#137 Beginning of the Tempest Part1 ~Reunion is sweet and bitter 2~
「そうか もう11時か。
俺達はともかく11歳の少年はそろそろ寝た方がいい時間帯だな。」
エクスの言った事は間違いではない。
哲郎は異世界に来る前は遅くとも夜の11時までには寝るように心掛けていた。
そして今は偽ラドラ達と戦った疲れも完全に取れていない。遅い位の時間だ。
「それは良いんだがエクス、テツロウは寝るとして 俺達はどうする?」
「別に寝ても問題は無いだろ?それにこれ以上起きてたら食べ過ぎてしまうぞ。」
エクスの言葉で哲郎とノアは地面に置かれた容器に視線を送った。そこには依然として少しだけ盛られたポップコーンとピスタチオが入っている。
「寝るのは良いとして、どこで寝れば良いんですか?」
「それは問題無い。お前達が来ると伝えたら母さんが折り畳み式のベッドを借りてきたんだ。今取ってくる。」
「あ、ちょっと待って下さい。」 「?」
部屋を出ようとするのを哲郎が呼び止めた。
「今ので思い出したんですけど、学園の魔人族科に居るなら その ご両親 も魔人族なんですよね?」
「そう見えなかったか? 二人共鍛えていないから魔力は低いが純血の魔人族だ。」
「そうですよね…」
「話はそれだけか? 無いならベッドを持ってくるぞ。」
「お願いします。」
***
午後11時15分
ベッドの用意が終わって哲郎達三人は床についた。
布団の中で考えるのは今までこんなに遅くまで起きた経験がないという事 そして里香から聞いた内容で聞き忘れた事が無いかの確認だ。
(里香が根源魔法を使ったのは機会を見つけてレオルさん本人に聞くとしよう。そのついでに何でノアさんがそれを使えるのかも聞いておくとするか…………。)
偽ラドラこと姫塚里香率いる七本之牙との戦いでの疲労は容易に哲郎の意識を睡眠へと持って行った。
***
……………………さい。
「?」
「…………………テツロウさん、起きてください。」
「!」
目を開けた哲郎の周囲に広がっていたのは一面真っ白な空間だった。しかし哲郎がそれを経験するのは初めてではない。
「お久しぶりです。 テツロウさん。」
「………あなたですか。」
振り返るとそこには哲郎が異世界に行く前に出会った緑の髪の女性だった。
彼女こそが哲郎を事故から救い、異世界に行くきっかけを作った人物である。
「もう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか。せっかくまた会えたんですから。」
「………分かりましたよ。」
その言葉で女性の表情に笑顔が戻る。
「まずは何よりも 魔界コロシアムの準優勝 そして初依頼であるパリム学園のいじめ問題とラドラ寮に勝ったことを おめでとうと言っておきましょう。」
「はい ありがとうございます。」
哲郎は素直に頭を下げた。
そしてすぐに口を開く。
「僕としてもちょうど良かったです。
色々と聞きたい事があったんですよ。」
「はい。言われなくとも分かっています。今言える事は全て話すつもりです。
そのためにあなたの夢に干渉して話していますから。」
「……あの世の次は夢への干渉ですか。
ますます神様じみてますね。」
「…褒め言葉と受け取っておきましょう。」
目の前の女性は一息置いてから話を本題に移す。
「まずは私の名前と正体(という程の物じゃないですけど)から話しておきましょう。
私の名前は【ラミエル】。
今 私は幽霊と精霊の中間のような状態でこの世界に留まっています。」
元々ラグナロクの住人であることを踏まえれば容易に推測できる内容だ。
「……それは良いとして、僕が聞きたいのは彼女の事ですよ。」
「はい。 その事にもちゃんとお答えします。
テツロウさん、あなたは既に自身の目的の取っ掛りを掴んでいるんです。」
ラミエルは先程までの笑みを押し込んで真剣な面持ちで目を開いた。
「と いうことはやっぱり………………」
「はい。偽ラドラ・マリオネスこと姫塚里香はあなたに倒して欲しい【巨悪】の一員です。」
哲郎はさほど驚かなかった。
里香が言った『あの人』という単語と自分の目的を知っていた事を踏まえれば簡単に想像出来る事だ。
「テツロウさん、今この場でそのあなたに倒して欲しい【巨悪】についての事を私の知っている範囲で全てお話します。」
「はい お願いします。」
ラミエルは真剣な顔付きを崩さない。
「と言っても私に話せることは程度が知れていますが、それでもお伝えしておきたいのです。
あなたに戦って欲しい【巨悪】の正体
それは このラグナロクの破滅を目論む【悪の転生者の集団】なのです。」
「!!!」
予め想定していた事だがいざ言われると衝撃が走る。哲郎の頬からは一筋の汗が流れていた。