#127 The Overture of catastrophe Part2 ~Fact of Fake~
目の前の姫塚 里香と名乗ったこの少女は自分を【転生者】と宣言した。しかしそれを疑う事は出来なかった。
先程までの魔法とは思えないほどの戦闘法の多さがそれを証明している。
「あれ? その顔は『何で僕も転生者だって知ってるんだ』って顔だね?
じゃあ逆に聞くけどさ、そもそも何でノアは君が転生者だと分かったんだと思う?」 「!!?」
その言葉で思い出すのは魔界コロシアムの決勝戦での出来事。
対戦相手のノアは哲郎が転生者だと簡単に見抜いてみせた。哲郎は単純に彼にその能力があると根拠も無く結論づけていた。
「………何かちゃんとした理由があるって言うんですか……………!?」
「ちょっとちょっと! 少しくらいは考えないと勉強にならないよ〜?」 「!!!」
哲郎の四肢の自由が封じられているのをいい事に里香は至近距離で煽り立てる。
「まぁボクは親切だから教えてあげるよ。
それは【転生者には転生者を見抜く】能力が備わってるからだよ!」 「!!??」
一瞬 突拍子も無いことを言われて驚いたがすぐに意識を里香の方へと向ける。
「…………でたらめを言うのは止めてください。」
「?」
「すぐにバレるような嘘をつくなと言ってるんですよ!!!!」
人を食ったような里香の言動に怒りが臨界点を超え、怒鳴り声を上げてしまう。
「え〜? 何でそう思うの?」
「僕はそんな経験一度もした事ありませんよ!!!
今だってあなたからは何一つ感じない!!」
「君こそ何言ってるの? そんなの当たり前じゃん。」 「?!」
里香は哲郎の言っている事が分からないというような表情を浮かべた。
「まぁ君が異世界に来て少ししか経ってないってのもあるけどさ、君達は【不完全な転生者】だもん。」
「??!!」
哲郎の表情が更なる疑念に染まった。【不完全】という言葉の意味が掴めない。
「じゃあ聞くけど君、死んでないのに転生してきてるじゃん?」「!!!」
哲郎の記憶が正しければ自分は列車事故から救われてこのラグナロクにやって来た。哲郎自身 【異世界転生】という物にそこまで詳しくはないが、友達が熱弁してくれるその手の主人公達は例外なく《一度死んでいた》。
しかし今の哲郎は死んでおらず容姿も記憶も年齢もそのままに【適応】の能力を持ってこのラグナロクに来ている。
今考えてみればそれは明らかにおかしい事だ。
哲郎は一命を取り留めたことが嬉しくてその事に今まで意識を向けてこなかったのだ。
(………何で気が付かなかったんだ………………!!)
「やっと分かった? それはね、君の【死んでいないこと】と【容姿記憶年齢が前世のまま】って点が不完全だからなんだよ。」
「………………………!!!」
里香の言葉の一つ一つに圧倒されていた。そして同時に何故敵であるはずの彼女がこんな事を教えてくれるのかという疑問も抱いていた。
少なくともラドラという無関係の人間を巻き込んでまで人間を無差別に人形に変えるような人間が善人である筈がない。
「あ、それから何でわざわざこんな事を教えてくれるのかも教えてあげるね!
ボクもよく説明されて無いんだけど、『どうせすぐにバレるしバレても問題ない』って言ってたよ!」
(……………!!!
この人のバックに更に誰が居るというのか!!!)
哲郎はそこまで考えてから更に里香の発言に違和感があった事に気付いた。
「待って下さい!」 「ん?」
「先程 君達と仰いましたね!という事は━━━━━━━━━━━━━」
「ん? あー、ノア?
あいつはね、【自分の意思で転生した】ってのと【ラグナロクで死んでラグナロクにもう一回生まれ変わった】ってのが不完全なんだって。」
「だけど彼は僕が転生者だって事を見抜いたんですよ!?」
「それはあいつが単純に転生してから年月経ったからだよ。君にも遅かれ早かれその力がつくよ。」
「そうですか………………。」
「あれ? 聞きたいのはそれだけ?」 「!!!?」
安堵の息を漏らしそうになった哲郎に更なる追い討ちが襲った。里香の『それだけ』という言葉は【哲郎とノア以外に転生者がいる】という事を意味していた。
「なーんだ。てっきりもうとっくに気付いてると思ってた。」
「一体誰なんですか その転生者は…………!!」
「んー 別にヤダって断っても良いんだけど君はボクに勝ってるからねー。
分かった!特別に教えてあげる!」
「…………………」
教えてくれるのが素直にありがたい反面、恩着せがましい態度が少しだけ鼻についた。
「エクスだよ! 君が必死に恩返ししようとしてたあいつも転生者だったの!
ってあれ?あまり驚かないんだね。」
「……ええ。 何となくそんな気はしてました。
わざわざ聞いたのは早くその確信が得たかったからですよ。たとえ断られても自分で確認を取るつもりでした。」
「もー! そんな事言わないでよー!
じゃあさ、もう一つ耳寄りな情報教えたげよっか?」 「?」
「あー! やっぱりその顔 気づいてなかったんだねー!
ノアとエクスはね、君に自分達がお友達だったって事を隠してたんだよ!」
「??!!!」
哲郎に最後にして最大の衝撃が襲った。