#142 Invitation from the king
哲郎にとっての彩奈の能力を見た第一印象は《自分と似た系統の能力》だというの事だ。
彼女の【転送】にも自分の【適応】にも、ノアやエクスのような圧倒的な攻撃力がある訳では無い(ラドラはどちらともいえない)が、哲郎はその能力を最大限利用して魔界コロシアム、そして初めての依頼をこなして見せたのだ。
だから後で『その能力にも必ず出番がある筈だ』と慰めようともと思った。
彩奈が哲郎の質問に答えてしばらく静かな時間が流れた後、エクスの通話水晶が光った。
後ろを向いて懐から水晶を取り出す。
「…………あぁ ミゲルか。どうした?
……………そうか分かった すぐに向かう。
……何? ……分かった。ちょっと待っていろ。」
数十秒の通話を終えてエクスは水晶を元の位置に直した。
「エクス、今のはミゲルからか?」
「ああ。」
「どういう用件だ?」
「何でも、俺宛への手紙が結構来たから確認のためにそれを客間に運んだからそこに来て欲しいと言うんだ。」
「客間に?居間じゃだめなのか?」
「何だか秘密裏に送られてきた物もあるから人目に付く所じゃ開けられないらしい。それで、お前宛ての物もあるから一緒に来てくれと言っていた。」
「俺に?分かった。」
「そういう事だからアヤナ、お前はテツロウにしばらく紅茶でも振舞っていろ。直ぐに戻る。」
「はい。 かしこまりました。」
給仕としての仕事は慣れているのか彩奈の返事はつかえることはなかった。
哲郎と彩奈を残して二人は部屋を後にした。
***
「…………」
「…………」
二人部屋に残された哲郎と彩奈は話をする事が出来ずにいた。
彩奈に聞きたい事を全て聞き終わった今、これといって話す事も無い。
「あ、あの 哲郎さん。」 「! はい。」
口下手な筈の彩奈の方から口を開いた。
「私、エクス様から色々聞いたんです。
その、ラドラさんは転生者だったんですよね?」
「はい。姫塚里香と自分で名乗っていました。」
「………実は彼女、この屋敷にも一度来たんですよ。」 「!!?」
不意に事実を告げられて哲郎は驚きの声を漏らした。
「その時私がここの給仕としてお茶を出したんですよ。なのに何も感じなかった。転生者だって見抜けなかったんです。」
「…………何が言いたいんですか?」
過剰に神妙な彩奈の表情を不審に思って問いを投げ掛ける。
「エクス様は転生者を見抜く事が出来ないって事は知ってますよね?だからその役目は私がやらなきゃいけないのにそれさえも出来なかった。私はこの屋敷に拾ってくれた恩さえも返せなかったんですよ。」
「何を言ってるんですか!それはノアさんも同じ事ですよ!
あいつの魔法がみんなの上を行っただけの事です!」
彩奈の目に涙が溜まっているのに気付き、半ば冷静さを失って迫った。
「……エクス様達もそう言ってくれてました。
理屈では分かってるんですけどやっぱり不甲斐ないって思っちゃって。」
「……………」
「それで話は変わるんですけど、哲郎さんも日本なら【異世界転生】の事 知ってますよね?」
「は、はい。 それはもちろん。」
「こんな事言うのも恥ずかしいんですけど私、少しだけ憧れてたんです。」
「憧れてたって、異世界に?」
「さっきも言いましたけど前世はとにかく生きるのが辛くなっちゃって、異世界で平和に暮らしたいって 本気で考えてたんです。
だけど、折角転生出来ても手に入ったのはこんな弱々しい能力で(チートを振りかざして威張る気なんて無かったけど)、エクス様のお屋敷の給仕位しか出来ることも無くて、やっぱり小説みたいには上手くいく訳ないですよね。」
「………………………」
「アヤナ、もうその辺にしておけ。」
「!!!! エ、エ、エクス様!!!」
扉を開けてエクスが入って来た。
その呆れたような表情から察するに、先程までの話は全て聞こえていたようだ。
「そうやって直ぐに卑屈になる癖 止めろと言ってるだろ。」
「もも、申し訳ありません!!!
お茶を出さなければいけないのについ話し相手にさせてしまいました!!!」
「いや、それは問題じゃない。それよりテツロウ、お前に用があって来た。」
「? 僕に?」
「ああ。俺宛の手紙の中に一通お前宛ての手紙があったから渡しに来た。」
「それはどうも。それで差出人は?」
質問に答えること無くエクスが手渡したのは豪華な便箋だった。
そこに書いてあった内容に目を通すと途端に表情が驚きに染まる。
「…………………!!? こ、国王…………!!??」
「ああ。俺もまだ中を見ていないがおそらくラドラ寮に関することだろう。
つまりこれは【国王からの招待状】という訳だ。」