#124 The Unbreakable Marionette
空気中の《海鼓》の衝撃は肉眼では視認できないが、それを撃った哲郎にはその軌跡を確認することが出来た。
掌から放たれた衝撃波は細長い槍となってラドラの後ろの操り人形へと急接近する。
視界を人形に共有しているラドラの身体は振り向かないが、それでも哲郎の攻撃が弱くなる道理はなかった。
(急所に当たらなくてもいい! 手でも腕でも攻撃出来れば操り人形の動きを妨げられる!!!)
「……………甘いな君は。 本当に甘い。」
「!!!?」
ラドラを操る人形の前方に糸を編み上げて盾が作られ、《海鼓》の槍を防いだ。
哲郎の頭の中ではっきりと勝機が崩れる音が響いた。
「…………………!!!!」
「なぜ私があの人形の秘密をペラペラと喋れたと思っている?それを知られた所で私が不利になる事は決してないからだ。」
今のラドラは巨大な人形に操られる哲郎との攻防を客観的に見る《操り人形》だ。そして彼を操る人形も哲郎の《海鼓》を容易く防いでみせた。
この状況で哲郎に出来ることは最早 一つしか無かった。
地面を全力で蹴ってラドラとの距離を詰める。
「このままあなたを通してあの人形を破壊する!!!!」
「それが出来ないと説明したつもりだったんだが?」
ラドラの言葉は耳に入れずに彼の顔面目掛けて左手の掌底を見舞う。ラドラはそれを顔色一つ変えずに右に流して哲郎の体勢を崩す。
崩れた体勢を逆に利用して身体を翻し、顎を狙って懇親の蹴りを見舞う。
ラドラはその蹴りを上半身を仰け反らせて躱した。
「それを待ってたんですよ!!!!」 「!!?」
哲郎は空中で身体を縦方向に回転させてラドラの上に陣取り、下方向に掌底を構えた。
「魚人波掌 《打たせ滝水》!!!!!」
「!!!」
ラドラの胸に哲郎の掌底が直撃した。そのまま全体重を乗せて地面へと激突させる。
━━━━━━━━━ピシッ 「!!」
哲郎が音のした方に視線を送るとラドラを操る人形の胸にほんの少しだけひびが入って欠け、破片が一つ崩れて落ちた。
(やっぱり ラドラを攻撃すればあの人形にダメージがあるぞ!!)
「…………何を嬉しそうな顔をしている?」
「!!」
人形にダメージがあった事を確認している哲郎目掛けてラドラの拳が下から襲う。哲郎はそれを半身で避けてその手首を掴み、体重を後ろにかけて腕を取って倒した。
「!!」
(この腕を奪えばあの人形の腕が動かなくなるかラドラの腕が動かなくなるか とにかく事態は好転するはずだ!!!)
今の哲郎には最早身体を傷付ける云々の問題を考慮している余裕はなかった。とにかく全力を尽くしてラドラの身体の動きを奪う事に専念する。
「!!?」
その直後、哲郎の背中に浮遊感が走った。見てみるとラドラは腕に哲郎をしがみつけさせたまま立っている。凝視するとラドラの腕はもちろん 哲郎の身体も糸で吊り上げられていた。
その状況は完全に公式戦の時のアリスと同じだった。
(………だったら次は………………!!!)
「そうだ。」 「!!!」
人形に操られるラドラの腕は容易く哲郎の身体を振り回し、そして軽々と投げて見せた。
地面に激突するのを避けるためにラドラの手首を離し、空中で回転しながら体勢を立て直して着地を取る。
「!!!」 「終わらせて貰う!!!」
着地を取る時には既に哲郎とラドラとの距離が詰まっていた。そしてラドラは拳を握りしめた右腕を引いて哲郎に向けて構えている。
それこそが哲郎が待ち望んでいた好機だった。
眼前に飛んでくる拳を半身で避けてその手首を掴み、自分の方へ引き寄せる。
魚人波掌 《引き潮》!!!!!
「!!!」
前方に寄ってくるラドラの鳩尾を狙って渾身の掌底を放つ。人形の腹部を破壊せんばかりの衝撃を叩き込んだ
つもりだったが掌から伝わる手応えは今ひとつ足りなかった。
(!!? こ、これは……………………!!!)
哲郎は確かにラドラの手首を掴んで身体の自由を奪っていた。しかしラドラの上半身は宙に浮いて哲郎の掌底の衝撃を受け流している。そして彼の両脚も宙に浮かんでいた。
ラドラの上半身は糸につられていたのだ。
「!!」
攻撃が不発に終わって動揺している哲郎の鼻を狙ってラドラの蹴りが襲う。それを間一髪の所で躱して再び距離を取る。
「………君のその奇妙な攻撃 レイザーやワードには効いても今の私には全く効いていないぞ。
そもそも君の攻撃で受けるダメージなんて私の治癒魔法ですぐに回復できる程度しかない。」
「!!!」
哲郎が必死の思いで食らわせたラドラの後ろの巨大な人形のひび割れが即座に修復されていく。
(……………………!!!!
小技を重ねていても一向に埒が明かない!!
やっぱりあれしかない!!!!)
哲郎は再び構えを取ってラドラと相対した。