#139 Beginning of the Tempest Part3 ~The three strongests~
ラミエルから巨悪の正体 そして彼女の過去を聞いている哲郎の顔は少しずつ青ざめていた。
倫理観も常識も全く違う異世界で起こっている事とはいえとても人間がやっている事とは信じられなかった。
「………それから最後になりましたがテツロウさん、これはこのラグナロクだけでなくあなたの世界にも危険が及ぶ問題です。」
「!!? 僕の世界に!!?
それってまさか…………!!!」
「そうです。姫塚里香は元々あなたの世界に居た人間がラグナロクに転生してきたのです。
ですから彼女も元の世界に戻って復讐を目論んでいます。それが人一人なのか世界全体なのかその規模は最早把握できるものではありません。場合によってはあなたの関係者にも危害が及ぶ恐れがあります。」
「そ、そんな事………………!!!!」
【復讐】
哲郎もその言葉の意味自体は理解していた。
そして、それを題材にした作品も一定数存在することも知っている。
しかしそれはあくまで創作物の中の話であり、現実で人の命がむやみやたらに奪われる事が起きていい筈がない。
ましてや自分の関係者が巻き込まれていい訳が無い。
「………それを止められるのが僕しかいないという訳なんですね?」
「その通りです。転生者に持たされる能力はみんな魔法を凌駕するものばかりです。転生者に対抗できるのは転生者しかいないんです。」
「そういう事ならもちろんやらせてもらいますよ。だって、その為の【適応】なんでしょ?」
「………………!
ありがとうございます!!」
必死に頭を下げ、そして顔を上げたラミエルの目は悲痛に染まっていた。
自分の恋人 そしてこの世界の全てをたった一人の少年に任せなければならない事を心苦しく思っているように見えた。
「……まだあの世界にいて少ししか経ってないですけど、それでもあそこにはいい人もいい場所も沢山ありました。それを壊されていい筈がありません。守りたいのは僕も同じです。」
「……やっぱりあなたに賭けた私の目は狂ってはいなかったようですね。
重ねて言いますがよろしくお願いします。」
ラミエルの表情からはいつの間にか最初にあった頃の女神じみた胡散臭さは消え、ただ純粋に自分に思いを伝える女性へと変わっていた。
「ではそろそろあなたを夢から出したいと思います。目が覚めても記憶は全て残っていますのでそこは安心してください。」
「分かりました。」
ラミエルを中心に白色の淡い光が広がっていき、哲郎の意識を少しずつ遠のかせていった。
***
「…………………………………………………ん」
意識を取り戻して目を開けると視界に入ってきたのはノアの部屋の天井だった。
やはりラミエルとの会話は夢の中の事であると理解し、それでいてその時の事は全て覚えているという奇妙な感覚が起きる。
(今何時だ?)
時計に目をやると6時53分を示していた。夜の11時に寝て少なくとも7時間30分以上は眠っていた計算になる。実際に哲郎の頭は寝起きとは思えないほどに冴え渡っていた。
「おお テツロウ、もう起きたのか。」
「ノアさん おはようございます!」
「あぁ おはよう。」
声の方に目をやると窓の前でノアが朝日を浴びていた。
「なんだテツロウ 随分と早い目覚めだな。」
「エクスさん! おはようございます。」
扉を開けるとエクスが首にタオルを巻いて歩いてきた。朝起きて顔を洗ってきた後と見える。
「……………? どうしたテツロウ。
そんなに難しい顔をして。」
哲郎は二人に自分が異世界に来た理由を説明する決意を固めた。
「………ノアさん、エクスさん、この前僕は隠し事をされてると言いましたけど、僕もまだ二人に言ってなかった事があったのに気付きました。今話しても良いですか?」
『?』
疑問を示した後、二人は首を縦に振った。
***
哲郎は自分が異世界に来た経緯
ラミエルという女性とラグナロクの破滅を目論む組織の存在
そして里香がその組織の一員であると言う事を順を追って丁寧に説明した。
二人は動揺は見せずに淡々と相槌を打って話を聞いている。
「…………なるほどな。それが本当ならリカ・ヒメヅカがわざわざあんな回りくどい方法を取ったのも納得がいくな。」
「だがそいつが言ってる事は本当に信用出来る事なのか?」
「信憑性は問題ありません。 少し性格に難はありますが、彼女は信頼出来る女性です。
それで頼みたいんですが、この世界を救う戦いを一緒に引き受けてくれませんか!?」
哲郎は必死に頭を下げた。その頭上から『何を言っている?』という声が聞こえ、咄嗟に頭を上げると二人の笑みが見えた。
「俺はもちろん一緒に戦うつもりだがエクス お前はどうする?」
「愚問だな。お前が思っているようにこいつは俺にとっても大切な人間になった。
断る理由など無い。」
哲郎の口からは意識するよりも早く感謝の言葉が出ていた。