#134 Release the pretender
里香が残していった紙を頼りにパリム学園の校庭から掘り出した物は紫色の正八面体だった。
そしてその中にはラドラが小さくなって封じ込められていた。
そして哲郎は里香が『本物のラドラは封印した』という言葉を思い出した。
***
三人は校庭に立ち尽くす訳にもいかず正八面体を持ったままエクスの家に足を運んだ。
「………つまりその里香か あるいはその仲間が本物のラドラをこの中に封じ込めて埋めたと そういう事だな?」
「そうだと思います。 もっと早くその事を言っておくべきでした。」
「という事はその里香は恐らくパリム学園を乗っ取った後で人形の身体を捨てて本物のラドラに全責任を擦り付けようとしていたという事か…………」
哲郎は封印されているラドラをまじまじと見つめた。その顔は間違いなくついこの前 死闘を繰り広げた男 そして里香が残していった人形の生首と同じ物だ。
「ところでこれ、どうしたら良いですかね?」
「どうするも何も 開けるしかないだろ?」
哲郎の質問にノアが気の抜けた返答をした。
「確かにそうですけど、こんなにがっちり封印されてるのにそう簡単に開けられる訳が
!」
ダメで元々の精神で八面体に力を入れるとまるでペットボトルの蓋が開くかのように少しだけ横に回転した。
「二人共 開きそうですよこれ!
どうしたら良いですか!? もしかしてこれが罠で開けたら爆発とかしませんかね!!?」
「落ち着け。 それが罠である可能性は低い。
本来それは里香かその仲間の手で開けられる筈だった物なんだ。そんなものにわざわざ罠を仕掛けるとは考えにくい!」
「あ、す、すみません。
取り乱してしまいました。」
エクスの言葉で我に返った哲郎は一旦 大きく息を吸って再び八面体に手を掛ける。
「………じゃあ開けますよ? 一応の警戒はしておいて下さい。」
「問題ない。もしもの時は俺達で防御する。」
哲郎は意を決して八面体に手を掛け、全力で捻った。その空いた口から放たれた眩い光が三人の目を襲う。
「うおっ!!!?」
八面体から光と共に爆風が吹き荒れ、そばに居た哲郎は強く突き飛ばされた。風にあおられる身体をエクスが受け止める。
「大丈夫か!?」
「ええ。風だけで罠の類ではありませんでした。 それよりも━━━━━━━━━━━━」
目の前に立ち込める紫色の土煙に視線を送る。
少し時間が経って煙が晴れていく。
「…………………!!!」
煙が晴れた場所に居たのは紛れもないラドラ・マリオネスだった。しかし身体を丸めて地面に寝そべるその姿はついこの前死闘を繰り広げた男の物とは完全に違っている。
「…封印の解除には成功したようだな…………。」
「と、とりあえずベッドのある部屋に運びましょうか…………………
!」
様子を伺っている間に目の前のラドラの目が開いた。まるで深い眠りから覚めた時のようにまるで緊張を感じない。
「ここは僕がなんとかします! 早く水を持ってきて下さい!」
咄嗟に二人に指示を出して哲郎は起き上がるラドラの元へ駆け寄った。
「………………!!」
すぐに駆け寄らなければならない事は理解していたが一抹の恐怖は拭い切れなかった。
目の前の男の顔はやはり戦いを繰り広げたラドラと瓜二つである。
(………落ち着け……………!!!
この人はこの前のラドラとは別人なんだ…………!!!)
震える腕を抑えて恐怖を心の隅に追いやる。
「…………ここは………………………?」
「!」
その口から出た言葉はあまりにも弱々しく、今まで戦ってきたラドラの物とは別物である。
「ここは《レイン》という家の屋敷です!あなたは封印されていたんですよ!!」
「ふ、封印………………!!?」
「そうです! 僕は田中哲郎といいます!
一体何があったんですか!!?」
「な、何が…………………??!
!!!!」 「!!!?」
突如 ラドラの表情が豹変し、頭を抑えて蹲ってしまった。
「……そ、そうだ……………!!!
僕は後ろから襲いかかられたんです!!!」
「襲いかかられた? それは何時ですか?」
「いつ…………!?」
しばらくしてラドラが言った日付は今から半年ほど前の物だった。
「は、半年!!??
僕は半年も封印されていたというんですか!!!?」
「残念ですが それは本当です。(半年前という事はレイザーが言っていた事と一致するな。)
どこで襲われたか そして襲ってきた人の顔は分かりますか?」
「……顔は分かりませんが襲われたのはパリム学園の寮内でです。僕はそこで憚りながも寮長をやっていました。」
(寮長? という事は一応の実力は持っていたのか?だから里香達に目を付けられた?)
「分かりました。どこか身体が痛む所はありますか?」
「身体は痛くないけど頭が少し痛みますね。」
「そうですか。ではベッドを用意しているので案内します。 付いてきて下さい。」