぐ形で国王の座に就いた。
***
「………ってのが国王様の素性よ。
? どうしたの?なんか納得いかないみたいな顔をしてるけど。」
「今の話を纏めると、騎士の家に産まれた男が王家に『婿養子』として行ったってことになりますよね?
いくら先代様に息子が居なかったからといって後を継げるものなんですか?それこそ娘を女王にでもするという選択肢くらいありそうですけど」
「もちもん王家の間でもそんな話はあったわ。
実際先代様の王女とその座をかけてどっちが相応しいか国民の声を聞いたくらいよ。」
「国民の声を聞いた?(それって選挙って事か?)」
「ええ。それで倍近い票数の差で今の国王様に軍配が上がったって訳。まぁ完全に実力で勝っていたって事ね。」
「そうなんですか………………(案外僕のいた世界と変わらないのか…………)。」
「ってか、これくらい常識で知ってるもんじゃないの?」
「すみません。 コロシアムに出てから色々な事が立て続けにあったものですから。」
哲郎は質問に答えたが、サラの表情は納得いかないと言っているように見えた。
「………ねぇテツロウ、あんたって何か無知過ぎない?」 「!!!」
「ってかもう無知を通り越してまるでついこの前までラグナロクの事を何も知っていないように見えるんだけど?」
「な、何を言ってるんですか!!!
そんな事ある筈ないでしょ!!! 変な事言わないで下さいよ!!」
(別にラミエルさんにバレちゃいけないって言われてる訳じゃないけどやっぱりマズイよね!?
僕の戦いに不用意に巻き込む訳にも行かないし!!
それにノアさんもエクスさんも自分が転生者だとは言ってないみたいだし………)
偽ラドラ・マリオネスこと姫塚里香 そして彼女のバックにいるこのラグナロクの破壊を目論む《悪の転生者の集団》 自分がそれと戦うことになるであろう事は目に見えている。
転生者でもない彼女達を巻き込むのは避けねばならない事だ。
「………まぁ別に言いたくない事があるなら別に今すぐ言わなくても良いのよ?」
「あ、ありがとうございます。(いつかは言わなくちゃいけないのか………………
まぁそれはそうだよな……………。)」
コロシアムで一戦を交え、今もこうして一緒の食事の席に座っている。自分とサラ達との関係性は決して浅くはない。
いつの日か打ち明けなければならない日が来るのであろう と感じた。
そして熱が抜け始めた残り少ないパスタの麺を口に運びながら考える。
国王に謁見するという時間が様々な人間の運命 ひいてはこのラグナロクの運命も左右しかねないという事を。
そしてこの近況報告を兼ねた食事会が終わった数日後、哲郎は国王立ち会いの元行われるパリム学園 人間族・亜人族科のいじめ問題の判決を決める裁判へと足を運ぶ事になる。