#13 I have a weapon
「武器……だと……!!!?」
哲郎は確かに自分に武器を使うと言った。しかし、それはありえない。彼の両腕は今、根源魔法で麻痺しているからだ。
もっとも、麻痺で済むはずのない攻撃だったが。
『武器を使うと言いました!テツロウ選手!!
彼の体は既に満身創痍!!!
遂に決着の時か!!!?』
アナウンサーの声に応じるように、観客の熱狂も再び最高潮を迎えた。
哲郎が何を考えているかは分からないが、それをやらせる訳にはいかない。
根源魔法を使った反動は大きく、全身を激痛が走っているが、魔界公爵家の名にかけて、こんな所で不覚を取る訳には行かない。
そのことは、彼の身体をさらに動かした。
「終わりだ!! 《白雷》!!!!」
「!!!?」
『こ、これは 何という光景でしょうか!!!
レオル選手、両手で白雷の乱射を始めた!!!
これは決定打になるのか!!!?』
何故だ…………!!!!
何故この下等種族は倒れない…………!!!!!
レオルの口から、腕から、手からどくどくと血が吹き出した。根源魔法を使った身体は限界を迎えているのだ。
両腕を動かせない哲郎の身体に、白雷は確実に当たっている。しかし、彼が倒れる気配も自分が勝つ予想も全くしなかった。
倒れろ!!!
倒れろ!!!!
倒れろ!!!!!
レオルの虚ろな意識は、その一つに集中していた。しかし、それも終わりを告げる。
「……タイムリミットだ」 「!!!?」
哲郎の意識と腕が、完全に復活した。
『テ、テツロウ選手、走り出しました!!
ここから何を見せる!!?』
哲郎が一瞬でレオルとの距離を詰めた。そして空高く飛び上がった。
そこからは一瞬だった。
「ッッ!!!? 貴様……ッッ!!!!」
「終わりです。」
ズダァン!!!!!
「!!!!!」
哲郎が落ちる反動を乗せてレオルの首に組み付いた。そのまま一回転して全体重をレオルの首にかける。
レオルは後頭部から地面に叩きつけられ、辺りに血飛沫が舞い、レオルは完全に動かなくなった。
哲郎以外の全員、何が起こったのか分からなかった。
哲郎の体力も尽き、その場に仰向けに倒れた。それが場内に決着を告げた。
「しょ、勝負あり!!!!!」
『決着ゥゥゥーーーーーーーー!!!!!
テツロウ・タナカ ゼースに続きレオル・イギアを打ち破ったァァァーーーーー!!!!!
彼の言う武器とは、この武道場の地面のことだったのです!!!
イギア家の血筋を退けてテツロウ・タナカ
遂に準決勝に駒を進めたのです!!!!!』
アナウンサーと観客達が熱狂に包まれる中、哲郎はよろけながら立ち上がった。
そして、
『こ、これはどうしたことでしょう!!?
テツロウ選手、レオル選手を抱えました!!』
哲郎はレオルを抱え、レフェリーの元に歩いて言った。
「彼を早く医務室へ!!」
『これは驚きました!! 齢11 テツロウ・タナカ!!なんとレオル選手の身体を気遣っています!!! なんと美しい光景!!相手の健闘を称え、敬意を表す これもまた魔界コロシアムのあるべき姿と言えましょう!!!!』
アナウンサーの言葉により、観客席の熱狂は次第に拍手に変わっていった。
その観客席に一礼し、哲郎は去っていく。
その姿に命を軽んじたレオルへの怒りは微塵も無かった。
***
(……これは どういうことなのだ…………)
ベッドの上でレオルは思考を巡らせていた。
自分が負けた事はすぐに理解出来た。
そして、ここが医務室だということも。
両手両足はベッドの端に縛られており、口には枷がつけられている。何より分からないのは、魔法を使えないようにされていることだ。
「兄者!!!」
医務室に男が入ってきた。レオルの実弟 ゼース・イギアである。
「返事はしなくていい。ただ、ある奴から伝言を預かってんだ!!」
(伝言?)
この状況で言う事のある人間は1人しかいない。
まず、自分をこうするように指示したのは哲郎だった。
きっと目を覚ましたら、自害しようとする筈だから、それをさせないように両手両足の自由を奪うように と。
それから、舌を噛み切ることもないように、口に枷もつけて欲しいとも言ったそうだ。
レオルの顔は苦痛に歪んだ。それは肉体ではなく、敵に情けをかけられた故だ。
「それからもう2つ、伝言があんだ。」
まだ何かあるのか とレオルは意識を向けた。
「まず1つは、自分の"完全決着の定義"は、あなたとは違い、『相手の思うことを1つもさせずに倒す』ことだと。
それから、これは情けではなく、あなたという誇り高い戦士への敬意のためだ と。
あいつはそう言ってたぜ。」
「………!!!!!」
レオルはその言葉でハッとした。
自分の考えを、あんな子供に見透かされていたのか と。
そして 瞼から一筋の涙が零れた。
叶うことなら、「完全に私の負けだ」と声に出して言いたかった。
***
息を切らしながら、哲郎は廊下を歩いていた。
「テツロウ選手、準決勝を戦えますか!!?」
「……休めば 何とかなります…………。」
レフェリーに哲郎は息を切らしながら返答した。彼はレオルへの怒りを完全に断ち、意識を準決勝にだけ 集中させていた。