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異世界に適応する少年  作者: Yuukiaway
国王 謁見 編
141/422

#141 The teleportation girl

エクスの口から出た言葉

それは目の前の給仕(メイド)姿の少女が自分と同じ世界から来た【転生者】であるという事実だった。


「あ、あの エクスさん、」

「? 何だ?」

「昨夜見た夢で、転生者は前世(過去)の経験で能力が決まるって事を聞いたって言いましたよね? じゃあその 彩奈 さんにもそういうのがあったりするんですか?」

「ああ。こいつはお前と違って口下手で話せば長くなるから俺が話そう。


「は、はい。 お願いします。」


エクスの後ろで彩奈がたどたどしい口調で頭を下げた。




***




朝倉彩奈 14歳

彼女の半生は壮絶なものである。


小学生時代は普通の生活を送れていたが、中学生になった時に彼女の運命は一変する。

内気で暗い性格が災いしてクラスの素行の悪い生徒に目をつけられ、いじめを受けるようになってしまった。


そして災いが畳み掛けるかのように彼女の父親が交通事故で非業の死を遂げた。


母親は精神を病んで家にも学校にも居場所が無くなってしまった彼女は『どこか遠くの場所に飛んでいってしまいたい』と思うようになった。そんな事を考えていたある日、通学路の駅のホームから足を滑らせて線路に転倒し、電車に轢かれて死んでしまう。




***




「………と、いうのがこいつの前世の話だ。」


哲郎が話を聞いて考えたのはいつか見た学園ドラマのような話のように現実感が持てないという事だった。


「それで、そんな彼女がどうしてこの屋敷で働いているんですか?」

「それは簡単な話だ。このラグナロクに転生してからは右も左も分からなくてな、ギルドの中で靴磨きをして日銭を稼いでいて、俺がギルドに訪問した時にこいつと出会ったんだ。その時ノアも一緒に居たから転生者だと分かった。

そしてすぐに俺の屋敷の給仕として住み込みで雇う事が決まったんだ。」

「えっ?! 待って下さい!

【転生】してすぐに(・・・)ギルドの中で靴磨きを始めたってことはつまり………………」

「ああ。そういう事だ。

アヤナも俺たちと同じ《不完全な転生者》だ。記憶と年齢が前世と一緒という点が本来の転生者と比べて不完全なんだ。」


哲郎は頭の中で今までに得た情報を整理していた。

自分は死んでいない事と容姿、年齢が前世のままであるという点

ノアは元々ラグナロクの住人で転生して尚ラグナロクで生活している点

エクスは転生者を見てもその者が転生者であるという事が分からないという点(自分にも当てはまるが時間が経てば使えるようになるらしい)


そして彩奈は年齢が前世と同じであるという点が本来の転生者と違っている。


この事から哲郎が導き出した転生者の定義は、

①転生者はもちろんの事 一度死ななければならない

②転生すると前世とは違う世界に飛ばされる

③赤ん坊の状態で転生する

④容姿が前世とは異なる

⑤転生者は前世に起因する【能力】を持たされる

というものであった。


「エクスさん、説明をありがとうございました。 それで、彩奈さん。」

「は、はいっ!!」


不意に声をかけられて彩奈は裏返った声を出した。


「一つ、あなたから教えて欲しい事があります。彩奈さんも【転生者】という事はやっぱり持ってるんですよね?

前世(過去)に基づいた能力》を。」

「………!! は、はい。

それは もちろん。」


彩奈はたどたどしい口調で哲郎と会話を試みる。哲郎は何回も転校を経験したことで沢山の人間と触れ合い、人と会話をする能力が養われたが、その能力が乏しい人間も少なからず存在するのだという事を理解する。


「……とは言っても私の能力なんて、何の使い道も無いような弱々しい物なんです。」

「弱々しい?」


哲郎も自分の【適応】が最強だとは微塵も思っていないが、それでも弱いと思った事は一度も無い。自分で弱々しいというからにはよっぽど自信が無いのだろう。


「……はい そうなんです。

見せた方が早いと思うので、手を出してくれますか?」

「手を? はい。」


哲郎が彩奈に向かって手を差し出すと、彩奈はポケットからコインを1枚取り出した。


「…………行きますよ。」


哲郎は彩奈の手の平に乗ったコインを見つめていた。すると、そのコインが突如として消えたのだ。


「!? 消えた!!?

━━━━━━━━━━あっ!!」


消えたコインは哲郎の手の平の上に乗っていた。


「もしかしてこれは…………!」

「そうです。私の能力は【転送】

触った物を行ったことがある場所や自分の見えている範囲に移動させる事が出来るんです。

多分 前世()に遠くに飛んでいってしまいたいって考えてたからこんな能力が身に付いたんだと思いますけど。


まぁ 折角転生してもそれしか出来ないんですよ。弱々しいでしょ?」


彩奈は自嘲気味に小声でそう笑った。

後で『日常生活なら役に立ちそうじゃないですか』と言って慰めようと 哲郎は思った。

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