#133 The sonar
哲郎達は最短距離を行く為に人目を避けながら空を経由してパリム学園 人間族科の校庭に着いた。
「………確かに地図の点はここを指していますね。だけどここからどうやって探すんですか?」
偏にパリム学園の校庭という限られた範囲からから探すと言っても地下に埋められた小さな何かを探すとなれば話は困難を極める。
更に地図では座標の数字を四捨五入してかろうじてパリム学園の位置を割り出しただけで詳しい位置が分かった訳では無い。
「ノアさん、地下に探索魔法とかかけられませんか?」
「かけること自体は簡単だがそれは簡単じゃないな。一点ならともかくこの校庭全部にそんなものを掛けたら人目に付く。
人に見つかったらこんな場所で首を揃えて何をやっているのか聞かれでもしたらどう言い訳をつけるんだ?」
「そうですよね。」
現状 ラドラが姫塚里香である事を知っているのはこの場にいる三人を除いてはファンやアリス達と七本之牙しか居ない。
無関係の人間に本当の事を言える筈はない。
「ならどうやって探します?
まさかこの校庭を全て掘り返す訳にもいかないでしょう?」
里香が残した座標から分かったのはパリム学園の校庭 という【場所】だけで【深さ】が分かった訳では無い。
里香の残した【何か】を探し出すためには《校庭のどこに埋まっているか》そして《どれくらいの深さに埋まっているか》を知る必要がある。
「それで考えたんだが、」 「?」
後ろからエクスが声を掛けた。
「《魚人波掌》を地面に打ち込んで探す事は出来ないのか?」 「!」
エクスの提案は即ち 波を潜水艦のソナー音のように利用して伝わる波の違いから埋まっている場所を割り出すという物だ。
「上手くいくかは分かりませんがやってみる価値はあると思います。この校庭の中心地はどこか分かりますか?」
***
哲郎が案内されたのはマキムの時もご飯を食べていたベンチが置かれた中庭だった。
「……じゃあ今からここに打ち込みます。
終わったらすぐに地面に耳を当てて音を聞いて下さい。」
「分かった。」
哲郎は地面に片膝を付いて手を当てた。
「行きます!!」
地面に手を付いた状態で肩と腕の関節を稼動させて地面に渾身の衝撃を打ち込んだ。
石造りでない普通の土は魚人波掌の衝撃を良く通す。 衝撃を撃ち込むとすぐに三人とも寝そべって地面に耳を当てた。目も閉じて聴覚に全神経を注ぐ。
傍から見れば異様かつ人目に付きかねないこの状態はそう何度も続けられない。一度で場所を割り出す必要がある。
『……………………!』
三人の耳に違和感のある音が伝わった。
「二人共、今の音 聞こえましたか!」
「間違いなく聞こえた! ここから八時の方向! そう遠くないぞ!!」
三人はすぐに立ち上がって校庭を駆け出した。
***
「………ここだな。」
三人が着いたのは校舎裏に近い人目につかない場所だった。
「周囲は木に囲まれている。 物を隠すにはなるほど最適な場所だな。あの程度の深さなら俺の剣で十分 掘り起こせる。」
エクスは手の魔法陣から剣を召喚し、地面に向けて鋒を向けた。
「あの エクスさん、確認しておきたい事があるんですけど」
「? 何だ?」
「エクスさんも【転生者】という事は、その剣も魔法じゃなくて僕と同じような【能力】なんですよね?」
「ああ そうだな。
世間には《無限之剣》という魔法として通しているが、本当は《聖剣》という能力だ。
聞きたい事はそれだけか?」「はい。」
「そうか。 なら始めるぞ。」
地面に向けたエクスの剣が光り、そこから光が伸びて地面に突き刺さった。
「このまま慎重に地面に向けて伸ばしていくぞ。物に当たったら先を曲げて掘り返す。」
哲郎とノアは首を縦に振った。
そこからの数分は動きも音もない異質な緊張感が続いた。
「…………………!
何かに当たった! このまま剣を回して掘り起こすぞ!」
剣先を曲げて地下の物をすくい上げた状態で剣を回しながら刀身を短くしてなるべく土を傷つけずに掘り起こす。
「出たぞ!!」
「こ、これは………………?!」
曲げられた刀身に包まれていたのは土の塊だった。里香が残していった何かはこの土の中にある。
「エクスさん、その土 見せてくれますか?」
「分かった。」
刀身に包まれていた土の塊を指で崩しながら慎重に調べていく。
「! 何か入ってます!」
哲郎は土の中に薄い紫色の物体を見つけた。
掘り返すとそれは半透明の紫色の正八面体だった。
「………これが彼女が残していったご褒美…………………?
!!!!?」
「どうした!!?」
哲郎の表情がみるみるうちに青くなっていく。
「こ、この中の物を見てください…………!!!」
『!!? これは……………!!!?』
正八面体の中に入っていたのはラドラ・マリオネスだった。