#136 Excuse me?
「えっと…………
2と8のツーペアですね。」
「Kのスリーカードだ。」
哲郎達三人は夕食 そして入浴を済ませ、ノアの部屋で夜の時間をポーカーで過ごしていた。
「ノアさんの役は何です?」
「もたもたしてないで早く出せよ。」
ノアはカードを持ったまま目を閉じている。
そのきつく結んでいた口元が緩んだ。
「………悪いな。」 『?』
ノアが2人の目の前に5枚のカードを見せた。哲郎とエクスの表情が少しだけ青くなる。
「は、ハートのフラッシュ………!!?」
「これで24戦中俺が12勝だな。」
3人のそばに置かれた番付表にはポーカーの戦績が記されていた。24戦やって哲郎が5勝 エクスが7勝 ノアが12勝だ。
「何かだんだんノアさんだけ出せる役が強くなってませんか?さっきもKとJでフルハウス作ってたじゃないですか。」
「だったら何だ?こんな金も賭けないゲームでイカサマしたというのか?」
「そういう事じゃないですけど……………」
ポーカー自体は友達に勧められて多少の場数を踏んでいる為にこのあまりに低い勝率は認められない物があった。
「………さて、もう十分骨は休められただろ。
そろそろ本題に入るぞ。」
「! は、はい。」
ラドラ寮との戦いでの疲労を少しでも癒すために始めたこのポーカー勝負も気がつけば二時間が経とうとしている。目の前に盛られたポップコーンとピスタチオも既に3分の2以上を食べてしまった。
「それでだ エクス。
あれからミゲルから何か聞いている事は無いか?」
(あ、 やっぱりミゲルさんの事も知ってるんだ。)
ミゲルにとって哲郎との関係は主君がスカウトした少年であり、共にワードと戦った程度の関係である。しかしそれでも哲郎にとっては大切な友人の一人となっている。
「ラドラの事なら あれから寝入ってしまって未だに目を覚ましていないらしい。半年間封印され続けた負担が頭にきているんだろう。
それからもう一つ、無視できない事を言っていたな。」
『無視できない事?』
エクスの含みのある言葉に二人が同時に反応した。
「ああ。ラドラを封印していたあの八面体の容器だが、あれは魔法具ではなくただの容器だと報告を受けた。」 「!!」
人間を完全に封印し、その状態を半年も継続させるなどという事は普通ではない。三人 共にあの紫色の八面体の容器は魔法具の類であると確信していた。
「つまりだ、ラドラに化けていたあの姫塚里香か あるいはその仲間の中に【物や生物を封印できる】魔法を扱える人間がいるという事だ。」
「…………そうか。他には無いか?」
「今はそれくらいだな。
七本之牙の奴らにも目立った動きは無い。」
「分かった。
テツロウ、お前は何か質問はあるか?」
「はい。聞いておきたい事が結構あります。」
哲郎は頭の中で里香に言われた事を整理していた。その全てがこれからの生活を大きく左右する可能性がある。
「まずおかしいと思ったのはファンさんとアリスさんの反応です。」
「あの二人がどうかしたか?」
「はい。初めて二人に会った時 僕の名前を聞いて魔界コロシアムの準優勝者だと驚いていたんです。その時は気付きませんでしたけどそれはおかしいじゃないですか。
それってつまり」
「ああ。それは俺がエクスに話したんだ。」
「やっぱりそうですか。
それと、学園の魔人族科に行った時にレーナって人が凄く怒ってたじゃないですか。それももしかして」
「恐らくは俺がエクス位の人間しか友達に選ばないと勝手に思い込んだんだろう。」
「そういう事ですよね。」
哲郎はレーナとの立ち会いを思い出していた。今考えればあのいざこざさえも自身の中の友情の定義を再確認する貴重な出来事だ。
「聞きたい事はそれだけか?」
「いえ。もう一つあります。
里香から聞いたんですが、僕とノアさんは《不完全な転生者》らしいんですが、それは本当ですか?」
「不完全か。確かに俺は自分の意思でここにいる訳だからそういう言い方もできるな。
あと、エクスもその不完全な転生者だ。」
「えっ、そうなんですか?」
哲郎はエクスの方に視線を送った。
「ああ。前世の俺は貴族の聖騎士として高い地位を築いていた。だから現世の俺には《聖剣》の能力があるんだ。 それと、俺の不完全な所は《他の転生者の正体を察知する事が出来ない》という点だ。」
「察知できない?」
「そうだ。 だからお前がパリム学園に行く時にエクスに言ったんだ。
『これからそっちにラドラ達と一戦やる上で頼れるやつを送る』とな。」
哲郎は返事もできずただ頷くしかできなかった。これでエクスが初めて自分に言った『全てを知っている』という事にも合点がいった。
「他には聞いておきたい事は無いか?」
「いや 今の所はありません。」
「そうか。 ならもう寝るとしよう。」
その言葉にはっとして時計に目をやると既に針が11時を超えていた。