#132 Mening of the strange number
哲郎は目の前の生首を凝視する。
ついこの前 この人形と死闘を繰り広げたという事が信じられないほどにラドラの表情には生気が無かった。
「………木の触感を人肌に変える魔法式ですか………………。」
ラドラとの戦いで数回は彼の素肌に触った。
その当時はこれが木でできているなどと夢にも思わなかった。
「………にわかに信じられないと言いたげな顔だな。 まぁそれも無理はない。
こいつに組み込んであったのはかなり高精度の魔法式だったからな。」
生首を囲んだ三人の表情は依然として曇っていた。依頼の延長として身を投じたこの戦いが思わぬ方向に転じた運びだ。
「あぁ そうだ。」
「? どうした?」
哲郎が突然 何かを思い出したかのように口を開いた。
「ノアさんは学園の生徒として ラドラに会った事は無いんですか?」
「それなら一回だけある。魔人族科と人間族科との交流会少しだけだがな。」
「その時 なにか違和感とか、ただならない雰囲気とか感じたりはしませんでしたか?」
「……そうだな どこか変わった奴だとは思ったが、これといって変な物は感じなかった。
少なくとも 奴が転生者だとは全く分からなかった。」
「そうですか。」
ノアとエクスは交流会でラドラと会った時のことを思い出していた。当初は無口で無愛想な男 程度にしか思っていなかった彼が人間そっくりの人形に身を包んだ少女だったと考えるとなんとも言えない気分になる。
(………この人形の首からも大した情報は得られなかったな………………) 「アッ!」
「何だ? 今度はどうした?」
再び哲郎ははっとして口を開いた。
「確か僕はこの生首と一緒に二枚 紙を送りましたよね?」
「ああ。あの女の写真ともう一つ紙が入っていたが、それがどうした?」
「そこに書いてあった文字の意味って分かりましたか?」
「文字の意味だと? ちょっと待ってろ。」
立ち上がって机の引き出しを探る。
数秒もしない内に手に紙を持って戻ってきた。
「紙とはこれの事だよな?」
「そう それです。」
ノアが持ってきた紙には《N:46.957》と《E:55.263》いう奇妙な数字が記されている。
哲郎にはその意味が分からなかった。
「……………………!」
「どうした? エクス」
「もしかして 何かわかったんですか!?」
紙を見つめていたエクスの眉が上がった。
「これ、もしかして【座標】じゃないのか?」
『【座標】?!』
哲郎は再び紙に視線を送った。
エクスの言葉を踏まえて考えると《N:46.957》の《N》が北を表す《North》の頭文字
《E:55.263》の《E》が《East》の頭文字を指しているように見える。
「【座標】って地球をマス目状に区切って二つの数字で場所を決めるっていうアレですか!?」
「ちょっと待ってろ! いま地図を取ってくる!」
***
ノアが持って来た異世界の世界地図はやはりち地球の物とは全く違う物だった。
マス目状に線が引かれており、座標を調べるには最適な物となっている。
「………この地図の形って、【ミラー図法】ですよね?
方位は正しくないけど面積は正確っていう」
「そうだ。
この数字が座標を表しているのだとしたら、この紙の数字は【北緯46.957°】と【東経55.263°】を意味することになるが、」
「早速 やってみましょう!」
二本の定規を北緯47°と東経55°の位置に合わせ、線を引っ張る。
(もしその場所が海に当たったら座標だという考えは間違いかもしれない だけど) 「!」
二本の線が交差した所に点で印をつけると、その場所は大陸を指していた。
二つの数字は座標を意味していたという仮説が一気に信憑性を帯びる。
「やっぱりあれは座標だったんだ!
だとするとこの場所に里香が何かを残していったとみて間違いなさそうですね!」
気持ちが昂って二人の方を見ると、何故かその表情から動揺が見て取れた。
「えっ? どうかしたんですか?」
「おいエクス この場所は…………」
「ああ。 間違いない。」 「?」
エクスの頬からも汗が垂れているように見えた。ラドラとの戦いが終わって初めて見る表情だ。
「この場所、パリム学園の人間族科だぞ!!!」
「えっ!!!!?」
哲郎は再び地図に書かれた点に目をやった。
その場所は白い多角形の中心部分を指していた。
「そんなまさか!! 僕もマキムとして学園でしばらく過ごしましたけどそんなおかしな物なんて落ちていませんでしたよ!!」
「落ちていないとなるとどこかに埋まっているんだろう。
こうしては居られない。すぐに学園を探すぞ!!!」