#140 Maid isn't first meeting
朝食を取り終えた哲郎達三人は場所をエクスの家に移した。
目的は二つ 本物のラドラの現状を把握する事とかれからどんな証言が得られたかを確認する為だ。
居間でくつろいでいると、ドアを叩く音が聞こえた。
「失礼致します エクス様。」
ドアを開けてミゲルが入って来た。
「ミゲルさん! お久しぶりです!!」
ラドラ寮のワードとの激闘以来の再開に喜ぶ哲郎に一瞥を送り、ミゲルはエクスの前に座った。
「……ミゲル、あれから1日経った訳だが何か新しく得られた証言はあるか?」
「はい。ご報告します。
まず、本物のラドラ・マリオネスですが、彼が扱う魔法は人形魔法でこそありますが、それは人形を数体程度具現化させて使役するといった簡易的な物であると分かりました。」
「……………」
哲郎にはそれがどれくらい凄いことなのか分からなかったが二人の表情を見るにさして凄い物ではないと感じた。少なくとも偽ラドラの【能力】よりは劣っている事は間違いない。
「それから、状態が落ち着いたのを見て、ラドラと七本之牙を面会させました。」
「…………それで結果は?」
「まるで初対面かのような反応でした。」
「? 待って下さい ミゲルさん。」
反射的に哲郎は手を挙げた。
「? どうした テツロウ君?」
「彼 レイザー・マッハは僕に『ラドラ・マリオネスとは>半年前に出会った』と言ってました。という事はレイザーは学園の生徒として寮長を知っていたんじゃ無いですか?」
「学園の生徒であっても寮長の事を詳しく知っているとは限らないだろ。それにそいつは人間属飲みで【魔眼】を持っているせいで人と距離を置いて生きている。初めてラドラと会ったのが姫塚里香の時であっても不思議は無い。」
「! そ、そうか。分かりました。」
横目で送られたエクスの言葉で我に返る。
レイザーがラドラにスカウトされた半年前が里香に体を奪われた直後と考えれば辻褄は合う。
「それで、今ラドラはどうしている?」
「肉体の疲労は完全に回復しましたので、今は来客用の部屋で待機してもらっています。レイザー達は現在も拘留中です。
彼らの処遇はグス達と一緒に後日行われる学園内の会議にて決する予定です。」
「そうか。」
「報告は以上になります。」
ミゲルが報告を終えるとエクスが合図をして退出するように促した。
「あぁ それから、
あいつをテツロウに会わせたいから適当なお茶と茶菓子でも持ってくるように言ってくれ。」
「かしこまりました。直ちに。」
ミゲルは深く一礼をして部屋を後にする。
その直後、エクスがノアの傍に近づいて指で話し始めるように合図した。
『…………エクス、テツロウにあいつを会わせるのか?』
『ああ。もう既に粗方の事情は話している。それにこうした方が二人の為だろう。』
『そうだな。』
哲郎の耳には二人の小声の会話は入らなかった。代わりに考えていたのは昨日ぶつかった給仕の事だ。
エクス程の人間が給仕を雇う事はおかしくは無いが彼女は自分と同じ位の年齢だった。
異世界の倫理観がどうなっているのかは知らないがどういう経緯で働く事になったのか位は聞いておいても良いだろう と思ってエクスに話しかける。
「あの、エクスさん。」
「? どうした?」
「突然で申し訳ないんですけど、この家って給仕とか使用人ってどれくらいいるんですか?」
「使用人? 何の話だ?」
「言うほどの事じゃないと思って言わなかったんですけど、昨日本物のラドラさんを部屋に連れていく時に給仕の格好をした女の子とぶつかってしまったんですよ。
ですから、やっぱりこれだけ広い屋敷だとそういうお手伝いさんとか沢山いるのかも思いまして。
あぁ すみません。こんな時につまらない事聞いちゃって。」
哲郎が笑い紛れに誤魔化そうとしていると、ドアを叩く音が耳に入った。
「来たか。 入って来て良いぞ。」
(お茶とお菓子を持って来るって言ってたけど、やっぱりお手伝いさんくらい普通に居るよね
!!!?)
ドアを開けて入って来た人物を見て、哲郎の表情が驚きに染まった。
その人物は哲郎が昨日ぶつかった給仕の少女だったのだ。
「あ、あなたは昨日の……………!!!」
「はい。改めてご挨拶させて頂きます。
田中哲郎さん。」
「?!」
哲郎を更なる驚きが襲う。
目の前の少女はたった今 哲郎を前世の呼び方で呼んだ。
「? どうかしたか?」
「さっき 給仕の女の子とぶつかったって言ったでしょ!? この子がそうなんですよ!!」
「……そうか。だったら話は早いな。」
「それに彼女の今の僕の呼び方! 一体…………」
「少し落ち着け。順を追って説明する。
彼女は朝倉彩奈。
この家で給仕として働いて貰っている【転生者】だ。」